NO66 ヒルトンホテルにて
今日は夕方16時にヒルトンホテルで現地集合なのだ。
修平たちは、15時半にはホテルに入って、
ロビーを埋め尽くしているクリスマストレインを見ていた。
修平は大きなカメラで、シャッターを切りまくっている。
まるで、プロのように集中している。
その修平を春樹がスマホで撮影をしていた。とても楽しそうだ。
あかねと玲香は、ひとまわりをした後、奥の喫茶でモカを2つ頼んだ。
1杯1,300円だ。あかねは首をすくめたが玲香は動じない。
無言で珈琲をすする。
そこへ、智美たちが入ってきた。
すぐに分かったようで手を振っている。
誠は由衣を抱いて、修平たちと一緒にジオラマを見学する。
智美は、そのジオラマを横目で見るとすぐにあかねたちの所に行った。
「パパ、デンシャ シュッポポ キシャ ポッポ」
「電車だ、ゆい、新幹線も走っているよ すごいね」
由衣は見えにくいのか、誠に肩車をせがむ。
「シンカンシャ シンカンシャー」
「ゆい、シ ン カ ン セ ン」
「シ ン カ ン セン」
「そうそう、シンカンセンだぞ」
「シンカンセンだぞ」
「だぞ はいらないの シンカンセン」
「誠、もう、立派なお父さんだな」
修平が感服する
「本当の誠の子供じゃないのか」春樹もびっくりだ。
「ゆいちゃん、かわいいな~
そうだな、誠の血を受け継いでいたら、こんなにかわいい子はできないか」
そんな事を言いながら、三人はみんなのいる喫茶に移った。
そこに香奈子と信二が来た。玲香が立って手をふる。
「ジオラマ 凄いね、ちょっと、見てきていいかな」
信二は1人で見てまわる。
玲香もあかねも香奈子も、ゆいに挨拶をしている
「智ちゃん、こんな可愛い子が居るなら
もっと早く教えてくれれば良かったのに・・・」
「かわいい~すぐにでも、AKB に入れるんじゃなぁい」
「ゆいちゃん いくつ」
ゆいは、智美の身体にしがみついて顔を埋める。
「ゆいは、すごく人見知りをするの、信ちゃん ごめんね」
「ほお~ そんな、人見知りをする子が、よく誠になついたな~」
「マスター、本当に不思議なの、
私はきっと、ゆいはすぐに泣き出して『家に帰る』って云うと思ってたの
それが・・・・・まこちゃんが両手を広げておいでおいでって言ったら、
ゆいがまこちゃんの胸元に飛び込んでいったの」
智美は思い出したのか、感情が高ぶって涙声になる。
「智ちゃん、よかったね、よかったね・・神様が導いてくださったのだわ」
あかねが智美を優しくなだめると
「ボクも、びっくりしました。
一歩二歩と歩いて来たので、ゆいを抱き上げれたら嬉しいかな~って
思っていたら、まさか、腕の中に来るなんて思いもしなくて・・・
ゆいを抱きしめたら、自然に高い たかいって、ポーズをすると、
なんて言うのだろう、反射的に、ゆいを肩車していました。
そしたら、すごく喜んじゃって・・・あれから・・・・・
ず~と、肩車をせがむんです」
「いや~、だから、本当の親子だと思ったよ」
修平が驚いていた。
修平たちはオールデイダニングへ席を移すと
予約をしていたクリスマスディナービュッフェを堪能した。
サーモンのバターソースや魚のマリネ、ムール貝、イチゴのタルト・
骨付きローストハム、たくさん出てくる。
そして、一段落すると、修平が話し始めた。
「どれも、美味しかったな~ 、実は今日、智ちゃんたちを招待したのは、
他でもない、お店の拡張の話なんだ。
実は伏見辺りと、栄2丁目辺りに2店舗増やそうと思っているのだが、
どうだろう、
香奈ちゃん・智ちゃんにその店をいずれオーナーとして
譲ってもいいと思っている。
つまり、私がやりたい事は、スナック茜を増やす事では無いんだ。
私が試みたい事は、夜の街の相乗りタクシーを定着させる事にあるんだ。
智ちゃんも香奈ちゃんも、この一年、スナック茜で働いていて、
よく分かっていると思うが、
茜専属タクシーがある事でお客さんも増えてきている。
お客さんが茜専属タクシーを求めている事は確かだ」
「マスター、私もそう思っていました、だからママに・・・・・
店を大きくしようって言っても全然、取り合ってくれなくて・・・・・」
香奈子が修平の話に賛同していると
「私たちにお店を任せてもらえるのですか、すご~い やります
やらせてください」
智美も香奈子も、大張きりだ。
「2人とも、お客さんの扱い方、大分上手くなってきたようだし、
お客さんも、智ちゃんのお客さん、
香奈ちゃんのお客さんと振り分けができそうだし、頑張ってよ!
茜には売り上げの20%を入れればいいからね」
「でも、私、やってみたいけれど・・・・心配 できるのかな~」
「そうね、経理は金山さんがついてくれるし、
それから、何かあったら、私もれいちゃんもいるから、
何でも相談すればいいから・・・ね!」
「本当は誠と信二が店に入って
お客さんの相乗りの段取り 斡旋ができればいいのだが、
まだまだ名古屋の地図力は乏しい・・・から」
「道くらい、大体分かります」
玲香が信二を突き放したように言った
「信二、あんたね、道が分かるって云うけど、
じゃ、ここから、お客を乗せて1人を金山で降ろして、
六番町で1人降ろして、最後のお客を本宮町で降ろしたら料金はいくらで、
その料金をどのように振り分ける事ができるの 分かるの!」
「えぇ、急に言われても・・・・・」
「何言ってるの、すぐに回答できなければ仕事にならないでしょう
本当にもう、あんた、香奈ちゃんの云う事、しっかり聞いているの」
玲香が信二をねじ伏せる
「はい、すみません」信二は、玲香には太刀打ちできないのだ。
「れいちゃん! 信ちゃんも心を入れ替えて頑張っているのだから、
もう、少し優しく接してあげたらどうなの、春樹も、言ってやりなさいよ」
あかねが信二に同情をすると、
「姉貴、別にいいんじゃない、
姉貴が俺に接してる態度とそう、変わらないよ
姉貴も初めの頃、俺を押さえ込むようにしてハルキ ハルキって、
強い口調で・・・・・なれちゃったけど!
