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NO15 お客の手招き

22時、そろそろ、お客さんの帰宅時間だ。
昨日、今日と雨が降り続いている。
プリンス大通りの片側1車線の小さな交差点で手が上がった、
春樹は交差点の南向きで信号待ちをしていると
交差点の東側でお客さんが曲がって来るように指示をしている。
そんな所で待っていないで信号機が赤の間に
お客さんがタクシーに乗り込んでくれればいいのにと思いながらも
春樹は左ウインカーを出して青になるのを待っていると
後ろから男女のお客さんがドアをノックして乗せろと言って来た。

春樹はそのお客さんを乗せて、手を挙げていたお客さんの前を通過する。
さっきのお客は春樹をにらんで怒っていた。
「なんだ、あのおっさん、運ちゃんをえらくにらんでいたけど、
なんかあったのかな」

乗車中のお客さんが言った。春樹が答える。
「先にあのお客さんが私に曲がるよう指示していたんですが、
お客さんたちがドアをノックされたので乗っていただきました」
 
「あの人の方が先だったんだ、だったら、曲がれなんて言ってないで、
信号待ちの間に乗ればいいじゃん」

「そうですよね、あぁいう方、結構多いのですが、
 タクシーに乗るマナーとでも思ってるのでしょうか
本当にタクシーが止まっている間に乗り込んでくれれば
円滑に走行できるのに、左に曲がって止まったら、
また、後ろの車にも迷惑を掛けるわけで・・・なんでしょうかね」

「乗ったもん勝ちだよね」女性客が言った。

「はい、そのとおり、乗ったもん勝ちです」
春樹はお客様を千種駅に送ると駅から、またお客さんが乗ってきた。
雨の日は近い距離のお客さんが多い。
珍しく千種駅にも待機しているタクシーがいなかった。

本当に、雨の日は何が起きるか分からない。
赤信号で信号待ちをしていると、
春樹の前にいた先頭のタクシーが
お客さんが手を挙げて寄って来るのを見て、
左脇に車両を寄せた時、道路の左側から、
走ってきた自転車が横断歩道を渡ろうと、
ハンドルを右に切った瞬間、タクシーとぶつかった。
自転車に乗った若い女性は片手で傘を差していた。

通常、自転車は横断歩道では自転車から降りて渡るものだ。
しかし、信号待ちで止まっていたタクシーが
お客さんが手を挙げたからと云って、
横断歩道をまたいで左に寄せるのもまずい。
ただでさえ、雨で視界が悪いのに・・・・・
とは言え、春樹の横を通過して右に曲がる自転車も問題がある。
多分、あのタクシー運転手には自転車など見えていなかったはずだ。
春樹は青信号になったので、その場を去りたかったのだが・・・・・
考え直して、目撃者としてその場に残った。
倒れた女の人の救助に当たる

  身も心も過去もすべて受け止めて



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泉 春樹
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