ジンズホールディングスの財務分析
ジンズホールディングスの概要
アイウェア(眼鏡)ブランド「JINS」を全国展開しているアイウェア専門店。
SPA(商品の企画、生産及び販売まで一貫して行う企業形態)企業であり、物流過程で生じる中間コストの削減や自社に特化したサプライチェーンの構築によって、低価格でのメガネ販売を実現してきました。
しかし、SPA企業と言っても大規模な工場を保有しているわけではなく、生産工程の大部分は海外工場に外注しており、コスト構造的には他の小売業と同様に売上原価≒仕入原価と考えて良いでしょう。
主要財務数値
図表1-1
(単位:百万円)
図表1-2
上記2つの表から読み取れることは以下の2つです。
売上総利益率に上昇傾向が見られる。
5年間で販管費率が約9%上昇している。
これら二つのポイントを深掘りすることでジンズHDの分析を進めていきます。
売上総利益率に上昇傾向が見られる理由
図表2-1
(単位:円)
図表2-1はアイウェア一式単価(フレームとレンズ込みの価格)と売上総利益率の推移を比較したものです。
売上総利益率と販売単価が同じように推移していることから、販売単価の上昇が売上総利益に貢献していると考えられます。
JINSは2017年に価格体系を変更し、それまで9900円だった最高価格帯を12000円に引き上げ、品質を重視する姿勢を見せてきました。
また、made in japanシリーズなどの高級路線を打ち出しており、高価格帯製品の売上が販売単価の上昇に繋がっていると思われます。
図表2-2
(単位:日)
図表2-1に示してある棚卸回転期間の推移は上昇傾向にあり、製品の在庫量が増加している可能性を示唆しています。
製造委託先に対する仕入量を増やし、委託先の単位生産コストを低下させることによって仕入価格を維持している可能性もあるため、在庫リスクの上昇には注意が必要です。
5年間で販管費率が約9%上昇している理由
図表3-1
図表3-1は販管費内に含まれる主要費用の対売上高比を追ったものです。
給与比率は5年で約3.1%上昇、支払手数料比率は約3%上昇、広告費率は約1.2%上昇しており、販管費率の上昇率9%をこの3項目でほぼ説明できます。
なので①給与、➁広告費、③支払手数料の3つの費用について分析し、販管費率の上昇原因を考えていきます。
①給与比率の上昇理由
図表4-1
(右軸単位:百万円)
(左軸単位:店舗)
図表4-2
(単位:百万円)
図表4-1を見ると、5年間で店舗当たり売上高は減少していますが、国内店舗数は右肩上がりで増加しています。
コロナウイルスによる店舗の臨時休業や外出自粛の影響で、来店者数が減少している状況でも店舗を増やし続けたことで、人件費の負担が大きくなっていると考えられます。
また、図表4-2のEC売上高は5年間で約2.6倍にまで成長し、EC売上高成長率はコロナウイルスの影響が大きかった2020年に最も高くなっています。
来客数の減少、そしてEC売上が好調に推移している中でも店舗数を増やし続けるのは、ジンズHDの強みが店舗販売にあるからです。
JINSはそれまでの眼鏡業界には無かったオシャレな店舗、商品ラインナップ数を実現してきました。
今では商品ラインナップ数が約3000種類とzoffの約1200種類を大きく上回っています。
EC販売では、3000種類の商品全てを顧客に見てもらうことはできません。
実際に店舗に足を運んでもらい陳列された商品を眺めてもらって初めて顧客にアピールできます。
また、人が多く集まる商業施設内にテナント出店し、オシャレな店舗と眼鏡を掛けたスタッフが広告塔の役割を果たすことで高い集客効果を得てきました。
このように店舗販売に強みを持つジンズHDにとって、店舗数の増加とそれに伴う人件費の負担は、「自社の強みを軸に成長する」という姿勢、そして経済活動が正常化した後の反転攻勢を狙ったものだと考えられるでしょう。
➁広告費率の上昇理由
多くの企業がコロナウイルスの流行に伴う外出自粛や店舗の臨時休業でEC販売の強化が必須となりました。
ジンズHDの強みである実店舗販売での集客効果をEC販売に流用するのは難しく、別途に広告費が必要になったためでしょう。
③支払手数料の上昇理由
決算説明資料によれば、EC販売の拡大によるIT関連費用の増加、キャシュレス決済の利用機会が増えたことによる決済手数料の増加が原因だということが明記されています。
さいごに
コロナウイルスによる影響は、ジンズHDだけでなく全ての眼鏡小売業に打撃を与えたことは間違いないでしょう。
この状況を逆手に取り、積極的に店舗を増やすことで他者からのシェアを取りに行っているとも考えられ、今後のシェアの拡大に注目したいところです。