玲香は信二が好きなんだよ、なぁ~玲香」
「だって~、私、阿修羅なんでしょ、
だから、阿修羅らしくしているだけなのに・・・・・」
「信二も気にするな、
玲香は信二も誠も大事な仲間と思っているのだから」
「俺は何も、玲香さんを尊敬していますので・・・はい」
「話がちょっと脱線したが、相乗りタクシーについて
もう少し、分かっておいた方がいいのでな」
修平はちょっと間をおいて誠に聞いた
「まず、お客さんから見た相乗りタクシーとは、誠 なんだと思う」
「お客さんから見た相乗りタクシーって・・・・・
家に安く帰れる・
相乗りする人の事は多少でも知っているから気が許せる・
お店の手前、ヘタな事はできない・
忘れ物をしても、すぐに見つかる・
いつも同じ運転手であれば、道も分かっているので安心・
眠っていても大丈夫
あと、何かあるかな」
春樹が口を挟んだ
「その、家に安く帰れるって事なんだけどな、
たしかに2人で相乗りするのと3人4人で
相乗りするのでは料金が全然違ってくる、
その上、もし、最後に下りるお客さんがチケットだったら、
先に下りた人たちからもお金をもらって、
タクシー代はタダだし、丸儲けだ。
例えば、豊田のお客がチケットを持っているとして、
最初に降ろしたお客が赤池だったら、通常は6000円が3000円になり、
そのお金を、豊田のお客に払う、
2番目に降ろすお客が三好だったら10,000円が5000円になる、
そのお金を豊田のお客の渡す、
つまり、豊田のお客が家に着いた時は8000円を手にしているわけだ。
タクシー代はチケットだから、飲み代が浮いてくるかもしれない、
そうなれば、毎日だって錦に繰り出す、そんな人が増えてきたら、
錦は活気を盛り起こす・・・それが目当てなんだ、な 兄貴」
「そうだな 後はお客さん同士が仲良くなれるって事か、
もし、同じ業界の人たちであれば、お互い情報収集ができる、
こんなメリットはどこにもない
そうだろう・・・・・
じゃ、店側から見た相乗りタクシーってなんだ 信二?」
「店側からですか・・・・・
相乗りタクシーを目当てにしたお客さんが帰り際に寄るお店・・・・・
かな」
「そうか、智ちゃん 分かるか」
「だって、相乗りをする人たちって、
最初に住所から会社から自宅の連絡先まで聞いてあるんでしょ、
だったら、その人たちって、茜の首輪をつけているようなもんでしょう、
悪い事ができないじゃない。
しかも、その気になれば、その人の事、何でも情報収集できちゃう」
「そうだ、智ちゃんの言うとおり、つまり、イヤなお客はいなくなる、
という事は運転手側から見ても、
気狂い水を飲んでいるお客でも、運転手を雑に扱う事はない、
しかもお客が眠って起きなければ、自宅に連絡をすればいい、
1人もんだったら、多少、身体を揺すって起こしても、問題は起きない、
運転手はあくまで茜専属タクシーだ、ヘタな事をしたらお店に全部バレる」
修平が話をしていると、
今度はあかねが話だした
「まこちゃん 信ちゃん、どう、一石三鳥にも四鳥にもなるって話
それからね 街周辺にいるホステスを
タクシーは中々相手にしてくれないけど
茜専属であれば、そういう人たちも狙い目になるのよ、
どういう事かと言うと
泉3丁目辺りだと、1000円もいかない距離でしょう。
そういう人たちを500円で4人を乗せてぐるっと回っても1500円がいいとこ、あとの500円は運転手さんの懐行き、
これだったら、運転手さんもウハウハ ちがう?」
「なるほど、本当だね、みんな 喜ぶ事ばっかり 最高!
白タクが蔓延るなんて、許せないしね」
「だけど、そんな事をしたら、
名古屋のタクシーが半分もいらなくなっちゃうね」
修平が答えた
「そんな事は無い、錦に人が集まれば、
街に繰り出すお客も増え、逆にタクシーが足らなくなる
問題は如何にして、街に集客をさせるかだ。
そうなれば、客引きも必要なくなるし、ぼったくりも無くなる。
それこそ、香奈ちゃんも智ちゃんも、儲かって 儲かってビルが建つぞ
ただな、私は茜専属タクシーは、どこからもマージンを取らない
お客からも運転手からも、誰からもお金は頂かない、
すべては栄を中心に日本一の繁華街になって欲しいのだ」
「なんか、華やいでいる錦が見えてきそう」
「だから、智ちゃんと香奈ちゃんには、
しっかり気張ってもらわなければな
やがて、すべてのお店が茜のようなお店になれば
お客さんの質も変わるはずだ、と、私は思っている」
「私たち、断然やる気になってきました」
「あら、ゆいちゃん、まこちゃんの胸元でぐっすり」
「じゃ、料理も美味しかったし、そろそろ、解散をするか」
身も心も過去もすべて受け止めて