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1999年3月26日(金)

【罠解除士鍛錬場:宮本 紳・飯島 志保・村田 恋歌】
「飯島さんはそろそろ俺の指導はいらないかな」
 目の前で亜獣探知の鍛錬を行っている飯島 志保と村田 恋歌を見つめながら宮本 紳は言葉を漏らした。ここは午前中の罠解除士鍛錬場。本日もたくさんの罠解除士が鍛錬を行っている。本日朝から少し予定があり、少し遅れて鍛錬場にやって来た宮本であるが、弟子の飯島と村田が亜獣探知の鍛錬を集中して行っていたのに気付く。そこで、その鍛錬の邪魔をしないように静かに近き、二人の様子を確認していたのである。亜獣探知の鍛錬は罠解除とは違い、成長が非常にわかりづらく、またどうすれば成長できるのかというのも今だに体系化されていない。なので指導する際も、罠解除に関しては具体的にテクニック等の指導ができるのであるが、亜獣探知に関しては感覚が人それぞれ違うものになるので、アドバイス的なことしか出来ないのだ。そこで罠解除士は自分で亜獣探知の能力の伸ばし方や、技術的なものを習得しないといけないのであるが、それを飯島はすでに習得出来ている様子なのである。
「あ、宮本さんお疲れ様です」
「お疲れ様です」
 亜獣探知に集中しつつも、近くに宮本がやって来た気配を感じた飯島が挨拶の言葉を発し、その声を聞いて村田も挨拶を行う。その2人の挨拶を聞いて、宮本は特に返事を返すわけでもなく、簡単な身振りを用いて、鍛錬を継続するように伝える。それを確認し、2人は鍛錬を継続した。そして規定の鍛錬時間に達したので2人は大きく息を吐いて、宮本の方向へ再度視線を向ける。
「いやいや、まだまだ宮本さんの指導が必要ですよ」
 先程漏らした宮本の言葉に対して飯島が返事を返す。あのように言われたのは嬉しいことではあるが、自分の実力を考えるとまだまだ指導が必要だと考えているのだ。
「亜獣探知に関してはもう教えることはないよ。罠解除は別だけどね。それにいずれ20期も入ってくるからね。弟子卒業だよ」
 弟子をもう卒業できると評価した宮本の言葉を聞いて、飯島は少し寂しそうな表情を浮かべる。だが確かに20期が入ってくれば必然的に自分はこの師匠制度から外れるので、そこはそれで仕方がないと割り切ることにした飯島であった。

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