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NO59 信ちゃんの焦りが事件を起こす

智美と香奈子と誠が
先週カラオケに行ったという話を聞いた信二は、少し焦っていた。
実は信二は香奈子が好きなのだ。
誠に先に香奈子を取られたらまずいと思った。
今度の11月10日 [日曜日]は休日だ。

信二はスナック茜にお客さんを迎えに行った際、
香奈子にコソッと、堀川ナイトクルーズに乗らないかと誘ってみた。

香奈子は、自分の誕生日が11月11日である事を信二に告げると、
誕生日祝いに相応ふさわしいと言って信二とデイトの約束をしたのだ。

11月10日 夕方18時に納屋橋で待ち合わせた。
香奈子のマンションは栄1丁目なので、
納屋橋界隈は庭みたいなものだ。
歩いても5分~10分で往来ができる距離なのだ。
信二は、今夜は香奈子と飲むつもりだったので、
地下鉄を乗り継いで納屋橋に来た。

「待った?」 信二が香奈子を見つけると声をかけた。
クリーム色のジップパーカーにグリーンのショットパンツだ。
とてもかわいいと信二は思った。
信二は、薄茶のニットにジーパン姿だ。
堀川ナイトクルーズは19時に納屋橋を出ると
名古屋城の脇まで行き、また戻ってくるのだ。
夜の納屋橋・錦橋のイルミネーションは最高のスポットである。
観光客も、この橋辺りでみんな写真を撮っている。
今日は、それを船から眺める事になる。
そして、桜橋・五条橋・景雲橋・幅下橋をくぐると名古屋城が見えてくる。
目の前には、今、名城キャッスルホテルが建て替え中だ。
来年春にはオープンするらしい。

「すごくきれい。いつも見慣れているはずなのに、船から見ると別世界ね」

「本当だね、今しか、運行していないからさ、28歳の贈り物になったかな」

「ありがとう、たぶん、こんな企画をしてくれなかったら、
生涯こんな光景、見る事もなかったかも・・・・・
でも、堀川って、名古屋城の周辺をまわって、
納屋橋に流れてきているのね、知らなかった」

「そう、庄内川から・・・・・上飯田の方から名古屋城に流れて・・・納屋橋を通って、国際会議所-----白鳥公園-----宮の渡し公園-----ガーデンふ頭------そして海まで流れているんだ」

「信ちゃん、詳しいのね」

「一応、タクシーの運転手だからね、それくらいは勉強しているさ」

「ふ~ん、タクシーの運転手って、そんな事も勉強するんだ」

備屋びんやに行こうか、焼き鳥が美味しいらしいよ」

「あ、知ってる、行った事はないけど、
一度、行ってみたいねって智ちゃんと話していたんだわ」

信二は芋焼酎 黒霧島を頼むと
香奈ちゃんは梅サワーを頼んだ。
焼き鳥はお任せセットだ。
それとらっきょとジャガバター・キムチを注文する

「美味しいね、焼き鳥は塩に限るね、このらっきょう、絶妙・・・・・」

「本当、私、あんまり内臓系、食べないけれど、これ、肝?美味しい」

二人で焼き鳥を堪能すると、カラオケに行って、
23時に香奈子を家に送った。

香奈子がマンションに入るのを見届けると
このタクシーに乗って帰るはずだったが、
信二は衝動的にタクシーから降りると、香奈子の後を追いかけた。
香奈子はちょうど、部屋のドアを開けているところだった。
香奈子は、びっくりする。
タクシーで帰ったはずの信二が部屋にまで乗り込んできた。
信二は、強引に香奈子を部屋の奥に押し込むと、
大きな声を出さないように手で口をふさぎ、
いやがる香奈子を無理矢理、襲い、下半身を脱がして
欲望をむき出しにしてしまった。
香奈子は抵抗したが信二の力にねじ伏せられて
どうすることもできなかった。
大声を上げたかったが、それは思いとどまったのだ。

