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NO61 ときさんが倒れた

11/12 (火) 里見浩太朗主演『水戸黄門』御園座 16時開演

今日はときさんと御園座へ行った。
ときさんの娘さんはチケットぴあに勤めている
それで、ときさんのボケ防止にと、
ときさんの好きそうなライブや公演を
月に1回程度チケットを買ってくれてるようだ。
以前は娘さんが付き添って連れて行っていたのだが、
ときさんが友達と行くというので
最近はチケットだけを渡すようになったらしいのだ。

お父さんは玲香に買ってもらった
一張羅いっちょらいの スーツを着て今日は出掛けたのだ。

「太一郎さん、こんないい服を持っていたのなら、
こないだもこれにしてくれれば良かったのに・・・」

「実は、これは、娘がな、
ジャージ姿で水谷千重子のコンサートに行ったんじゃ
ときさんに失礼だと言って、先日、買ってくれたんだ」

「そうなの、いい娘さんを持って幸せね、断然 この方がいいわ」

水戸黄門は2部に分かれていて一部が終わると歌謡ショウが始まった。
終わったのは、19:40分だ。約、3時間40分の公演だった。
楽しかったのだが、少し疲れた。
水戸黄門の里見浩太朗と水森かおりの歌を
ときさんはとても気に入ったようだった。

御園座を出ると、何処かで食事をと少し歩いた時、

急にときさんがお父さんの身体に寄りかかり、
そのまま、地面に倒れてしまった。

ときさんの全身が震え、手足がうごめいている、
突っ張っていると云うのだろうか、そう、けいれんを起こしているのだ。

お父さんはすぐに、救急車を呼ぼうとしたが、番号が分からない、
通りすがりの人が、どうしたのかと声をかけてきた。

「ときさんが倒れたんじゃ、救急車を呼んでくれんか」

どうしようと、ときさん、ときさんと大きな声をかけるが応答がない。
お父さんも、慌てて、思いついた電話番号の110へ電話をしたのだ。

「どうされましたか、事件ですか、事故ですか」

「ときさんが倒れた」

「事故ですか、場所は・・・」

「だから、ときさんが倒れて困っとるんじゃぁ」

お父さんは、わけが分からずにそのまま、
電源も切らずにスマホをポケットに入れ、
ときさん、ときさんと呼んだ。警察官が来る、救急車も来た。
GPSでお父さんの居場所が警察に分かったようだ。

「どうされましたか、奥さんですか、事故ですか」

「ときさんが急に倒れたんだ、さっきまで手足がぐにゃぐにゃに動いとった
ときさん ときさんと呼んでも意識がないのじゃ、どうしたらいいんじゃ」

救急車がときさんを担架に乗せて救急病院と連絡を取っている。
「ときさんのご主人さんですか・・かかりつけの病院はどこですか、
お名前は・・・」
「わしはわしじゃ、病院へ早く連れて行ってくれ」

「かかりつけの病院はありますか」

「わしには分からん ときさんは友達じゃ」

「では、ときさんのお名前は」

「だから、ときさんはときさんだ」

「ときさんは何分くらい、けいれんをしておられましたか」
救急隊員が聞く
「長かった・・・どれくらいだ・・・何度も呼んだけど、
わ~わー言っているだけで、目が上を向いて、
手や足があっちこっちにぐにゃぐにゃ曲がるんじゃ、びっくりした。
そのうち、動かなくなって、わしは死んだのかと思った、
でも、身体が、まだ少し、動いたので、大丈夫かと思ったんじゃ」

お父さんはテンパっているのか、なんにも分からなくなった。
スマホを取り出すと、あかねに電話をした。

「おい、わしじゃ」

「お父さん、どうしたの」

「ときさんが倒れた・・・お巡りに代わる」

「もしもし、中警察ですが、ときさんという方が意識を失って倒れているのですが、ときさんは、貴方とどういう関係でしょうか」

「ときさんは上社の老人ホームに入居されている方で、
父もその老人ホームに入居しています。
ときさんは、たしか、糖尿病の方だと思いますが・・」

救急車はときさんの受け入れ先が決まったみたいで、
父も一緒に救急車に乗っていった。
あかねは玲香と一緒に搬送先の東部医療センターへ向かった。
東部医療センターは玲香が入院していた病院だ。勝手はわかっている。

