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1999年10月26日(火)
【罠解除士鍛錬場:森下 翼・宮本 紳・川名 佑典・大脇 優人・堀越 希巳江・小田原 初音】
「やっぱり納得いかねえ」
「どうしたんですか、森下さん」
鍛錬途中でいきなり奇声を上げた森下 翼に向かって川名 佑典が疑問の声を上げた。ここは午前中の罠解除士鍛錬場。本日もたくさんの罠解除士が鍛錬を行っている。師匠制度における師匠と弟子である森下と川名、大脇 優人は朝から一緒に鍛錬を行っており、鍛錬を開始してからそろそろ1時間半が経とうとしている。そろそろ休憩でもするのかと考えていたところでこの事象が起こったのである。
「あ、いや、ごめん。ちょっと考え事をしてたら言葉が漏れた」
「何か納得いかないことがあるんですね」
普段はあまりイラつくこともなく、特に弟子たちの前では平然としておきたい気持ちがあるが、納得いかないことがあるとどうしてもイライラが募ってしまい、森下は気持ちを抑えられなかったのである。それを見て大脇が心配そうに声をかけてくれたが、その理由があまりにもくだらない事なので、大丈夫なことを表情で返した。
「じゃあ少し休憩しようか」
こう言って森下はベンチに向って歩き出し、川名と大脇も後ろをついていく。すると急に森下は足を止め、振り返って声をかけてきた。
「ちょっと先に行って休んでて」
こう言って森下は別の場所に歩いて行ったので、2人はベンチに向って歩き休憩する。ベンチに座って様子を眺めていると森下はどうも宮本 紳の場所に移動しているようだ。
「宮本さん、ちょっといいですか?」
「どうした?」
弟子の堀越 希巳江と小田原 初音を指導していた宮本は、声をかけられて返事を返す。すごく何かを言いたげな表情をしているが、何か言われるようなことを思いつかない。すると森下が口を開いた。
「弟子がずるいっす」
「は?どゆこと」
こう言われて宮本は少し考えてみる。森下のずるいという発言から考えられるのは、弟子の能力差かあるいは人間性辺りであろうか。でも森下の弟子2人も能力や人間性は問題ない気がするが・・・。
「もしかして性別のことを言ってる?」
「そうっすよ。しかも2人ともめっちゃ可愛いじゃないですか」
これを聞いて宮本は大きくため息をつく。気持ちがわからなくもないが、師匠と弟子の組み合わせを決めるのは自分ではないので文句を言われても仕方がないのである。この後、思いの丈をぶつけた森下は気持ちが落ち着いたらしく弟子の場所へと戻って行ったが、結構大きな声でめっちゃ可愛いと言われた堀越と小田原は恥ずかしそうな表情を浮かべてニヤニヤとしているのであった。