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別世界では別職種だった件 マエダ編 第7話

第7話 実力審査

「なあ、マストクックとマルタって何で緊張状態にあるんだっけ」

 朝食中にふと浮かんだ疑問についてマエダが質問する。ここはリョウコ邸。マサミとマエダは相変わらずリョウコの家で一緒に暮らしている。そして朝はほとんどマサミが朝食の準備をし、朝食とその後のひと時をのんびりと過ごすのが常になっている。梁山泊の一件以降は特に出撃指令等はなく、現在は通常勤務状態となっているが、いつ出撃命令が来るかはわからないので、その準備には抜かりはない。

「何でって、仲悪いからよ」

 紅茶を口にしながらリョウコが返事をする。大陸の北東に位置するマストクック連邦と、南西に位置するマルタ王国は歴史的にみても伝統的に仲が悪い。その理由としては両国の間にあるタルシーム自治領の領有権をお互いに主張しているからだ。タルシーム自治領は北部と南部に分かれており、その中央部分にはマストクックとマルタの領土が侵入した形となっている。そしてその両国の間にあるタルシーム自治領の領土はカストニア回廊という名称がついており、どちらかの国がここに侵入すると宣戦布告とみなされることになっている。長い歴史の中で、お互いに侵入しては撤退を繰り返しており、ここ数年はお互いに警戒し合って、均衡を保っているのである。ただ、最近マルタが回廊付近の軍備を増強しているという噂があり、マストクックとしても国境沿いに軍隊を派遣しているのである。

「じゃあ行きましょうか」

 まったりと朝の時間を過ごしていたが、時間になったので王宮へと向かうことにする。街を歩きながら王宮へと向かうが、街中は特にいつもと変わりがなく、国境がきな臭くなっていることは微塵も感じない。一応報道等で流れているので状況は知っているはずなのだが、一般市民にとってはそれを気にしていても仕方がないのであろう。そうこうしているうちに3人は王宮へと到着する。

「マエダくんは今日はどうするの?」
「どうするって言われてもなあ」

 正直王宮にやってきたところで自分がやることは特になく、いつも時間潰しにうろうろしているだけである。その様子を見たリョウコが何か思いついたらしく、言葉を発し始める。

「マエダくん。ちょっと模擬戦とかやってみない?実際ドラゴンナイトとしてどれぐらい強いのか見てみたい」
「模擬戦?戦士鍛錬場でやってたようなやつかな」

 この質問にリョウコは笑顔で首を縦に振る。模擬戦か。確かにこちらの世界に来てからは剣を握っていない。いや、タマキを切ったか。確かにこちらの世界での自分の強さを確かめる機会はなかった気がする。ここで戦士としてどれぐらいの実力があるかは試しておきたい気もする。

「できればお願いしたい。自分の強さがよくわからん」
「わかったわ。じゃあちょっと簡単な用事を終わらせてくるから、ここで少し待っててね」

 こう言って軽く手を振りリョウコは足早に去っていった。残されたマサミとマエダはあまりこの場所から離れない程度に王宮を彷徨く。まだまだ自分たちがしらないばしょがあり、毎回驚かされる。しばらくするとリョウコが戻ってきて、再度合流する。そして模擬戦が出来る場所に一緒に移動することになった。

「ここが模擬戦エリアよ。特殊な防具と特殊な剣を使用して、本気で戦うことができるわ。もちろん怪我をしたりすることはないし、ダメージはポイントとして大型モニタに表示されます」
「何か戦士鍛錬場と似てるな」

 模擬戦のシステムが戦士鍛錬場のそれと似ていることに思わず声を漏らす。そして指定された防具を着用し、模擬戦用の剣を手にして、軽くその振り心地を試してみる。

「じゃあ相手はもう準備しているから中に入って」

 笑顔を浮かべたリョウコの言葉を聞いて、扉を開いて中に入るすると中には防具を着用し、剣を握っている2人の人間の姿があった。

「ブロンドとプラチナ、あいつらめっちゃ強いんじゃないの」

 中で待っていたのはリョウコの側近であるブロンドとプラチナである。実はこの2人の剣の実力はリョウコの軍団の中でもリョウコに次ぐ実力である。それでもリョウコはマエダの実力が上位と判断し、この2人と一緒に戦わせることにしたのだ。

「じゃあ、マエダ対ブロンドとプラチナの模擬戦を開始します」

 模擬戦場のスピーカーからリョウコの声が響く。どうも雰囲気的に1対2で戦うようだ。あの2人の実力はわからないが、こう設定されたのであればそれに従うのみと覚悟を決めて剣を構える。

「それではファイターファイト、レディーゴー!」

 このリョウコの声を聞いてブロンドとプラチナは礼節に沿った礼を行い、剣を構える。マエダも同じように礼を返したが、それが礼節に沿っていたかどうかの自信はない。この後はブロンドとプラチナが同時に攻撃を仕掛けてくるのをマエダは反撃することなく避けることに専念する。元の世界でも避ける系の戦士として高い実力を持っていたが、今はその時とも感覚が多少異なっている。まずは何となくではあるが2人の攻撃の予測が出来ることである。どのような攻撃がされるかというのをあらかじめ予知できる感じである。また、実際に相手の剣が迫ってきた際に、時間の進みが遅くなるのを感じる。これだとギリギリで交わすのも難しくなさそうだ。これは元の世界では全く感じたことがない感覚であり、それが転生したからなのか、自分がドラゴンナイトだからなのかはわからない。ただ今はっきり言える事はブロンドとプラチナの攻撃を喰らう事はないということだ。このことはプラチナとブロンドも薄々感じているらしく、少し攻撃に精彩がなくなってきた。

「終わらせるか」

 こう呟いて次の攻撃を得意の切り返しで返したマエダは、2人に致命的なダメージを与え、戦闘終了の合図がなった。そこで、また礼節に沿って礼を行い、大きく息を吐いた。

「思っている以上でした。俺たちではまったく敵わないらしい」
「レベルが違うな。敵じゃなくて良かったよ」

 こう話しながら手を伸ばしてきたので、順番に固く握手をした。この後、3人で一緒に模擬戦場を出て、リョウコと合流する。

「ブロンド、プラチナありがとう。職務に戻っていいわよ」

 こう言われた2人は頭を下げた後で、この場所から退散していく。そしてその後はリョウコは満面の笑みを浮かべて話しかけてきた。

「やっぱり強いじゃーん。思った以上だったわ」

 すごく嬉しそうに声をかけてきたので、この世界ではかなり強いという感覚が間違っていないことを確信し、マエダも笑顔を浮かべるのであった。

※画像イメージ:ブロンドとプラチナ

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