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1998年8月29日(土)

【道:前田 法重・中島 一州・原田 公司・大塚 仁・中尾 智史・本田 仁】
「何か懐かしいな。ティリオス」
「俺たちもあの時しか見てないですからね」
 本日何本目かわからないビール瓶を受け取りながら前田 法重が発した言葉に、原田 公司が返事を返した。ここは居酒屋『道』。本日もたくさんの客が美味しいお酒と料理を楽しみに来店している。前田機動隊のメンバーもいつもの座敷を占領してどんちゃん騒ぎを行っている。先程、魔術師の高松 準也が先日ティリオスの呪文の発現に成功したことを本田 仁が報告した。これで現冒険者でこの呪文を唱えられるのは本田 仁含めて2名となる。
「いよいよ湘南爆走隊も地下3階のボス戦になりますね。まあ大丈夫でしょう」
 目の前のビールを一気に開けて本田が言葉を発する。現在魔術師の最高位呪文であるティリオスを覚えた以上、第2迷宮地下3階のボスを倒す資格は十分にあるのだ。ただ、この呪文はそのボスを倒す専用呪文の様相があるので、この時以外に使用することはほとんどなく、ここ以外ではTNT爆発で全て事足りるのである。
「本田が初めてティリオスを打った時を思い出すな」
「何かめちゃくちゃ馬鹿にされた覚えがある」
 笑顔を浮かべながら原田が発した言葉に本田がため息混じりに答える。まだティリオスという呪文が存在しなかった1995年当時、第2迷宮地下3階のボスを倒すために本田が初めて唱えた呪文がティリオスだったのである。このティリオスという魔法名はこの呪文を唱える上では必要不可欠な名称なのであるが、この呪文名が本田の口から出た時に、周りの隊員からは失笑が漏れていたのである。
「絶対狙ってたよな」
「だってケンも消滅する時にティリオスとはまさかあのって言ったからね」
「知らんす」
 笑いながら発した前田の言葉に原田が続け、それを聞いて、本田は憮然とした表情で返事をする。もちろん本田もこの名称はどうかと思いはしているが、自然発生したものであり本田が考えて付けたものではないのである。ちなみに、魔法名は基本的には発現した現象の効果に応じて後から命名するのが通例であり、呪文の発現に魔法名が影響しているのは現在このティリオスだけとなっている。

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