別世界では別職種だった件 ホンダ編 第8話
第8話 クエスト
「何か最強のチームって感じじゃねー?」
非常に嬉しそうな表情を浮かべて、トミタがこの様に発言し、それを見てメイとサクヤも笑顔で頷いている。このメンバーで仕事をこなすようになって約半年が過ぎようとしている。元々はメイを白昼屋で過ごせるようにするためにトミタが多額の借金をしたのが始まりで、その借金返済の手助けをホンダとリンドが手伝っているような状況だ。請け負う仕事は簡単なものから非常に危険なものまで含まれたが、5人で協力してどんな困難も乗り越えてきたのである。ただ、これだけ頑張ってはいるが、トミタの借金はあまり減る兆しを見せない。それは借金には金利というのがついて回るからだ。今回の借金を行う際にトミタは関係各所に金策を申し出たが、気持ちよく貸してくれる人はいなかった。そこで金貸しの専門家にお願いすることにするのだが、そこは相手もプロである。法外とも思える金利を提案してくるので、トミタも当初は反発していた。だが、この金利は非常にリーズナブルで良心的な金利ですよと言われて、多少騙された感じで契約したのだ.もちろんその場にサクヤが居れば防げたのであろうが、その場にサクヤはいなかったのである。
「最強のチームかどうかはともかく、目的地が見えてきましたよ」
少しテンションが上がり気味のトミタ、メイ、サクヤに多少呆れながらホンダがこのように口にする。本日の依頼の目的地に近づいてきているのだ。
「さてさて、いよいよやな」
「富田さんリッチマンとは会ったことあるんですよね?」
「違うリッチマンだけどな」
気合いを入れ直すように言葉を発したトミタに、ホンダは質問を投げかけた。それに対してトミタは簡単に回答する。今回の指令はリリーの依頼で、この国のどこかで暮らしているリッチマンにお願いの書状を届けて欲しいというものだ.リッチマンという職業は額に“R”の文字が記載されており、捧げるお金の金額によって、この世のどんな望みも叶えることができるというチート職業である。余りにもチートな能力なので、リッチマンがこの世界の存在なのか別の世界の存在なのかの議論は昔から行われているが、まだ正式な回答は出されていない。ちなみにメイが太陽を克服できたのは他でもないリッチマンの能力である。ただ、その時のリッチマンはリッチマンの中でもかなりの上位の能力者であった。おそらく今回尋ねるリッチマンは、それよりも能力的には下位であろうと考えている。
「あの屋敷みたいだ」
前方に豪華で大きな建物が聳え立っており、それを見てトミタが言葉を発する。このまま進むと、入り口に辿り着きそうなので、このまま歩を進める。入り口が近づき、よく見ると、1人の女性が待ち構えてくれているみたいだ。その女性は、おそらくそのリッチマンの女執事のようである。
「トミタ様ですね。お待ちしておりました。私はこの館の執事を務めているサキアと申します」
そう言ってサキアはトミタに挨拶し、一緒にいる全員に視線を向ける。この時、サキアがメイを見た時一瞬表情が変化したのをメイだけが気づいている。
「トミタです。よろしくお願いします」
トミタの挨拶に合わせて全員で挨拶を行う。それを見てサクヤは軽く笑顔を浮かべる。
「ただいまスクサール様は所用で出られておりますので.お帰りになるまで中の応接室でお待ち頂ければと思います。屋敷に入る際にこちらの入館名簿にみなさま署名をお願いいたします」
このようにサキアが説明をしたので、各々入館名簿に名前を記入し、館へと入る。
「いて!」
何故か急にホンダが声を発し、その横でリンドが、不機嫌な表情を浮かべている。どうもホンダがサキアの大きなおっぱいを凝視していたらしく、リンドが腕をつねったのである。
「やれやれだぜ」
そのことに気づいたトミタは大きなため息を吐く。それを見てホンダは少しバツの悪そうな表情を浮かべた。ホンダがサキアのおっぱいを凝視していたのはもちろんそのその大きさと形の良さに身惚れたこともあるが、何故がそのおっぱいを揉んだ感触が手のヒラに伝わって来たのである。もちろん会ったことのないサキアのおっぱいを揉んだことがあるはずない。なので何故そのような感触が伝わって来たのが不思議なのもあり、凝視していたのである。
「豪華な屋敷やな」
中に入ったトミタが思わず言葉を漏らす。この屋敷は建物の外観から見てもとても大きな屋敷であり、通された応接室はとても豪勢な作りとなっている。おのおの椅子に座り歩いてきた疲れを癒しながら、ここまでの旅路の話で和んでいる様子だ。
「トミタン。メイちょっとお手洗い行きたい」
「わかった。あまり目立たないようにね」
