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NO76 タクシー運転手集結

もう、師走に入ったというのに今年は異常なヒドさだ。
世界中の天候が狂っているが、
それと関係があるのだろうかと思うほどお客がいない、
なんでも疑いたくなる。
今朝もアメリカのカリフォルニア州北部でM7の地震があったようだ。

忘年会シーズンは何処に消えたのか?
早い時間はそれなりに人はいるようだが、
公共交通機関が無くなると同時に人の姿は街から消えてしまう。
10月・11月もひどかったが、それにも増してお客がいない。
12月になればと期待をしていただけに春樹は心が折れた

これはきっと錦の飲屋街も同様に【やっとれん】といって
さじを投げているに違いない
例年の事だが、年明け早々、また店をたたむ店主も大勢出てくるだろう。
運転手もしかりだ。こんな時だからこそ、
茜専属タクシーを大きくしていく必要があると春樹は思ったのだ。

春樹はあかね専属タクシーを増やすため、
同僚の運転手たちに声をかけた。
 15年も会社に勤めていると、以前勤めていた同僚たちの中には
他の会社に移った人も少なからずいるのだ
名鉄や近鉄・フジや宝等の会社に移った同僚たちにも声をかけた。
タクシーの乗客は支払時、
他会社のチケットを持っている場合がよくある。
それに対応できるようにしておかなければならない。
とりあえず20人は確保しようと考えたのだ。
春樹は同僚たちと日時を決めて
名城公園に集結してもらうように電話をした。

 翌週の月曜日 20時にタクシーがどんどん名城公園に入ってくる。
この時間の名城公園は、駐停車をしている車も少なく、
いくらでも車を止める事ができるのだ。

 懐かしい顔ぶれが、「オス!」「やぁ!」「元気だったか」
みんな、思い思いの人たちと声を掛け合っていた。

「こんばんわ、みんな元気そうで何よりです」

「泉ちゃん、いい話って金になるのか?」

「泉ちゃん、ちょっと太ったか?
相乗りって言っていたけど、
 今更、相乗りは難しいと思うがな」
 
「最初に、俺・・・・・ 実は・・・・・
今年、養子縁組をして【中西】って、名前に変わったのでよろしく!」

「結婚したのか、おめでとう きれいな女か、一度、会わせろよ」

「今日、みんなに集まってもらったのは、
あかね専属タクシーの募集なんだ」

「あかね専属タクシーって?」

「あかね専属タクシーって言うのは、
あかねというスナックが、
お店のお客さんたちにタクシーの相乗りを斡旋しているんだ。
それを受けるタクシーが、あかね専属タクシーなんだけど、
タクシー自体は相乗りとは関係が無い。
ただ、スナックのお客さんを何カ所か経由して送り届けるだけだ。
大体、一件あたり1万円前後の仕事になる。
ここにいるみんなは10年以上、タクシー業界にいるから、
ナビなど見なくてもポイント位置さえ分かれば、
だいたい着ける事はできると思うんだ、
逆に名古屋の地理は苦手という人は残念だけれど加われない」

運転手たちが口々に言う
「名古屋の道くらい朝飯前だ、それでめしを食っているんだから」

「しかし、今の客は乗ってくるなりナビを入れろって言う奴が多くなって、
俺らのプライドはズタズタだ なぁ、みんな!」

「ホント 本当!」

「タクシーのキャリアなんて何の役にも立っていない」

「最近じゃ、運転手を馬鹿にして、車線まで一々、口を挟む」

「そうだよね、しかし、茜専属タクシーに加われば、
そんなお客を乗せる事はない。
運転手のプライドを持って気持ちよく仕事ができるはずだ。
相乗りのお客には、約1/3の料金で家に帰れると言ってあるので、
もし、タクシーの中で問題を起こしたら、
もう、相乗りタクシーを使えなくなる。
また、相乗りする人たちは、少なかれ多かれ、
スナック茜で顔見知りの人たちだから揉める事は無いはずだ。
万が一問題が起きたなら、
すぐに連絡をくれればこっちで対応するから!
お客の家も電話番号も分かっているので、
お客が眠っていて起きない場合は、
身体を揺すっても何も問題は起きない、
とはいえ、女性の場合は良識のある範囲内で起こす事、
なんだったら、家に直接電話をして、
家の人に出て来てもらう事もできるので無理はしないように、
それから、もし、ゲロを吐いた時は、
店側で責任を取ってもらう事になっているので、
上限1万円をめどに支払ってくれるように言ってある。
つまり、ゲロを吐きそうなお客をタクシーに乗せるなって事」

「本当かよ、すごいな、そんな、いたれり尽くせりの仕事ってあるか」

「ウソだろ、本当に・・・・・俺にやらせてくれ」「俺も」「おれも」

「ただし加わるには条件がある、
みんなに渡した用紙に、住所 氏名 電話番号 連絡先 メールアドレス 
会社名 会社の住所 電話番号 
それから、毎月の日程表 勤務時間等も記入してもらわないとダメなんだ。
これは、茜専属タクシーに関わるすべての人に情報を
提示してもらっているんだ。
当然、お客にも必要事項は書いてもらっているし、
約束事にもサインをもらっている。
だから、くだらん事で揉める事は絶対に無い。

「そんないい話、あるか? 俺にやらせてくれ」「おれも!」 「おれも!」

「年明けから始める予定なので、
今日、22人も来ているのでびっくりしているんだけれど、
年明け発足時にもう一度、みんなに集まってもらって、
茜専属タクシーの流れを説明するので、
加わりたい人は必ず来るように・・・・・その時は、こんな場所では無く、
何処かお店で新年会も含めて集まってもらうので参加費5,000円、
徴収しても良いだろうか!」

「春樹、それって、毎月、斡旋料とかで金を取るんだろ」

「それはない、一切無い、お客からも、もらわない
俺たちはボランティアみたいなもんだ

要は、街に活気が戻れば、店も忙しくなる、
タクシー代が1/3になれば、遠くからのお客も街に戻って来る。
それまでの辛抱だと思っているんだ」

「ウソのような話、よく、そんな事を考えたもんだ」

「本当、これを会社がやってくれたら・・・・・
春樹、潰れそうな会社を買い取って
茜専属タクシー会社って作ったらどうだ、俺たちも協力をするからさ」 

「ありがとう 考えておくよ!
それで、さっき渡した用紙に詳しい決め事を書いておいたので、
よく目を通してから新年会の時に提出してくれ、頼むね」

みんな、希望を膨らませて解散をしたのだ。


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泉 春樹
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