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1996年9月18日(水)《BN》
【新迷宮:黒髪華撃団部隊】
「ではこの部隊での最後の戦闘になります。思い残すことが無いように全力でよろしく!」
全員に視線を向けながら隊長の大島 めぐみが話しかけ、それに全員が頷きを持って返した。ここは新迷宮。黒髪華撃団部隊は本日も地下3階を訪れている。罠解除士の相川 まことが結婚により引退するので、本日がこの部隊での最後の探索となる。また、このタイミングで戦士の金田 真澄、僧侶の内田 佳奈美も引退することとなっているので、実質この戦闘を最後に3人の冒険者が引退することとなるのである。部隊の編成として、男性だけで編成された部隊は初期の黒髪てへろく部隊や黒髪オラトリオ部隊、チームカイシン部隊などいくつか記録にあるが、女性だけで編成された部隊は黒髪華撃団だけであり、他に女性だけの部隊は存在しない。そして次の部隊編成によって誕生する華撃団Ⅱ部隊には男性も含まれるので、これで女性だけの部隊は消滅することになったのである。ちなみに現在男性だけの部隊も存在しないので、結果的に男女混合の部隊編成が理にかなっているということなのかもしれない。
「じゃあ真澄、お願い」
この大島の言葉を聞いて金田は大きく頷き、扉を蹴破る準備をする。扉を蹴破る役として今まで数多くの扉を蹴破ってきたが、それもこれで最後になるのである。少しだけ感慨に耽りながら、大きく息を吐いた金田は意を決して扉を蹴破り中に侵入した。
「我は剣を極めしもの。うぬらの未熟さ身を以って知れい」
定型分のセリフを吐きながら剣を極めしものが出現する。この亜獣は通常の攻撃が全く通用しないが、魔術師のティリオスの呪文により消滅することが確認されている。なので、ティリオスを撃てば終わるのであるが、最後の戦闘なので、それでは面白みがない。事前の話し合いで行けるところまで頑張ってみようと決めていたのである。
「明日香はティリオスの準備、佳奈美はいつも通り、茜、真澄、行くよ!」
「了解!」
適切に指示を出した大島と山下 茜、金田が剣を構えて亜獣に向かっていき、それを亜獣は不適な笑みを浮かべて待ち構えている。
「無効!」
まずは内田の無効の呪文で戦闘が始まる。この亜獣が呪文を唱えることは確認されていないが、万が一のために無効の呪文は必須である。そしてこの後は攻撃呪文の祈りを始める。
「や・・ぱり・・・つ・・・よい」
亜獣の剣を全力で受け止めながら大島が言葉を漏らす。戦士3人の中で1番実力の高い大島ですらこうなので、山下と金田にはそれ以上に厳しい戦いだと言わざるを得ない。
「天罰!」
亜獣に対して内田の天罰の呪文が炸裂する。だがやはりこの呪文も亜獣にダメージを与えることはできないようだ。しばらく戦闘を続けてみたが、実際に戦ってみるとやはり戦力差はかなり大きい。このまま戦闘を続けるのは危険と判断し、大島は松島 明日香に指示を出した。
「ティリオス!」
準備万端だった松島は指示を受けたタイミングでティリオスの呪文を唱え、後方から発した光が亜獣に向かって弧を描きながら向かっていく。そして亜獣の足元から眩いばかりの光が発生し亜獣を包み込み、そのまま消滅させたのであった。
「お疲れ様でした。物質回収します」
こう言いながら相川は最後の物質回収に向かい、戦士3人は内田から最後の回復を行ってもらった。この後は、松島の瞬間移動の魔法で迷宮入り口まで戻り、黒髪華撃団としての最後の探索を終えたのであった。