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1996年9月9日(月)《BN》

【新迷宮:黒髪てへトリオ部隊】
「じゃあ次行ってみよー」
「何か今のいかりやさんに似てた」
 2戦目に入ることを指示した前田 法重の言葉を聞いて、中尾 智史がその言い方に対して突っ込みを入れた。ここは新迷宮。黒髪てへトリオ部隊は本日も地下6階の鏡の間を訪れている。いつものように大塚 仁が鏡の罠を外すと、まず出てきた亜獣は大方の予想通り、寅さんを模した亜獣であった。前回の飲み会でのメインの話題だったので、当然の結果と言える。その亜獣は自由奔放な動きを見せ、戦闘中は多少混乱させられたが、戦闘能力自体はそこまで高くなかったので、苦戦させられることもなく倒すことに成功している。そして、物質回収と回復を終えて、次の亜獣発現に入ろうとしているのである。
「では行きますねー」
 全員に声をかけて大塚が罠の解除を始める。すると程なく罠が解除され、亜獣が出現した。
「なんだ、これは」
「あ、これ歩行者専用道路の標識だと思うっす」
 亜獣を見つめなら思わず漏らした原田 公司の言葉に、本田 仁がそれらしい回答を述べる。実は本田は本日冒険者組織本館に向かう途中で何気にこの標識を見て、少し違和感を感じていたのである。その違和感とは何となくであるが、この2人が親子などではなく、知らないおじさんに連れて行かれる幼女に見えたからなのだ。
「ていうか、あの男性はトミーじゃない」
「明らかに富田さんっすね」
 その男性の外見から中島 一州は、その正体を富田 剛ではないかと判断し、それに大塚は完全に同意する。女の子は誰かわからないが、その男性の外見は明らかに富田である。
「まあとりあえず倒すか。富田に恨みがあるやつは本気で」
 この前田の発言により戦闘が開始されるが、こう言われるとなかなか攻撃しづらい雰囲気となる。その中でも本田はいつも通りTNT爆発を連打している。富田も一応は1期の元冒険者であり、本来であればてへトリオ部隊のメンバーとも張り合えるはずである。ただいかんせん罠解除士なので、この状況で何かを出来るかといえばそうではない。また、富田は最終職種は忍者であるが、今目の前にいるのは罠解除士の頃の富田のようだ。そうこうしているうちに、富田らしき亜獣は殲滅され消滅する。そしてそれに合わせて連れていた女の子も消滅していった。
「物質回収します。本田本気やったな」
 笑いながら大塚が物質回収に向かう。戦士3人がなかなか本気で攻撃できない中、本田は1人気を吐いていたのだ。思えば以前、前田にそっくりな亜獣が出てきた時も本田は本気でTNT爆発を打っていた。それが明らかに偽物だと割り切った結果なのか、何か個人的な恨みがあるのかは明かにされてはいない。
「ていうか、今ので富田が出てきたってことは、本田が標識見た時に富田に見えたってことだよな」
 出現した亜獣が富田に似ていたことに疑問があった原田が本田に質問してみる。すると本田は軽くため息を付いて返事を返す。
「だって、あれって幼女を連れ回している標識ですよね。そうした場合誰が1番頭に浮かぶかっていえば富田さんでしょ。反論は認めない」
 やけに自信満々に答える本田であったが、あながち間違っているとも言えないので、部隊全員がこの点に関しては納得し、次の戦いへと移ることにしたのである。

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