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1999年5月27日(木)
【森の小径:藤井 淳紀・前村 亮二】
「お待たせしましたー」
店内に入った前村 亮二が右手を挙げて少しだけ済まなそうに声をかけた。ここは喫茶店『森の小径』。現在16時を少し過ぎた時間であり、店内は落ち着いた雰囲気になっている。本日午前中は探索を行った2人だったが、今日の夜は部隊のメンバーと飲み会を行う約束をしている。居酒屋『子飼』に19時集合なのだが、その前に話をしたいことがあるということで、藤井が前村をここに呼び出したのである。約束の時間は16時だったので、前村は少しだけ遅刻をして来たことになる。
「良い良い、まあそこに座れや」
こう言って藤井は前村を目の前に座らせる。そして店員がお冷を持って来たので、前村用にコーヒーを注文した。
「それで、話ってなんでしょう」
早速だが前村は本題に入る。どうせ今日の夜は飲み会があるのに、その前にわざわざ呼び出して話したいこととなるとある程度想像はついている。となると本人もなかなか言い出しにくいだろうと思い、早々にこちらから話を振ったのである。
「いや、飲み会の時にみんなには話そうと思ってるんだけど、お前には先に言っておきたくてな」
珍しく恥ずかしそうな表情を浮かべて藤井が口を開く。この様子だと予想は間違いであろう。
「実は結婚することになった」
「おめでとうございます」
予想通りの藤井の言葉に、前村は食い気味に祝福の言葉を述べる。それを聞いた藤井は思わず吹き出してしまう。
「何?わかってた」
「わかってたというか、わざわざ呼び出して話したいことって考えたらこれぐらいかと」
少し気が抜けた感じの藤井が発した言葉に、前村は冷静に返事を返す。とりあえず伝えないといけないことは伝えたので藤井は安心の表情を浮かべる。
「でもまあ、先に言ってくれたことは嬉しいです。何かあったら手伝うので言ってくださいね」
嬉しそうな表情を浮かべた前村はこのように口にした後でコーヒーを口に運んだ。