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1996年8月24日(土)《BN》
【道:前田 法重・中島 一州・原田 公司・大塚 仁・中尾 智史・本田 仁】
「いやー、勝ったと思いましたけどね」
「返球が完璧だったよね」
かなりお酒が進んでいる中尾 智史が発した言葉を聞いて、大塚 仁も感想を口にした。ここは居酒屋『道』。本日もたくさんの客で店内は賑わっている。前田 法重とルソー5の面々たちも当然のように飲み会を始め、今日もハイペースでアルコールを消費している。8月21日に行われた夏の甲子園決勝。松山商業対熊本工業の戦いは延長11回までもつれ、6対3で松山商業が勝利し、優勝を飾った。この試合において両チームとも他に得点を奪えるチャンスは何度かあったが、特に10回裏の熊本工業。1アウト満塁でライトに大飛球が上がる。これを見た観客は誰しもがタッチアップで点数が入り、サヨナラで試合終了と思ったに違いない。だがライトのバックホームは一直線にキャッチャーに向かい、ドストライク。際どいタイミングであったが判定はアウトであった。この瞬間、愛媛県民は歓喜の声、熊本県民は悲鳴を上げたのは想像に難くない。
「あれはしゃーないよ」
「アムロありますよね」
優しい口調で中島 一州が言葉を漏らし、それを聞いて本田 仁が良く意味がわからない返事をした。この試合には熊本県民にとって、夏の甲子園悲願の初優勝がかかっており、それがあのタッチアップのわずかな運命の揺らぎによって阻止されたことはしゃーないと評価する以外にはないのである。ちなみに今本田が口にしたアムロあるという言葉は、富田 剛が良く口にする言葉であり、シャーがないならアムロはあるだろうというロジックらしい。だが、シャーがいないからといって必ずアムロがいるわけではないので、そのロジックは根本的に間違っているのである。