1998年6月8日(月)
【熊大第2迷宮:湘南爆走隊部隊】
「そろそろ帰りましょうかね」
「賛成ー。レア物質もパンパンだしねー」
亜獣との戦闘を終え、ひと段落した後、桜庭 敦子が発した言葉を聞いて沖本 蓮香が返事を返した。ここは熊大第2迷宮地下3階。湘南爆走隊部隊が第2迷宮の地下3階をレア物質の回収場所に選んでからかなりの時間が経つ。正直冷静に今の実力を分析すると、魔術師の島 可南子と高松 準也は初級魔法最高位と言われるティリオスの呪文を習得しているし、桜庭、平山 裕美、布川 和人の3人も実力はすでに第2迷宮をクリアしていてもおかしくないレベルだ。だが、部隊の方針として、地下3階で亜獣を狩ってレア物質を回収するという流れにいつの間にかなっていたのである。一つの理由としては、第2迷宮をクリアしてしまうと、冒険者の心の拠り所である知らないものを見つけるという好奇心が保てなくなる可能性がある。実際クリアしている黒髪てへトリオ舞台を見ても、すでに彼らは冒険者ではなく、亜獣と倒してレア物質を手に入れるのが何か作業的な感覚になっているように見える。もちろん週1回の探索で、多額の金額をもらえるのだから、それはそれで仕事として割り切れば良いのかもしれない。だが、自分たちはまだ冒険者としての誇りを失いたくない気持ちがあるのだ。また、別の理由としては、この次の地下4階が、特殊な空間となっており、罠解除士の亜獣探知が作用しないのだ。それは非常に危険な状況となるので、危険度と報酬を秤にかけると、地下3階での亜獣狩りが最適解と考えられるのである。あともう1つ言えば、この部隊には僧侶がおらず、回復に関しては僧侶の布川の呪文のみとなるので、できる限り危険は避けたいというのが長年の冒険で染み付いているのだ。
「特に周りに亜獣はいません。のんびり帰りましょう」
軽く笑顔を浮かべた沖本がこのように発言したので、全員が多少緊張を和らげ、軽い話をしながら、出口へと向かった。