NO52 春樹 錦で激情
10月31日 [木曜日]
PM22時 春樹は住吉でかわいい女の子を2人乗せた。
住吉とはどちらかと言えば若い人たちが集まる飲屋街だ。
どうせ近いだろうと思ったが、案の定、新栄までだった。
女の子たちは両サイドの窓を開けると、
顔を出して行き交う人たちに、手を振って挨拶をしている。
飲屋街の中を走行しているのでスピードは上げられないのだ。
「バイバ~イ バイバ~イ バイバ~イ」と言って
彼女たちは手を横に振っているのだ
春樹は、変な客を乗せたな、困ったもんだと思っていたのだが、
すれ違う人々 、行きかう人々も、また、この女の子たちに
「バイバ~イ」 「おやすみ」「さようなら」って
笑顔で返事が返ってくるのだ。
なんか、街の中がパーと明るくなったような気がした。
花が咲いた感じだ。
なるほど、こんなのも有りだと思った。
こんな子たちが増えれば街も活気づく・・・ほのぼのとした時間だった。
料金は1040円だったが、
気分が良かったので40円はサービスするよと言って2人を降ろした。
あかねからメールが入る
村井さんたちだ、5の数字を打ち込んでメールを返した。
いつもの場所にタクシーを止めようとしたが、
すでにタクシーが3台、止まっていて、止められない、
3台とも、春樹の会社の車両だ。
仕方が無いので交差点の北側によせると、
加藤君が近づいてきた。
「泉さん、スナック茜?」
「そうだけど・・・どうして」
「順番だからね、3台の後で乗せてよ、
お客さんたちは一番遠い所から順番に乗ってくるのだから」
「加藤君、どういう事、どの客を誰に乗せるかって誰が決めてるの」
「あれ、知らないの、
俺たち、高木さんにマージンを払って、お客をもらっているんだから」
その話を聞いて、春樹は激情した。
交差点の向こうに高木ともう1人が立って、なにやら雑談をしている
春樹はあかねに電話をすると、
ちょっと時間が欲しいのでお客を帰らさないようにと頼んだ。
春樹は高木にどういう事かと聞いた。
「おい、高木、今、加藤君から、話を聞いたけれど、
みんなからマージンを取っているって本当か」
「あの、みんながお金を払うから
仕事を世話してくれって言うもんでつい」
「つい・・なんだ、ふざけるな、そのマージンとやらはみんなに返せ
それから、今後、お前にはあかねから離れてもらう、去れ バカヤロウ」
その話を聞いていた加藤君と田中さんが、訳が分からず、びっくりしている
春樹は、その時、ちょうど、顔見知りのタクシーを見つけたので後ろに付けさせた。あかねが下りてきた。
「春樹、大丈夫だった」
「姉貴、あの高木、とんだ食わせもんだから外した、もう、呼ばないように
もう、大丈夫だから お客さん呼んできて・・・」
あかねは店に戻る。加藤君と田中さんが、
茜のママとどういう関係かと聞いてきた。
「姉さんだよ、かならず、高木からお金を返してもらえよ、
今までの分、全部な」
「泉さん、俺たち、また、呼んでもらえるのだろうか?」
「さて、行い次第だな」
そう、言っていると
お店からお客たちがぞろぞろ下りてきた。
お客たちが春樹を見ると、てんでに声をかけてくる。
瀬戸の村井さんが
「泉さん、れいちゃん 大丈夫か」
「おかげさまで先週退院しましたので、今度、挨拶に伺います」
すると、幸ちゃんが
「じゃ、れいちゃんの退院祝いパーティをしようよ」
「いいね、いいね、いつにしようか」
お客たちは玲香の退院祝いで盛り上がっている。
あかねはタクシーが待っているからと、全員、車に乗せて発車させた。
香奈ちゃん 智ちゃんが春樹に挨拶をする。
この2人も玲香に会いたいらしい。
春樹はいつものように 山口さんを一社に降ろすと
井沢さんを印場に降ろし 、最後に村井さんを瀬戸で降ろした。
車内は玲香の退院祝いパーティーで持ちきりだ。
本人たちの知らない所で話が一人歩きしていく。
春樹は、ただただ、首をかしげるばかりだった。
春樹は村井さんたちを送り届けると、その足で、姉貴の所に戻った。
時計は一時を過ぎていた。姉貴が出てくる。
「春樹 なんだったの、高木さんが、何かしたの」
「高木がね、みんなからマージンをもらって
茜のお客をまわしてたらしいんだ、辻さんもそんな事をしているのかな」
「辻さん、最近連絡がつかないから、全部、高木さんにお願いしていたの」
「そうか、それで自分で仕切れるものだから、金を取って回していたのか」
「もしかすると、遠い客は自分のお客にするために、
少し料金を下げて交渉しているかもしれないな、
そうすれば、お客の方もスナック茜で飲まなくても
タクシーは確保できるわけだからね、
姉貴、最近、遠ざかっているお客さんいないかな」
「どうかしら、ちょっと、頭に入れておくわ、
でも、そう、高木さんがねぇ~~智ちゃんと香奈ちゃんにも伝えておくわ
じゃ、春樹、あんたがこれから、仕切ってよ」
「おれ、苦手だしな、明日にでも兄貴に聞いてみるわ」
春樹はあかねを家に送ると会社に帰った。