別世界では別職種だった件 マエダ編 第8話
第8話 再開
「最近前田君が模擬戦室でロボットと戦ってばかりなので私楽しくない」
不満げな表情を浮かべながらマサミが言葉を漏らした。先日のプラチナとブロンドとの模擬戦の後、模擬鍛錬用のロボットがあるとの話を聞き、それ以降マエダはリョウコの職務中、そのロボットとの模擬戦に勤しんでいる。今までは自分と一緒に王宮内を彷徨いていたので、それはそれで楽しい時間だったのである。今はマエダの模擬戦を眺めているか、1人で彷徨くぐらいしかやることがなく、何か毎日がつまらないのである。
「あ、ゴメンゴメン。じゃあちょっと今日は一緒に彷徨こうかね」
汗を拭きながらマエダがこのように返事をする。確かに少し放っておき過ぎたようだ。ドリンクで喉を潤した後、2人は模擬戦場を後にする。そして、今日はいつもより広い範囲を彷徨いてみることにする。この王宮は敷地面積も非常に広く、この広さの中にいろいろな部署や機関が点在している。一応マエダもマサミも職員扱いなので、ごく一部の高セキュリティエリア以外のほとんどの地域に入ることができる。そこで今日は今まで彷徨いたことがない西側の深層部を探索してみることにする。
「それにしても風情があるわね」
「何だろうこの中世ヨーロッパ感は」
お上りさんのようにキョロキョロしながら2人は歩を進めていく。この建物は王宮という名前にある通り、かなり豪華な内装が施されている。その内装のデザインは元の世界の中世ヨーロッパに酷似しており、1つ1つの芸術品に一喜一憂しながら話をしたり笑ったり、まるで恋人同士のような雰囲気で探索を続ける。
「あーーーーーーーーーーーー!」
何か遠くで大きな叫び声が聞こえる。基本的に王宮内は静かなので、何かがあったのだろうか。だが、まず自分たちには関係ないはずなので、無視して探索を続ける。しかし、先ほどの声が聞こえた方向から誰かが走ってくる足音が近づいてきた。
「前田ー、いきなりあれはないぞ!」
「あ、玉木か。元気だったか」
走ってきたのは先日遭遇して真っ二つに切断したタマキである。話によると元々極秘任務を受けて中央を離れていたのだが、あの一刀両断のおかげで王宮の復活の間まで戻されてしまい、結果極秘任務を期限までに終えることができなかったのである。なので、その時はマエダに対して非常に強い不満を持っていたが、やはり元の世界での親友でもあるので、この異世界で一緒になるのは嬉しいという気持ちの方が大きいようだ。初めは文句を言っていたが、次第に明るい雰囲気となり、最終的には和気藹々となっている。
「そういえば船ちゃんもいま王宮にいるぞ」
「やっぱり船山だったか」
元の世界でのサークル仲間のもう1人であるフナヤマもこの世界に転生しているようだ。先日梁山泊に遠征に行った際に、梁山泊のおっさんが名前を口にしたのを覚えている。
「たしかラウンジにいると思うから行ってみようぜ」
この声を聞いた後で3人は移動を開始し、そのラウンジという場所へと向かっていく。するとそこはあまり遠い場所ではなく、簡単に到着することができた。開け放たれている大きな扉の奥は、休憩が出来るスペースのようであり、何人かの人たちがくつろいだり、仲間達と談笑をしているようである。その中に記憶の中のイメージとは明らかに違うものの、おそらく間違いないと思われる人物がそこにいる。そしてやはりタマキはその人物に向けて歩いて行った。
「船ちゃん、前田連れてきたよ」
「前田?」
タマキの言葉に反応して、こちらに視線を向けてきた男性はやはりフナヤマに間違いがなさそうだ。
「おう、前田やん。やっぱりこっちに来てたか」
「お前もな。元気そうでなによりやな」
何やら外見はすごくゴージャスになっているが、話をするとやはりフナヤマで間違いないようである。とりあえず額のマークを確認すると、“W”の刻印があるようだ。
「何だ、前田は召喚者なのか。じゃあそこの女性がマスターなのかな」
額に文字の記載がないことを確認し、その後で隣に立っているマサミに目をやる。額に“U”の刻印があるので、ユーザーであることは容易に想像ができたようだ。
「まあ俺もまだこっちのことは良くわからんから何かあったら頼むわ」
この言葉を聞いてフナヤマは何か嬉しそうな表情を浮かべる。はっきりとした理由はわからないが、頼られたのが純粋に嬉しいらしい。この後はしばらくこちらの世界のことについて話をしていたが、何か約束があったらしく、フナヤマは軽く挨拶をした後ラウンジを後にした。残された3人はもう少し時間に余裕があるので、ここで時間を潰すことにする。
「ところであいつ強いの?」
疑問に思っていることを尋ねてみる。額の文字の“W”の意味はわからないし、パッと見そこまで強そうには見えなかった。だが梁山泊のおっさんの話によるとこの国で1位2位を争うほど強いらしいのである。この質問に対して真剣な表情でタマキが答える。
「強いか弱いかで言えばかなり強いよ。おそらくこの大陸でも最強レベルの一角だと思う」
やはり強いというのは本当のようである。そしてもっと詳しい説明を始めた。
「船ちゃんは“ウーマナイザー”という職業なんだよね。この職業自体はかなり強い弱いが分かれるんだけど船ちゃんは強い」
語尾を強めながらこう話したタマキは、先ほど準備した何かしらの飲み物を飲みながら話を続ける。
「この職業は、要は女性と関係を持つと、その女性の加護を受けることができるというものなんだ。だから、非常に強力な能力をもつ女性と関係を持てば、そのまま強くなれるというロジック」
職業の詳細は理解できたが、何やら怪しい能力に思える。そもそも強くなるためには女性と関係を持たないといけないというのは良くあるエロゲの設定ではないだろうか。
「で、現在の船ちゃんの加護は天使なんだよね。女性のランクとしては女神の次に当たる上位加護者」
天使?あいつは天使と関係を持ったというのか。強くなるためには仕方がないとはいえ、天使を汚すようなことはなかなか出来ることではない。
「前田いま、天使て!って思ったやろ?」
考えていたことをずばりと言い当てられて少し動揺したが、考えていたことは確かなので、軽く首を縦に動かした。
「俺も船ちゃんから聞いた時はそう思ったもん。でも船ちゃん言ってたけど、天使と関係を持ったんじゃなくて、関係を持った女性の中に天使がいたらしい」
フォローのつもりで述べたのかもしれないが、全くフォローになっていないタマキの言葉を聞いて、マエダは軽くため息をついたのであった。
画像イメージ:フナヤマ