耳元で囁いたメイの言葉にトミタはこのように返し、それを聞いたメイはゆっくりと応接室を出ていく。メイは人間ではないので、お手洗いにいく必要はないのだが、メイがこの様に言った時は何か調べたいことがある場合が多いのでトミタは否定しない様にしているのだ。メイは応接室を出た後、屋敷の中を探し回る。しばらく探し続けて、ある程度時間はかかったが、目的の物を見つけることができた。
「サキアー、入っていいいかしら」
そう言って料理場で何かの作業を行なっているサキアに声をかけると明らかに嫌そうな表情を浮かべられる。
「メイ様。お屋敷を彷徨かれては困ります。申し訳ないですが、応接室に戻って頂けないでしょうか」
軽いため息をついた後、サキアは冷静に返事を返す。それを見てメイは何かいやらしい笑顔を浮かべる。
「1つ質問があるんだけど、サキアは私のことを知ってる?」
自分の言葉を全く聞いていない様なので、サキアは多少イラついたが、気持ちを落ち着かせて返事を返す。
「いえ、先程お会いしたのが初めてです。どうかされましたか」
あくまでも冷静にサキアはメイの相手をする。するとメイは大きなため息をついた後、また話しかけてくる。
「さっき私がこの部屋に来た時に、私のことをメイ様って呼んだよね。何で名前知っているのかな」
その言葉を聞いてサキアは動揺する。確かに事前にもらっていた来客名簿のなかにメイの名前はなかったのだ。それをサキアはメイは昼間外に出れないからだと考えていたが、なぜかメイは普通に一緒にやってきているのだ。
「先程館に入られる時に名簿に名前を記入されたかと思います。それで皆様の誰が誰か認識できました」
少し厳しい言い訳にも聞こえるが、この場を取り繕うにはこの方法しかないのも確かである。するとこの言葉を聞いてメイは軽く笑い、手に持っていたものを前に出す。
「入館名簿ってこれかしら」
何とメイは入館名簿を持ってきていた。なぜそんなことをしているかはサキアには不明だがもうこれは突き通すしかない。
「そうです。その名簿に皆様のお名前が記入されていました」
サキアがそう言うと、メイは近づいてきて、記入した場所のページを開いて、サキアに提示する。
「私メイって書いてないんだよねー」
そう言われてサキアが名簿を見るとトミタの名前の下にはQタローという訳のわからない名前が記載されていた。それを見てサキアは大きなため息をつく。
「メイ様は覚えているんですね」
「もっちろーん。私物覚え良いからねー」
この現象はリッチマンが世界の理を書き換えたものだ。物覚えが良いとかでどうこうなるものではない。何か別に理由があるのだろうが、この時点でその理由がサキアにわかるはずはない。
「別にだからどうってわけじゃないのよ。サキアも何かあって今の状況なんだろうから」
メイの真意を測り切れず、サキアは言葉を飲む。
「ただ、私は覚えてたから知らないふりされたのが寂しかっただけ」
それだけのことなのかとサキアは愕然とする。以前から色々なことでメイには驚かされるが、その驚きのタネは尽きることがないようだ。
「サキアも覚えてたから安心したわ。じゃあ私戻るけど何かあったら相談には乗るからねー」
そう言ってメイは扉から出て行き応接室へと戻って言った。サキアはそれを見ながら大きなため息をついたが、メイが覚えていてくれたことは多少嬉しく感じ、少し幸せな気持ちでこの後の作業を行うことができた。この後、スクサールが戻ってきて謁見が許される。スクサールは書状を読み、それに伴う金額がきちんと担保されているのかを確認した後、了承した旨をトミタ達に告げる。この瞬間にミッションはクリアとなるので、この後少しだけこの屋敷でのんびりとさせてもらい、準備を万端にして帰郷の路へとつくことにする。
「ではお気をつけてお帰りください」
入り口の前でサキアが見送ってくれている。それに対して全員軽く頭を下げたり、手を振ったりしているが、ホンダはやはりサキアのおっぱいを凝視している。
「最後に一つお願いがあるのですが」
このようにホンダが言葉を発したので、全員がホンダに注目する。
「胸を揉ませてもらってもいいですか」
それを聞いて、そこにいる全員が驚きの表情を表す。こいつは一体何を言っているのだろうか。
「サキアごめんね。何か変なこと言っちゃって。ホンダ、ほら、帰りますよ」
手を引っ張りながらリンドがホンダをその場から退場させる。それを見て全員ため息をついた後、再度サキアに別れを告げ、その場所を後にした。
※画像イメージ:スクサール
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