見出し画像

NO65  お父さん ときさんを見舞う

四人で昼食をしているとお父さんから電話が入った

「おぉい、玲香か・・・・・」

「私 あかね、どうしたの?」

「なんだ、あかねか、玲香は居ないのか」

「まぁ、失礼しちゃう、れいちゃん お父さんから・・・」

「は~い、お父さん どうしたの」

「玲香、頼みがあるんじゃ、
わしゃ、ときさんの見舞いに行きたいんだ、連れて行ってくれんかのぅ」

「いいけど、面会できるかどうか、分からないわよ」

「それでもいいんじゃ、外からでも、顔が見えれば、それでいいんじゃ」

「会えるかどうか分からないけど~
私、明日が通院日だけど、お父さん・・・・・明日じゃダメ」

「できたら、今日がいいんじゃ、明日になって死んでいたら困る」

「はいはい、じゃ、通院日を今日に変えてもらうわ、
1時半に迎えに行くから、待っててね」

「よっぽど、ときさんが心配なのね、れいちゃん、悪いけどお願いね」

「あかね、仕方がないぞ、
お前が、お父さんの事、全部れいちゃんに頼むから、
お父さんだって、れいちゃんを当てにするんだ」
修平が口を挟んだ

「たしかに、私がいけないのね」

「姉貴、仕方がないよ、店があるんだから・・・・・
玲香は休養中で暇を持て余しているから、ちょうどいいんだよ」

「お姉さん、お父さんの事はまかせておいて」
あかねは、少し、玲香に嫉妬をしたが、
よくよく考えてみれば、あかねは今まで
お父さんを大切にしようなんて思った事など1度も無かった。
その点、玲香は心を持って父と接している。勝てるわけがない!

玲香は老人ホームにお父さんを迎えに行くと、

「中西さん、こんにちわ スキ」

「にこさん こんにちわ スキ」
老人ホーム独特の挨拶が根付きだしていた

「中西さん、お父さんのお迎えですか 
松原さんも大変な事になって・・・・・
面会できたら、よろしくお伝え下さい」 

「はい、まだ、会えるかもどうかも分からないのに、
お父さんたら、もう、話をしているのですか」

ニコさんが笑顔で見送る
「気をつけて、行ってきてください」

スタップの人たちが、みんな声をかけてくる。

「中西さん こんにちわ ス~キ」
「さらさん こんにちわ 私もスキ」

「そるとさん こんにちわ スキ」
「中西さん こんにちわ スッキ」

「めいさん こんにちわ 私もスキ」
「いちごさん こんにちわ スキ」
「中西さん こんにちわ スーキ」

どうやら、スキが定着しているようだ。
玲香はここのホームが凄く明るくなってきた
まるで、花が咲いたみたいだと実感した

「お父さん 用意できている こんな時でもスーツなの」

「仕方がないだろ これしか外着がないんだから」

「そうね、ジャージでもいいのだけれど、まぁ いいね」

「お父さん スキは・・・・・」

「おおう、そうじゃった スキスキスキスキ 大好きじゃ」
玲香のほっぺたを両手で優しく叩きながら,
お父さんはニコニコだ.

玲香はお父さんと東部医療センターに行った。

糖尿病内科は8階だ 玲香が入院をしていたのは4階の整形外科だ。

面会ができるかどうか、分からなかったが、
とりあえずお父さんを連れて8階に上がってみた。
エレベーターの扉が開くと、目の前に婦長が立っていた。

「あら、中西さん、8階に面会?」

「婦長さん、ちょうど良かった、
実は父が、どうしても、松原ときさんの見舞いをしたいって言うので、
連れてきたんだけど、
ちょっとだけ、顔だけでも、会わせてもらいないですか、
親族ではないんだけれども」

「お父さんって あの時、救急車で付き添って来られた方?」

「そう、父です」

「まぁ、そう・・・そうね! またドアを壊されても困るから、内緒ね 
ナースステーションには私から伝えておくわ
松原ときさんは、そこを右に曲がって右側2番目の病室よ」

