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2025年2月26日(水)《GB》

《今年は64期と65期が引退適齢期。それ以前の部隊では秀知院学園部隊とゆるキャン部隊が引退です》
【冒険者組織大ホール:引退セレモニー】
「今回引退する冒険者の皆様の新天地での活躍に期待しつつ私の挨拶を終わりたいと思います。ありがとうございました」
 セレモニーの序盤で挨拶を指名された冒険者組織副長官の豊嶋 翔が、いつものようにか細い声をマイク音量MAXで会場に響き渡らせ、会場から大きな拍手が湧き上がった。ここは17時過ぎの冒険者組織大ホール。本日は今季限りで引退を決めている冒険者たちの引退セレモニーが行われている。17時ちょうどに始まったセレモニーは司会の山内 亜弓の進行で進められ、挨拶を求められた豊嶋の真面目な挨拶がなされたのである。普段から真面目で通っている豊嶋なので、冒険者たちからの信頼も厚く、引退する冒険者たちは豊嶋のメッセージに涙ぐんでいるものもいるようだ。
「ではみなさま飲み物の準備は大丈夫ですかー」
 明るく元気に山内が参加者全員に呼びかえる。すると全員が飲み物の準備万端のようであり、そのことを確信した山内が口を開く。
「では中町さん。乾杯の挨拶をお願いします」
 引退セレモニーの乾杯は時の長官が行うことと決まっており、現在長官である中町 雄馬が乾杯を依頼されて席を立つ。
「それでは引退するみなさまの前途を祝して・・・の前に、今日も豪華な料理と飲み物が用意されてますが、私の実家の海苔もたくさんもってきたので、皆さま是非いただいてください。もちろん余った分はお土産でお持ちいただいても構いません。ということでカンパーイ」
「カンパーイ」
 よく意味がわからなかった中町の乾杯であったが、そこはあまり気にせずに冒険者たちはグラスを掲げ合った。この後しばらくはフリータイムであり、引退する冒険者たちがお世話になった教官や先輩たちに挨拶に回る。そして引退しない冒険者たちは美味しい料理とお酒をこれでもかと楽しんでいるようだ。この状況がしばらく続き、ある程度の時間が過ぎた後でまた会場に山内の声が響く。
「では冒険者と引退者を代表してそれぞれスピーチを行っていただきます。田中くんと富田くんお願いします」
 この声を聞いて田中 雄二と富田 正継が壇上に向かう。
「では引退者を代表して、お疲れ様です。ゆるキャン部隊隊長の田中です。この度は部隊全員の総意としてこのタイミング引退することになりました」
 引退者を代表して田中がスピーチを始める。冒険者を始めて、部隊の仲間たちと一緒にたくさんの思い出を作ってきた。今回引退することになったが、これまでの経験は決して無駄になることはないだろう。これまでの感謝と今後の決意が十分に伝わるスピーチであり、会場全体が感動の雰囲気に包まれた。そしてマイクを隣にいる富田に渡す。
「えっと、皆様お疲れ様です。残留組を代表してスピーチを頼まれた富田です」
 何やら恐る恐るスピーチを始めた富田の言葉に会場は不穏な雰囲気に包まれる。
「実はお願いされていたのをすっかり忘れてまして、すでに酔っ払って良くわからない状況です」
 これを聞いて会場のあちこちから失笑とため息が聞こえてくる。柱として普段はある程度きちんとしている風な富田であるが、アルコールが目の前にあると自制が効かなくなるタイプであり、とりあえず限界まで飲み続けるのだ。今日のこのセレモニーもアルコールはほぼ無限に準備されているので、乾杯の挨拶以降富田は飲み続けていたのだ。
「でもまあ、自分なりに話せることを話そうと思います」
 こう言った後で、たまに呂律が回らないような箇所もあったが、引退するメンバーに対して一緒に冒険者としてやってきた感謝の気持ちと今後の激励の言葉を熱く語る。全体的な構成は雑ではあったが、富田の気持ちは十分に伝わったらしく、引退者たちは感動し涙を流しているものもいたのである。この後は無事にセレモニーも終演となり、参加者たちはこれにて解散となる。そしてまだまだ元気な冒険者たちは2次会3次会と夜遅くまで別れを惜しむように飲み会を続けたのであった。

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