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NO29 警察と救急車

8月26日 (月)

台風10号が発生 暴風域を伴って奄美や西日本に接近の恐れ、
と言ってニュースが騒いでいるなか、  
春樹が名駅の飲食街を流していると、
名駅3丁目付近で少し千鳥足の若い女性を乗せた。
行先は千代田、中警察署の近くらしい。伏見から大須観音を通り、
西大須で東に向かう。中警察署まで4キロも無い、
春樹は上前津辺りで女性に声をかけたが、全く起きる気配がない。
タクシーに乗車して10分も経っていないのに、もう、落ちている!
やむを得ず、車を止めて、後ろ席に回ると大きな声で起こしてみる。
通り行く人たちは、こちらを伺いながら通り過ぎて行く。
女性っていうのは、とても大変なのだ。
冷たいお茶を使って起こすって方法もなかなか難しい。
体にふれる事もできない。
とりあえず、中警察署に連れて行く事にした。警察官が3人出て来る。

「名駅で乗せて、中警察署と言われたので
ここまで連れて来ましたが、お客さんが全く起きません。困っています」

春樹は警察官に起こしてもらうよう頼んだ。
女性警察官が声をかけて体を揺する。
一度は起こしてみるが、全く起きる気配がない。
すると、もう一人の警察官が言った。

「ここへ連れて来られても困るんだよ。
警察はお客を起こす事まで関与していない」

「では、私はどうすればいいのですか、
メーターを入れたままで起きるまで待てばいいのですか。
金額が大きくなったら、その責任は取ってもらえますか」

「メーターを回していたら、それはいかんだろ」

「では、私たちは歩合で仕事をしていますが、
この女性が起きない限り仕事ができません、
その責任は取ってもらえますか」

「言いがかりも甚だしい」 と言って、警察官は全く、対応してくれない。

頭に来た春樹は、警察官に罵倒を浴びせた。

「こんな時に助けてくれなくて、何が警察だ、税金泥棒!」

すると、年配の警察官が春樹のそばに来て、
「救急車を呼んだらどうだ」と、云う、
春樹はすぐにスマホで救急車を呼んだ。
今度は、違う警察官が言う

「ここで呼ぶな、ここはまずい、駐車場から出て呼べばいいだろ」
ふざけた話だ。警察も自分たちの都合だけで良し悪しを決める。
春樹は知らん顔して救急車が来るのを待った。春樹は思った。

大体、救急車とは、今にも、体が壊れていく人や
生死にかかわる人たちを救うために活動しているのだ。
それを、たかが起きないからと言って
救急車を利用しようなんて言語道断だ。
春樹はいつもそう思っているが、今日はどうにもならない、
テレビ愛知で警察24時とかをドキュメンタリーでやっているが
あんなもん、嘘ばっかりだと思ったのだ。
救急車が中警察署に入って来た。

春樹は救急隊員に警察はクズだと言って状況を話した。

一人の救急隊員が、女性を起こす、顎辺りを触りながら、
「ちょっと痛いからね、起きてください、痛くなるよ」
すると、女性はのそっと起きてきた。おとなしくお金を払って帰って行く。
春樹は救急隊員に恐縮してお礼を言った。
こんな事で救急車を使うなんて、
本当に申し訳ない、それにしても、警察など、何の役にも立たず、
あそこで、ぼけーと突っ立っている。
日本はおかしいって春樹はつぶやいた。

  

父と相談

あかねの家の近くには地蔵川がある。
あかねは今まで、この川が父の散歩コースだったとは全く知らなかったのだ。
お医者さんの話では、日中、できるだけ外で運動させれば徘徊なども
少なくなるらしい。それで、今日も地蔵川を父と一緒に散歩していた。

「ねぇ、お父さん、そろそろ、老人ホームへ移る気はないかしら」

「老人ホーム、わしはまだ、そんな年じゃない、まだまだ、元気だ。
おまえ、わしが邪魔なんだろ」

「邪魔なわけないでしょう、なんで、そんな、嫌みを言うのよ」

「おまえ、修平君と一緒になりたいんだろ、わかっとるわ」

「何言ってるの、修平さんは、お父さんが夜になると徘徊したり
大声上げて騒いだりするもので、
お父さんの監視をお願いしているんじゃない。
お父さんがしっかりしてくれれば、
私だって、こんな地蔵川の散歩なんかしなくてもいいのに」

「別におまえに頼んでいない、散歩はわしの日課だ。
まだ、おまえと散歩しているより、修平君の方がよっぽど、いいわ、
先週、修平君と地蔵川を歩いていたらサギが2羽おりてきて
地蔵川の中で、静かに静かに歩くんだ。
修平君がそれをず~と見てる、自然が好きなんだろうな、
目が真剣なんだ、
あれは、自分がサギになって餌を探しているような目だった、
おまえにはわからないだろうな」

