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【8クマ目】吾輩は白クマである。〜走らなければならぬ〜



白クマは激怒した。

堕落した生活を。

餌の様な食事を。

散らかった部屋を。


ちゅんちゅんです。
僕は最近怒っています。

今に始まったところではないが、
主人のだらしがなさがひどいのだ。

傾向としてはまず、
飲み会が続くと、必然的に料理をしなくなり
お弁当も作らなくなる。

洗濯物を溜め、
掃除機も何日サボっているだろう。

極め付けは、
作りかけの本棚を放置し
木材とネジが散らばっているという
デザート付き。

失恋という事で多めに見ていたが、
そろそろ限界だ。
それと一つ懸念していることがある。

主人は
今年、そして来年マラソンに出場する。

親友と地方のフルマラソンを走るのだ。


こう見えて
以前、主人が勤めている会社がスポンサーの
マラソン大会でフルマラソンを完走している。

特定のスポーツをやって来なかった主人が、
初めて出たフルマラソンで
うっかり完走してしまった上に
周りもアスリートやら、スポーツマンなど
盛り立ててくれたもんだから
すっかり主人も得意げになり、
いらない責任感が湧き上がる始末。

出たいのか、出たくないのか
本人も分かっていないまま
今年も申し込んでしまった。

まったく、
流されやすい人なんだよな。この人は。


と、いつもならそう思っていただろう。


今年はある思いをひっさげて走る。

親友と二人で出るという事で、
一緒に完走して、
そして何かお揃いの記念品を買おう。

私たちの友情の集大成だ!!!!!!

そんな思いで完走を目指すのだ。

とても素晴らしいじゃないか。


親友は僕もよく知っている。

主人と同じでお酒が大好きで、
今の会社に入社してからの付き合いだが、

幼い頃からバカやってきた様な、
それでいて、
賢くて、優しくて、明るい女性だ。

主人が泣いている時、失恋した時、
いとも簡単にどん底から引き上げてくれる、

僕としても感謝してもしきれない。

今度会う時は、
とっておきのコロッケを
お渡ししようかと思う。


そんな心の友との約束がかかっている
マラソンなのに、まだ酒飲んでる。
そう、今も飲んでやがる。


こやつは何してるんだ。
いや、何もしていないから問題なんだ。

親友との約束を投げやりにしたら
僕が許すものか。


主人と違って親友は
真面目でストイックな性格で
やる時はやる。
お酒以外は健康志向だし、
しかも美人だ。

なので、職場での評価はかなり高いし
近い将来出世も圏内であろう。

改めて考えると
何故主人なんかと仲良くしてくれているのか
不思議でしょうがない。
一見、見た目もスペックも釣り合っていない。

持論だが、
人が仲良くなるのはある程度、
同じ土俵の者同士が
友人や恋人として成り立つものだと
僕は思っていた。

ちなみに親友の旦那も
主人の親友の一人である。

主人にとっては
【親友同士】が結婚している事になる。

旦那の方との出会いは割愛するが、
彼も本当に優しく愛情深い人間だ。


そんな心強い応援団長が
二人にはいる。

こうしている間も親友は
さぞかし、日々練習に励み
モチベーションを上げているのだろう。


それなのに主人と来たら。
先ほど愉快に飲んでいるかと思えば、
酔っ払ってそのまま眠りについている。
まるで床に廃材が転がっている様だ。


この姿を親友が見たら何と言うだろう。
不安に駆られるに違いない。

私はこのダラシがない女と
フルマラソンを完走なんて
無謀な約束をしてしまったのではないか。
と。

疲れたー。もう走れないー。
と弱音を吐き、
しまいには
ビール飲みたいと駄々こねる三十路女の姿を
親友の脳内をよぎってしまうのではないか。
ちなみに僕は簡単に想像できる。


そんな自堕落な生物が所持している
スマホが鳴った。

親友からのビデオ通話だった。

恋愛感情でなくても
両思いの相手からの連絡は嬉しい。
弾む様なテンションで主人は通話ボタンを押す。

同時に僕は気を使って、
テレビの音を消音にした。



『うええええええええええええええいい!!』



親友の声が沈黙の部屋を埋める。

画面を見ると
親友はひどい酩酊状態だった。

親友からのオンライン飲みの誘いだ。

ここからは想像つくと思うが、
朝まで画面越しで晩酌が続いた。

何がそんなに面白いのか、
基本バカ笑いして、
全くもって会話なんて成り立っていない。

僕の予想を大きく外れて
親友もマラソンが迫っているとは思えない程
気が抜けた姿だった。

やっぱり僕の人生観(白クマ生観?)
なんかよりも
【類は友を呼ぶ】
いにしえのことわざの方が
やはり正しいと証明された。
少なくとも主人と親友の間はそうだ。

それにしても、本当に楽しそうだ。
見ていて本当に羨ましいさえ思う。

どうか、僕をも仲間に入れてくれまいか。

主人は珍しく、
酒で赤くなっている。




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