終えた後、信二は

「ごめん、香奈ちゃんが欲しかったんだ」

泣きながら香奈子が言った

「信ちゃん、これって強姦ごうかんだよね、警察に電話をするよ」

警察と聞いた信ちゃんは青ざめた。
酔っ払った勢いでしてしまったが、確かに強姦ごうかんかもしれないと思ったのだ。

香奈子が電話をしている。
「ママ、私、強姦された」

「えぇ、警察に電話をした。身体、大丈夫、怪我はしていない
今、どこにいるの」

「うん、私の部屋」

「どういう事、強姦魔が部屋まで上がり込んできたの、
鍵をかけていなかったの?」

香奈子が泣きながら答えてる
「信ちゃんに犯されたの」

「えぇ、信ちゃん・・・・・信ちゃんはまだ、そこにいるの」

「うん」

「ちょっと、信ちゃんに代わって!」
スマホはスピーカーになっている
修平も春樹も玲香もその話を聞いていた。
春樹が
「おい、信二、お前 何を考えているんだ、強引に襲ったのか
香奈ちゃんの承諾もないまま、襲ったのか?」

「すみません 酒の勢いでしてしまいました」
信二が震える声で答えている

「酒の勢いもクソもあるか、今すぐ行くから、そこでじっとしておれよ! 
逃げるなよ!どうせ逃げたって・・・・・すぐ、分かるのだからな」

修平のクラウンに4人が乗ると、車は春樹が運転した。
今日は日曜日なので3人ともお酒を飲んでいたのだ。
唯一、酒の飲めない春樹が運転をした。

香奈子のマンションに着く。
香奈子のマンションにはエントランスが無く、
直接、エレベーターで部屋に入るのだ。
ブザーを鳴らすと智美がドアを開けてくれた。
どうやら、智美にも連絡をしたようだ。

1DKの部屋に7人がいる。
信二を囲んで、修平・あかね・春樹・玲香・
智美が香奈子に寄り添って手をにぎっていた。
6人が信二を睨んでいる。
修平が信二を問い詰めようとした時、

玲香が立ち上がり、信二の髪をわしづかみにして言った。

「あんた、自分が何をしたのか、分かっているの、
ちょっと、あんた、香奈ちゃんの人生を狂わしたのよ、
分かっているの!ええ、しばいたろうか
あんたねぇ、強姦をするなんて人間のする事じゃないのよ 
分かってるの」
わしづかみにした髪を揺さぶる。
信二は髪の毛が引っ張られて痛いので手を玲香の手にかけたが、
簡単にねられてしまった。

そして、信二の身体がピクッとした途端、金縛りになった

信二の目の前に真っ赤な顔をした玲香が
阿修羅のごとく目をとがらせて怒っている。
わしづかみにした髪の毛が全部むしり取られそうな勢いだ

春樹はこれはまずいと思って、玲香を止めに入った。
何をしでかすか分からない
もう、自分の事になっているのだ。

あかねは玲香を外に連れ出すと背中をさすりながら玲香を優しくなだめた。
修平達は玲香を連れてきたのは間違いだと思った。

「信二、お前 どうする気だ」
信二は、頭をかばいながらうつむいたままだ。
かなり、髪が痛かったようだ。

「香奈ちゃん、信二をどうする 警察に突き出すか」

しばらく、沈黙が続いていたが香奈子がこもった声で言った。

「こんな形で・・・・・こんな事になるなんて思ってもいなかった。
私は信ちゃんが好きだったけど・・・・・
こんなのはいや、絶対にイヤ
今日 私の誕生日なのに・・・・・」

「そうか、誕生日だったのか、そうだよね、
誕生日に強姦なんかされたらつらいね そりゃあ、許せないな」

「・・・・・でも・・・・・もし・・・・・私の言うことを・・・・・
全部聞いてくれるのなら・・・・・」

「なに、香奈ちゃん、どうして欲しいんだ」修平が問う

「私の奴隷になって、一緒になって、お金は全部、私が仕切って、
なんでも、私の言うとおりに行動するって約束してくれるのなら
警察には言わない」

修平も春樹も智美も、呆れてしまった。
つまり、香奈子は 自分の思い通りに、信二を操ろうというのだ。

「信二、そうだってよ、一緒になって奴隷になれってよ、どうする!」

「はい、なんでも言う事を聞きます、奴隷になります」

「じゃ、首輪とリードを買ってきて犬になるか」

「はい」 信二がうつむいて、小さな声で返事をした
不思議な事に信二の【はい】が【わん】と泣いているように聞こえた。

結局、香奈子に、みんな踊らされたような形になったのだ。

今日の所は、信二を寮に連れて帰る事にした。
修平のクラウンを春樹が運転をする。助手席に玲香が乗る。
後部席には修平とあかねの間に信二が小さくなって座っている。
あかねが修平に聞いた。
「どういう事、どうなったの、智ちゃんは笑っていたし、
春樹も修平さんも顔がほつれているし・・・・・私たちが部屋に戻ってきたら、
じゃ、帰ろうか・・・って、訳が分からないわ」

