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NO85 元旦

「年の始めのためしとて
おわりなき世の めでたさを
松竹まつたけたてて かどごとに
祝う今日こそ 楽しけれ

初日のひかり さしいでて
四方よもに輝く 今朝けさのそら
君がみかげに たぐえつつ
仰ぎ見るこそ とおとけれ

あけましておめでとうございます
本年もどうぞよろしくお願いします」

と、4人の大合唱が終わった。

つまり、玲香はリビングに4人が揃うと元旦の歌詞を各々に渡した、
すると、指揮を執って歌い出した。
歌詞を手にした修平達は当然のごとく歌う。
歌い終えると、新年の挨拶も書いてあるので読んだ。
それだけの事である。

「ねぇ、お兄さん、雑煮を食べたら大須観音へ初詣に行こうよ」
玲香が修平にせがんでいる一方で
あかねが、みんなに餅を何個食べるのか聞いている。
「そんな遠くまで初詣?」春樹がおっくうそうだ。
玲香は出来た雑煮をテーブルに運びながら、
「だって、私、一昨年、東京から出てきて、
一度も大須商店街って歩いた事がないの、
タクシーを転がしていた頃は車の中から、大須観音は覗いてみてたけど
春樹は連れて行ってくれないし・・・・・」
春樹は、食いさしの雑煮を、お椀に戻すと、
「えぇ、玲香、お前、行きたいなんて口にした事ないだろ」

「だから、初詣って思ったら、急に行きたくなったの」

「そんなの、オレのせいじゃないじゃん」
また、春樹は5個の雑煮を食べ出した。

「そうか、れいちゃんは大須観音へ行った事がないのか、
じゃ熱田神宮は?」
修平は八海山を冷やで飲んでいる。
「ないよ、笠寺観音も、興正寺も日泰寺も上野天満宮も、
城山神社もそれから・・・・・」

「つまり、タクシーをしていたから、主な寺は分かるけど、
中に入った事がないので連れて行けって言ってるんだろ」

「そうねぇ、私だったら商売繁盛や家内安全のご利益がある
千代保稲荷神社おちょぼさんに行きたいわ」

「だったら、おれ、犬山の成田山とか、男の田県たがた神社かな」

「おい、おい、れいちゃんの顔、見て見ろ、むくれているぞ」

「いいわよ、私なんか・・・春樹も、おねえも好きな所、
勝手に行けばいいでしょ」

「ごめん、ごめん、そんなつもりじゃ、
ただ、名古屋近辺の主だった寺を並べてみただけで、
本当に行こうなんて思っていないから、
ねぇ、姉貴」

「ええぇ、そうよ、口にしただけ・・・・・」
あかねは本当に行きたいとは口に出来なかったのだ
その時、智美から電話が入った。

「あら、智ちゃんから電話」
スマホをスピーカーにしてテーブル中央に置いた

「ママ、明けましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いします」

「智ちゃん、おめでとう、今年は、最高の年になりそうね、頑張ってね」

「ありがとうございます。私たち昼から初詣に行こうと思って、
熱田神宮!今年は凄く混んでるみたいで、どこかいい寺ないですか」

玲香が今とばかりに
「智ちゃん、大須観音に行こうか、
今からだと、13時30分くらいにコメ兵で待ち合わせして・・・大丈夫」

「じゃ、私、香奈ちゃん達も誘ってみます」智美は乗り気だ。
玲香は、春樹を横目に淡々と話を進めてしまった。
修平もあかねも従わざるを得ない。

あかねは茜色のタートルネックセーターの上に
ベージュのアルパカコートを羽織ると少し気分が乗ってきた。
玲香は黒のセーターの上に黄色のダウンを着ている。下はジーンズだ
外の気温は8℃と寒いが二人は暖かそうだ。

春樹の運転で大須パーキングに車を入れるとコメ兵には約束の時間より
10分も前に着いたと言うのに智美達も香奈子達もすでに来ていた。

「明けましておめでとうございます
本年もどうぞよろしくお願いします」みんな、それぞれに言っている

「凄い人ね!」
大須アーケード街をぞろぞろ歩きながら大須観音に向かった。
途中、しゃれたケバブの店があったのでチキンのロールケバブを買って食べ歩く
「食べ歩きなんてずいぶんしていないな~」修平が言う

「本当、私も学生の頃は部活の帰り、
アイスやたこ焼きなんか食べながら家に帰った記憶があるけれど、
あれ以来かな」香奈子が美味しそうに食べながら言う

大須観音には、お詣りの列が出来ていてガードマンが誘導していた。
その中に8人は並ぶ


「そう言えば、智ちゃん、ゆいちゃんは?」

「まこちゃんのお母さんと家で遊んでいます、そうだった・・・・・玲香さん、
クリスマスにミニチュアアニマルセットありがとうございました。
実は私もミニチュアアニマルセットを買ったんだけど安物だったから、
色も形も大きさも全然ダメで・・・・・ゆいが、いい顔をしなかったんだけど、
玲香さんから貰ったミニチュアアニマルセットを見せたら、
もう、夢中になって、
今日もそれで、お母さんと遊ぶと言ってたのでおいてきました」

「そう、良かったわね、智ちゃんさぁ~、おもちゃを買ってあげる時はね、
そのおもちゃで自分が遊びたいかどうかで決めた方がいいわよ。
自分も遊びたいと思うおもちゃなら、いつでも遊んであげられるでしょう
だから、きっと、お母さんもミニチュアアニマルセットが
気に入ったんだと思うけど」 玲香が自慢そうに言うのだ

「まぁ、れいちゃんたら・・・・・、
でも、正月早々、ゆいちゃんの子守りじゃ大変ね」

「でも、母は兄貴の子供よりゆいの方が可愛いと言ってますし、
今じゃ、ゆいは母と一緒に寝ています」 誠が嬉しそうだ

「智ちゃんのお母さんに会いたいって言わないの?」

「もう、忘れてるみたいです」 それを聞いてみんなが笑った

「そんな物かしら」

「私もよく分かりません
でも、まこちゃんのお母さんと馬が合うみたいです」

参詣の順番が来たのか、一同に階段を上がっていく
お詣りを済ますと、大須観音の横にパントマイムがいた。

「人形かな?」香奈子が不思議そうだ

「あの人、金山駅でパントマイムしている人だよ」春樹が言った

「あ、本当だ、今、動いたよ、本物だ」信二が驚いている

「そうなんだ、お賽銭を入れると動くんだ。おもしろい」
香奈子が見入っている

「ゆいにも見せたかったな」誠が残念そうに言った

8人はしばらく、パントマイムの動きに見とれていた。

その後も、玲香はウェブで調べたのか、あそこに行きたい、
あそこが美味しいと云ってみんなを連れ廻った。


身も心も過去もすべて受け止めて


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泉 春樹
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