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NO31 澤正にて

9月1日 日曜日

 台風10号がゆっくりゆっくり上陸していたが、
名古屋に来た頃には熱帯低気圧に変わっていた。東海地方でも
岐阜県大垣市や三重県で河川が氾濫して道路や線路が冠水したため
交通機関にも大きな影響が出たが、名古屋においては、
台風は避けるようにして消えていった。

午後7時、澤正にて、団らん、4人は澤正で落ち合うと部屋に案内された。
あらかじめ、あかねが予約をしていたのだ。
お店の人も覚えているようで、丁寧に対応してくれる。
まずはビールで乾杯、春樹はビール色のお茶で乾杯した。

「今日は来てくれてありがとう、実は春樹と玲香に大切な話があるの」
あかねが改まって口を開くと
「やっと、結婚するんだ、いつ?」
改まった話なんて結婚意外に考えられないのだ

「玲香、気が早い、ちょっと、黙って話を聞いて・・・・ ね、」
玲香は身を乗り出してうなずく

「実は、ここだけの話だけど、いいい。ここだけの話だから、内密にね」

「ママ、な~に もったいぶって、どうしたの?」

「実は修平さんの事なんだけど、修平さん、昔、結婚していた時、
前の奥さんにDVをしてたんだって」
あかねは春樹と玲香に顔を近づけると小さな声で言った。
春樹と玲香が修平の顔をまじまじと見る。

「弱ったな、まぁ、そんなわけで、
あかねには結婚はできないって言ったんだけど・・・・・」

「ちょっと、修平さんは黙っていなさいよ・・・
その時に、奥さんに熱湯を浴びせて大けがを負わせたらしいの、
それが刑事事件になって刑務所に3年入っていたんだって、
もう、17年も前の話だから」 あかねは話を続けた。

「それで、俺は前科者だから結婚できないって云うの、私はそんな昔の事、
全く気にしていないから、結婚してって云っているのに、どう思う?」

「修平、前科一犯なんだ。格好いいじゃん、
ママがかまわないって言っているんだから、何も気にする事ないよ」

なぜ、結婚したがらないのか、分かった玲香は
「それが原因で、煮えくり返らないんだ。なんだ、そんな事、
胸にしまっていないで、もっと早く言えば良かったのに・・・・・」

春樹が、ウナギを平らげると、
「修平は前科一犯だろ、うちの親なんか、
捕まっていたら前科10犯はあると思うよ、
幼い、かわいい、かわいい我が子を捨てて、
女に走る変態エロじじいと男に走るゲス女、
おれはどれだけDVを受けたか、
3年なんて、軽い軽い、あのくそ人間たちは実刑百年でも足りんわ」

春樹は思い出しながら、カッカしてくる自分を押さえた。

「私だって、親に捨てられたようなもの、
17歳の時、不良にまとわりつかれて、家にも帰れず、勝手に仲間にされて
そんな時でも親の救いの手なんて、サラサラなくて、
私、1人じゃ、どうすることもできなかった」

あかねが修平をさと
「修平さん、人間なんて、みんな、大なり小なり生き様を抱えているのよ。
そんなに思い詰める事は無いわよ」

玲香が言う
「だれも、気にしていないから・・・・・
今の修平さんからは、想像もできないし、苦労しているのよねぇ 
誰かとは大違い、修平さん 聞いて・・・・・
私が茜でお尻ダンスを踊っているのに、嫉妬もしないどころか、
お客と一緒になって、私のお尻をさわってくるのよ、馬鹿じゃない?」

「何、言ってるんだ、俺がじーっと、我慢して、
見ない、言わない、腐らないの、三原則を心に抱いて、我慢していたのに、
ねぇ、修平、普通、亭主の前でけつ、さわらせる女房っているか、
聞いた事がないわ、しかもだよ、なんで、客にはさわらしておいて、
俺がさわろうとしたら、ダメェって言って逃げて行ったんだ、
考えられんわ」

「いいわよ、今ならどれだけさわっても・・・・・」
と言って、玲香は春樹にお尻を向けた。

「汚いけつ、見せるな、うなぎが腐るわ」



「ちょっと、二人で馬鹿やってないで、今は修平さんの話でしょう」

「ハイ、だから、修平さんはママと結婚する事が一番です」

「ママ、いつにするの、籍だけ、先に入れて、
今度、一緒に合同結婚式しょうよ」

「修平さんたら、
お父さんにも過去を打ち明けないと筋が立たないって言うの」

すると玲香が
「お父さん、認知症でしょ、修平さん、知ってる、認知症の人って、
なんか、一つでも言葉が引っかかると、
そればっかりに頭にいって暴れる事もあるって聞いたよ、
だから、前科者とか、刑事事件とかDVとかそんな物騒ぶっそうな言葉は言わないほうがいいよ」

「そうだよ、お父さんに言っても、理解できないと思うから、
いらん事は黙っていた方が得策だよ ねぇ、ママ」

「ほら、修平さん、思う事はみんな一緒よ、
だから筋を通すとか言ってないで、
籍だけでも入れましょうよ、春樹たちみたいに・・・・・」

修平が、口を開こうとした時、
「で、私、あんまり、修平さんが分かってくれないから、
婚約届と一緒に離婚届ももらってきて、
記入して春樹たちのサインもしてもらって、
いつでも出せるようにしておけばいいでしょうって考えたの」

「ママ、それはないよ、それじゃ、離婚前提に結婚するみたいだ、
だったらしない方がいいよ」

「そうよ、ママ、もし、修平さんがDVをしたら、
私が修平さんを機関銃で撃ち殺しに行くから、
大丈夫だから、離婚はあり得ない、ね、春樹」

「修平、ぎゃぎゃー 言ってないで、すなおに結婚したら・・・・・」

「そうだね、ただ、さっきから、ぎゃぎゃー 言って騒いでいるのは
春樹たちだと思うがな~」
4人は、せっかくのうなぎを堪能する暇もなく、
一応、修まりがついた心にほっと胸を撫で下ろした。

その後、4人でカラオケに行くと、充実した清々しい一日が終わった。

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身も心も過去もすべて受け止めて


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泉 春樹
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