ときさんはどうやら、御園座の公演が長かった事もあり、
夕方に射つ、インスリン注射をおこたったらしい。
そのせいで血糖値の変化でけいれんをおこして意識が悪くなったようだ。

ときさんはしばらく東部医療センターに入院をすることになった。
あかねと玲香が駆けつける。
ときさんの娘さんにも老人ホームから
連絡をつけてもらっていたので駆けつけてきた。

「今日は、とんだことになり、申し訳ありません」
あかねがときさんの娘さんに謝る
「いいえ、母には、いつも、インスリン注射を忘れないように
云っていたのですが、私もうっかり、
4時間近くの公演だとは気がつかずに、
母の好きな里見浩太朗の水戸黄門の切符を渡したものですから・・・
それこそ、中西さんにご迷惑をかけてしまって、ありがとうございました」

「いえいえ、いつも、父のチケットまで用意して頂いて、そうそう、そのお金もまだ、返していない」

「いえ、あのチケットは、母のボケ防止に、
月一で定期的に購入していますので、私はチケットぴあに勤めていますので、いくらでも手に入りますの」

「そうですか、でも、お金は払わせて下さい。父も、公演なんて、初めてのことで凄く喜んでいますので・・」

「いいえ、私の方こそ、いままで、ライブやら公演やら、
仕方なく付き添っていたのですが、
中西さんと行くようになってから、
とても、助かっていますので本当に結構ですから・・・
それこそ、食事やらタクシー代やら、こちらが払わなければ・・・」

「とんでもありません、では、よろしいですか・・・
これからもよろしくお願いします」

「それにしても、大したことでなくて良かったです。
しばらくは入院をするみたいですが、点滴で様子を見ると、
お医者さんが言っていました」

「父も、少し、軽い認知症がありますので、パニックになると、
なんにも分からなくなるみたいで、
お役に立てなかったのではないかと・・・」

「いいえ、でも、すぐに救急車も来たみたいですし・・・
名前が分からなくても、病院へ連れてきてもらえれば充分です・・・
ありがとうございます」

あかねと玲香は父を老人ホームに連れて帰ろうと思ったが、
まだ、お父さんは食事をしていないのだ。
時間は20;30を指している。
店は修平がいるので、なんとかなっているが・・・
すると、玲香がお父さんを店で何か食べさせてから、
老人ホームに送ると言い出した。
お父さんは、へこんじゃってどうでも良いみたいだ。
あかねは修平に電話をすると、お父さんを連れて行くので、
なにか、ご飯を頼むと伝えた。

「久しぶりだ。何年ぶりかな~開店以来だからな~」

「お父さん、ときさん、大丈夫でしたか」

「おおぅ、修平、わしゃ、ときさんが倒れた時は
びっくりして、なにもできんかった。
なにも、分からなくなって、
でも、救急車もすぐに来たのでよかったが・・・・
はぁ、でも、ときさん 死ななくて良かった」

「なに言ってるんですか、お父さんがときさんを救ったのですよ
お父さん、
焼きビーフンと雑炊を作りましたので食べて下さい」

「焼きビーフンも雑炊も初めてだな、ううん、美味しい おいしい」

「お父さん、今日、御園座で何を見てきたの」

「あれ、なんだった?」
玲香が 
「人生♬楽ありゃ♪苦もあるさ♫」

「そうだった、水戸黄門じゃ、思い出した」

「ああ人生に涙あり お父さん 一緒に歌おう」

玲香はお父さんとカラオケをした。
落ち込んでいたお父さんも、美味しいビーフンを食べて
ビールも飲んで歌を歌って機嫌も直ったようだ。

玲香はお父さんを老人ホームに送り届けると家に帰った。
今日は、大変な一日だった。


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泉 春樹
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