「そうそう、あの人、写真が大好きなの、カメラを持っているんだけれど、
すごいの、あのカメラ60万円もするんだって、考えられない」

「そうか、カメラマンか、よし、じゃ、
今日、修平君とカメラの話をしよう
最近、2人でお酒を飲むのが楽しみなんだ、
あ、おまえには内緒にって言われていたんだ、
あかね、いいか、今のこと、修平君には言うなよ、内緒だからな、
バレて飲めなくなったら大変だ」

「で、お父さん、誰にバレたら大変なの?」

「えぇ、だから、え~と、何だっけな、
そうそう、老人ホームなんか絶対にいやだからな」
あかねは嬉しかった。父は修平さんが気に入っているみたいだ。

あかねは最近、泉のマンションには帰らず、実家に戻ってきている。
修平も大幸団地には帰らず、こっちに来ている。
いつまで、この生活が続くのか、このままではまずいと思った。

修平の勤務は本来、PM6時~AM2時・AM10時~PM7時の勤務体系だっが、あかねの父の事もあり、昼勤務に変えてもらったのだ。
つまり、AM7時~PM5時までの勤務を4日続けて
1日休みの勤務態勢に変えてもらった。
こうする事で、お父さんを見守る事ができる。
実は、修平は、このような介護的な事は多少、
刑務所にいる時に習っていたので、
おとうさんの面倒を見ることは、さほど苦にはならなかったのだ。

一昨日、あかねは父をそろそろ、
介護型老人ホームに入居させたいがどう思うかと修平に相談をした。

「昨日、父に老人ホームを勧めたら、絶対にいやだって、
少しは私たちの事も考えてくれたっていいのにって思ったら、
『おまえは修平君といたいから、わしを追い出したいんだろ』
だって・・・ずぼしだけど」

「お父さんが行きたくないって言っているのに、
無理に老人ホームに入れる事もないと思うがな~」

「そんな事を言ってるから甘えるのよ、
大体、修平さん、お父さんに優しすぎ、
お父さんが、修平さんとお酒が飲めるから、夜が楽しみだって、
あんまり、飲ませないでね、
あ、これ言うなって、父に口止めされていたんだわ」

「でも、最近 お父さん 落ち着いてきているよな~
夜中はぐっすり寝ているだろ」

「とは言っても、修平さんも父につきっきりで大変でしょ、
このままじゃいけないって私、わかっているから、なんとかしないと!
修平さん、家にも帰っていないでしょう。
ねぇ、もう、大幸団地、引き払って、こっちへ移ってこない。
私も泉のマンションを引き払おうと思う。
結構、良い値で売れそうだし、
その時は、タクシーを辞めて、お店を手伝ってよ、
修平さんは、料理が上手いし、
私なんかより、よっぽど美味しいから、お客さんも喜ぶわ、
麻婆春雨なんか絶品だし、そう、それがいいわ、そうしましょうよ」

「おいおい、お父さんはどうするんだ」

「だから、早く老人ホームに入れればいいでしょう・・・・・」

「ちょっと、あかねも結構、自分勝手だな、
かりにも、自分のお父さんなんだからもう少し、大切にしてやりなよ」

「そうね、じゃ、早く結婚して、そうすれば、父は修平さんのお父さんなんだから、すきにしてもらってかまわないし、ねぇ、ねぇね、それがいいわ、
春樹たちみたいに籍だけでも入れましょうよ。ねぇ、おねがい。修平さん」

「っと、すると、私はあかねと結婚すると言うより、
お父さんの介護のためにあかねと結婚すると云う事になるのかな」

「違うから、そうじゃないけど、何でもいいから、
私は修平の奥さんになりたい、
早く早く早く早くはやくはやくはやくはやく早く、なりたいの」

「籍を入れるのは、別にいつでもいいけれど、
だけど、籍を入れるって事は、
私の過去もすべて受け入れるって事だよ、
後になって後悔されても困るから。
私はこのままでいいんだけどな~、別に籍を入れたからって、
何がどう変わると云う事でもないし、下手に籍を入れて、
あかねに迷惑でもかけたら、それこそ大変だ

おい、もう時間だろ、お店、大丈夫か、そうだ、今日はちょっと、
買物もしたいし、お父さんを連れてメッツ大曽根に行きたいから
店まで送っていくよ」

「メッツ大曽根って、エディオンとかヤマナカとか入ってる
ショッピングモールの事?」

「そう、行った事ないか?」

「ないけれど、送ってくれるの。よかった、
だけど、父を連れて行って何を買うの?」

「お父さんもカメラをやりたいみたいだから、ちょっと見てくるよ」

「なんか、ほんとう、修平が来てから、父が変わったみたい。ありがとう」

修平は、白いクラウンに2人を乗せるとあかねを錦へ送った。


身も心も過去もすべて受け止めて
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泉 春樹
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