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NO5魔が差した事 3月6日水曜日

 

午前1時30分 修平が桜通り大津の交差点に差し掛かると、
横断歩道で信号待ちをしている茜のママを見つけた。
修平は車を停車して、後ろのドアを開くとあかねを呼んだ。
「ママ、乗って乗って!」
その声に気づいたあかねは、取り敢えず、後席に座った。
「修平さん、いいの!すぐ近くよ」

「あれ、勝川じゃなかったの?」

「あぁ~、あの時は実家に帰ったの、ちょっと、父の様子を見に・・・・・」

「そうだったのか、そうだよね 毎日、タクシーで勝川まで帰ってたら、
えらいことになるよね」

「だから、そこの高岳を超えて、すぐの路地を入って、
そう、まっすぐ行って!そこの公園の横のマンションなの」
修平は車を止めると、あかねに話しかけた。

「ママ、こないだは、ありがとう、春樹が飲まないのに、ボトルを
入れてもらって本当によかったのか。
なんか、余計、迷惑をかけたみたいで・・・・・」 

「いいの いいの、私も貴方達が入って来た時、ちょっと戸惑ったの。
まさか、来るとは思わなかったし、
お店の子たちにあんな事、知られたくないし、
お客さんが聞いたらどう思うかしら。
なんか、ごまかせないかと・ボトルでごまかせたら安いもんだわ」

「なるほどね、またなんで、あんな事になったの」

「本当にね、魔が差したのね、
春樹が、あ、春樹なんて呼び捨てにしちゃまずいかしら
あの子の雰囲気が、愛知学院の時の後輩にすごく似ていて、
その子と重なちゃったのね・・・・・」

「どういう事、愛知学院の時の後輩って元カレ!」

「そんなんじゃなくて吹奏楽部の後輩よ、弟みたいな子だったから・・ 
私、フルートを吹いていたの その子によく教えていたわ」

「すごいね、フルートが吹けるんだ。1度、聞いてみたいね」

「もう、何年前かしら 20数年前の話だわ」

「春樹って、本当にその子に、よく似ていて、
つい、呼び捨てにしちゃったけれど・・・・・」

「気にする事はないよ、なんてったって春樹とちちくり合った仲なんだろ」

「ま~ヤダ そんなんじゃないけど、
ほんとにね、あの時は、お店で喧嘩になるし、
前の日は父が夜中に堤防を歩いていたみたいで、
医者は、かるい認知症だって云っていたけど、
だから、あの日は父の様子を見に行ったの」

「そう、お父さん、認知症じゃ、大変だね、夜の仕事どころじゃないね」

「なんだか、疲れちゃって・・・・・
それで、たまたま、春樹のタクシーに乗ったら、よくわからないけど、
ちょっと、ちょっかい出したくなっちゃったの。
なんだか、あの子、危なくないって云うか、逆らわないって云うか、
直感的に操れるって思ったの・・・・・
言っとくけど、あんな事、生れてはじめてよ、
男に手を出すなんてサイテー、 みっともないったらありゃしない」

「んんぅ、でも、タイマーをかけていたんだって」

「タイマーなんてかけていないわよ」

「でも、春樹が15分経ったからタイムオーバーって云われたって、
えらく気にしていたけど・・・・・」

「あぁ、あれね、こんな事やってたら、やばいと思って・・・・・
自分から手を出しといて、勝手な話だけど、けりつけようと思って、
スマホの防犯ブザーを鳴らしただけ」

「なるほど、そういう事か、なるほどね! 
まぁ~人間誰でも、一度や二度、魔が差すって事あるよ、
でも、なんだか、少しわかるような気がする。
春樹は、根がまじめだし、優しいし、すきまがあるし、扱いやすいし、
それは悪い意味ではなくて、あいつの取り柄なんだけどね、
そのツボにママは、はまったのかもしれないね」

「なんか、言われてみれば、修平さんの言う通りのような気がしてきたわ
修平さんと話ができてよかった。ちょっと、心が楽になった。ありがとう」

「おおぅ、なんか、困った事があったら言って、ちからになるよ、
お父さんの事でもちからになるから」

「ありがとう 料金いくらだった?」
「何言ってんだよ、お金を取る気で乗せちゃいないから、
茜の専属タクシーだし・・・・・はい、おやすみ」

修平はそう言ってドアを開けた
「ごめんね、ありがとう、お店に来てね、おやすみなさい」
「おやすみ」
 もう、1時50分を過ぎていた。修平は急いで会社に帰った。



身も心も過去もすべて受け止めての挿絵はすべてkeiさんから借りています。


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泉 春樹
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