1996年11月15日(金)《BN》
【冒険者組織書籍部:内田 佳奈美・大島 清吾】
「そろそろ店閉めるんだけど」
「あ、もうそんな時間なんですね。帰ります」
格闘技コーナーで雑誌を立ち読みしていた大島 清吾は、内田 佳奈美から声をかけられて返事を返し、雑誌を棚に戻した。ここは20時少し前の冒険者組織書籍部。店内には蛍の光の音楽が流れ、いかにも閉店時間という雰囲気が漂っている。立ち読みに集中していた大島はその雰囲気に気づいていなかったので内田が声をかけたのである。
「じゃあお疲れさまです」
「あれ?帰っちゃうの?」
軽く頭を下げて挨拶をした後、大島は店を出ようと移動する。すると内田が不思議そうに声をかけてきた。この言葉を聞いて大島の頭には疑問マークが浮かぶ。ぶらっと本を読みにやってきて、閉店の時間になったので挨拶をして店を出る。これが当然の流れだと考えているのだが、内田が理解不能の声をかけてきたのだ。思わず大島は固まってしまう。
「そんなに時間かからないから待っててよ」
こう言って内田はカウンターに戻って行く。その後ろ姿を眺めながら大島は相変わらず今の状況が理解できずにいる。この後2人でどこかに行くということなのだろうか。何か約束をしていた記憶は全くない。だが待っててと言われたからには待ってる他ないと考えて、一旦書籍部を出て店の外で待つことにした。そしてしばらくすると店の電気が消え、そして内田が出てくる。
「じゃあ行きましょうか」
こう言って内田が歩き出したので、同じ方向に向かって歩いていく。どう考えても今の状況を理解できない大島は内田に質問する。
「どこに行くんですか?」
「え?」
「え?」
大島の質問に対して、内田は疑問の声を漏らし、それに反応して大島も言葉を漏らした。
「もしかしてめぐみさんから聞いてない?今日夕ご飯に誘われてるんだけど」
この内田の言葉で大島は全てを理解する。自分が知らないところで姉の大島 めぐみが内田を夕食に誘っており、もちろんそのことを知っていると考えていた内田は大島が迎えに来たと思っていたのだろう。疑問が解けて安心し、大きく息を吐いた大島を見て、内田は不思議そうに笑顔を浮かべるのであった。