「そうだな、ごめん、ごめん、結局な、
香奈ちゃんにみんな、踊らされたって事かな」

「なに、それ」 あかねが問うと、玲香が怒った

「信二、あんたね、みんなが許しても私は許さないからね、
もう、こいつ、茜専属タクシーから外したら、
こんな奴、此処で降ろしてもいいんじゃないの、
どうして、こんな奴に・・・・・」

「玲香、お前の気持ちは痛いほど分かる。だけどな、
今回の事は、信二もバカだけど、
香奈ちゃんの巧妙な手口って言うか、
策略って言うか・・・・・香奈ちゃんは信二が好きなんだな。
ただ、信二のやり方がまずかった、
よりにもよって香奈ちゃんの誕生日に・・・・・
強姦まがいの・・・もっと、ましなやり方があっただろう」

「お前も、もっと、ロマンチックに好きですとか、付き合って下さいとか、
言い方があったんじゃないのか、香奈ちゃんの話だと、有無も言わさず、
やったらしいじゃないか、バカだね お前は」

「すみません、酔っ払った勢いで強引になってしまいました、
それに今日しないと、誠に取られたらイヤだったし・・・・・」

「あかね、それでな、信二は香奈ちゃんに私の奴隷になれって言われて、
財布も全部とられて、今日から奴隷になるんだって・・・な
従わないなら警察に突き出すって・・・・・
それで、私や春樹の前で誓えってさ、なぁ、信二、まったく
香奈ちゃんの方が一枚も二枚もうわてだな、ただじゃ起きない」

「信二、お前、明日のお金、持っているのか?」

「全財産、取られました。一銭も持っていません、
クレジットカードも取られたし、あ`スマホにPayPayがあるだけです
あ`免許証も財布の中です」

「あかね、一万ほど、出してやれ」

「まぁ、香奈ちゃんも、けっこう、やるわね」

「そりゃあ、玲香や姉貴を見てきてるんだから、
玲香・・・お前の妹じゃないのか」

「なにを言ってるのよ、私の方がよっぽど、優しいわよ」

信二が玲香に目を向けた途端、玲香が顔を後ろに回して

「信二、ちょっと、今回の事は、目をつぶるけれど、
大概にしなさいよ、
おんなは、やさしく扱わないと、こんな事になるんだからね
私が首輪を買ってあげるわ」

「春樹と同じ事を言ってるぞ、さすが、夫婦だ」車内の空気も和らいだのだ

信二には玲香が会社に勤めていた時の玲香とは想像をはるかに超えた、
別人の恐ろしい阿修羅女あしゅらめだと感じたのだ。

翌日、信二に香奈子から電話が入った。

「信ちゃん、今からマンションに来て、一緒に見に行きたい所があるの
時間かかるから、今日は会社を休んで・・・・・」

「会社を休むと言っても・・・休んだら、給料が・・・
あ`免許証・・」

「信ちゃん、分かっていないみたいね、
信ちゃんの給料が減ろうが増えようが、もう、信ちゃんには関係の無い事。
お金は全部、私がもらうんだから、免許証も預かっているから
地下鉄で来てよ、早くね、待っているから、会社を休んでいいから」

「えぇ~はい 休みます」

信二は香奈子に言われたとおり、香奈子のマンションに行くと、2DKのマンションを探しに不動産を廻る事になった。
香奈子はルンルンだ。
信二は、香奈子の嬉しそうな顔を見て、奴隷も悪くないと思ったのだ。
阿修羅より、よっぽど、かわいい・・・と、内心、思った。玲香の顔がよぎる

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裁判報告

後日、玲香がぽつりと春樹に聞いた。

「ねぇ、春樹 例の事件って、どうなったか知っている?」

「あ~、起訴されてから2ヶ月~3ヶ月程度かかるって
弁護士が言っていた。
事件が起きたのは10月4日だろ、
だから、まだ、あと2ヶ月はかかるんじゃないかな 
たぶん、小田原も中村も広田も強制なんとか罪で共同犯になるらしい、
懲役15年が妥当だって言っていたけれど・・・どうなんだろう
それで、慰謝料も500万円で請求しているって言っていたけれど・・・・
まだ、決まっていない  玲香も裁判所に行くか?」

「いい、私は行かない」

「だろうな、連絡が来たら、兄貴と行ってくるよ」

身も心も過去もすべて受け止めて

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泉 春樹
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