部屋に入ると、ときさんは四人部屋の一番手前の左側だった。
仕切りカーテンが開けてあったので、ときさんがすぐに分かったのだ。

お父さんが、ときさんの顔を見るなり、
「ときさん 大丈夫だったか、心配をしていたんだ」

「あら、太一郎さん、来てくれたの ありがとう、
私、困ったわ 変な格好で・・・・・」

「こんにちわ、松原さん、娘の玲香です。
病室で、変な格好も何もないですよ、みんな、パジャマ姿ですから」
   ときさんもお父さんも小声で笑う

「お父さん、私、下で診察をお願いしてあるから、行ってくるよ、
診察が終わったら迎えに来るから、
お父さんをおいていきますがいいですか」

「娘さんも、ここの病院なんですか」

「はい、私は先月、肋骨骨折をしまして、
しばらく、ここの4階に入院していました」

「そうだったのですか、肋骨骨折って事故にでも遭われたのですか」

「えぇ、トラックにぶつけられまして、でも、大したことはないんです
では、お父さんをおいていきますのでお願いします」

「とんでもない こちらこそ、ありがとうございます」

玲香は診察に向かった。

「娘さん、きれいな方ね 
私も太一郎さんに聞きたい事がたくさんあったの
良かったわ 来てくれて・・・・・」

「わしも、どうなったのか、心配で心配で、よかった 面会ができて」

「私 気がついたら このベットの上に居て、
いったい何がどうなったのか、全く分からないの、
どういう事なのかしら」

「お 覚えていないのか、御園座で水戸黄門は見ただろう」

「それは覚えているわよ、終わって、御園座を出て・・・その後よ」

「御園座を出て、ちょっと寿司屋に行こうと歩いていたら
急に、わしに寄りかかってきて、倒れてしまったんだ。
その時、けいれんを起こして体中がピクピクしとった。
わしは、何度も、ときさん ときさんと呼びかけたんだが、
意識がなかったでな、すぐに救急車を呼んで、
ここに連れてきてもらったんじゃ」

「太一郎さんが、ここに連れてきてくれたのね、ありがとう。
娘もそんな事を言っていたけれど、ボーとしていてよく分からなかったの」

そんな事を話している時、娘さんが大きな袋を2つ持って入ってきた。
お父さんを見て挨拶をする。

「先日はありがとうございました、おかげさまで母も元気になりました」

「いやいや、よかった、よかった。
本当にわしはときさんが死んだらどうしようと思った、
じゃ、すぐに退院できるかの」

「それが、お医者さんの話だとインスリン分泌パターンを調整して
血糖コントロールをよい状態にするとかで、1・2週間はかかるようです」

「難しくてよくわからんが、そうか、そう簡単には退院できないか・・・
仕方がないかっ・・でも、元気になって良かった」

玲香が、そーと顔をのぞかせながら入ってきた。
娘さんに挨拶をする

「先日はどうも、大変でしたね、お母さん、回復されて良かったです」

「ありがとうございます、妹さんですか」

「はい、今日は 姉は用事があって来れませんでした」

「先日は本当にありがとうございました。
お姉さんにもよろしくお伝えください」

「いえ、私たちは何も・・・父が、松原さんについていただけで、
しかし、一時はどうなるのかと思いましたが、
顔色もいいようですし、良かったです。
お父さん、そろそろ、失礼しようか」

玲香はお父さんを送る途中、
また、洋服の青木に寄って
普段着用のブルゾン・トレーナー・ズボンを買い

コンビニにも寄って お父さんがビール・つまみなどをかごに入れる。

「お父さん お父さんの好きなメロンパンと牛乳はいらないの」

「朝・昼・晩、しっかり食事が出るから、食べる時がないんだ」

「そうか、あの時はお父さん一人だったものね」

「おう、あかねなんか、なんにも なぁん~にもしてくれんかった
やっぱり、玲香がいい 玲香が一番じゃ」

あかねが家に戻ると、丁度、春樹が仕事に向かう時だった。

「春樹、行ってらっしゃい」

「どう、胸 大丈夫か、あんまり 無理するなよ、じゃ、行ってくる」

身も心も過去もすべて受け止めて

いいなと思ったら応援しよう!

泉 春樹
サポートありがとうございます。