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1998年10月26日(月)

【冒険者組織会議室:東條 莉絵・笹井 紀夫】
「あの、張り紙見たんですけど」
「あ、ありがとうございます。どうぞ」
 話しかけてきた男性を笑顔で見つめながら東條 莉絵は声をかけた。ここはお昼過ぎの冒険者組織会議室。特に理由もなく時間を潰している冒険者が何人かいるが、特に何かが行われている様子はない。戦士として19期試験を合格した東條だったが、同じ戦士の稲村 理可以外は部隊のメンバーが決まっていない。数日隊長希望の人から声をかけられるのを待っていたが、そのような雰囲気ではないようだ。そこで意を決して自分が隊長として部隊のメンバーを集めることにし、掲示板に募集の掲示を行っていたのだ。そしてその募集を見て、笹井 紀夫がやってきたのである。
「私が隊員募集の張り紙を出した東條です。職業は戦士です」
 テーブルの反対側に座った笹井に対して、まず自分が自己紹介をする。それを聞いて笹井も口を開く。
「あの、笹井 紀夫と言います。罠解除士です」
 こう言って笹井は頭をぺこりと下げる。非常に真面目な好青年の印象であり、同じ部隊に入れるのを断る理由は今の所ない。
「一つ質問があるんだけど、笹井くんは誰か一緒に部隊を組もうって人はいる?」
「あ、いないです。知り合いいないので」
 質問に対して、笹井は言いにくそうに答える。確かに性格的には内向的のようであるので、冒険者の知り合いは出来ていないのかもしれない。
「わかりました。まだ部隊編成が固まってないので、返事には少し時間を貰いたいです。2、3日ぐらい後でいいかな?」
 軽く笑顔を浮かべて東條がこのように述べたのを、真剣な表情で聞いていた笹井は軽く頭を縦に動かした。

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