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NO60 智ちゃんと武田 誠

誠は、智ちゃんと香奈ちゃんを誘って、
また、カラオケに行きたいと思った。
香奈ちゃんに電話を入れたが、なかなか出ない、
どうしようかと迷ったあげく、思い切って智ちゃんに電話をした。

「あれ、まこちゃん」

「智ちゃん、起きていた?」

「さっき起きたところ・・・どうしたの」

「うん、香奈ちゃんに電話をしたけれど、
でなかったので ごめんね、智ちゃんに電話をした」

「そう、どうしたの・・」

「あのさ、また、3人でカラオケに行きたいと思って・・・」

「いいけど、香奈子は行かないと思うよ」

「どうして、なんで、何か、あったんかな」

「あれ、知らないの、香奈子と信ちゃんの事」

「えぇ~、なに 付き合っているの?」

「知らないんだ?会社で信ちゃんと会わないの」

「勤務は一緒だから、いつも顔は合わせてはいるけれど、
僕、加藤ってスキじゃないから、あんまり話をしない
あいつ、自己中だし、強引だし、
人を見て態度を変えるし・・だからスキじゃないんだ」

「そうなんだ、自己中で強引なんだ」

「うん、自分が正義だって顔して話をするから・・嫌いなんだ
香奈ちゃんと加藤、付き合っているの」

「うん、ちょっと、複雑なの」

「智ちゃんさ~、できたらでいいんだけどカラオケに行かない」

「いいわよ、でも、香奈ちゃんがいなくてもいいの」

「僕、香奈ちゃんが、どうのってわけじゃないし・・・」

「カラオケに行きたいだけなの」

「別にカラオケがってわけでもないし」

「じゃ、何」

「何って言われても・・・・」

「じれったいわね、なんなの、煮え切らないわね」

「僕、智ちゃんと居られたらいいんだ」

「なに、それ、だって、先に香奈ちゃんに電話をしたんでしょう」

「あ~ぁ、あれは、だって、香奈ちゃんに断られても、別に平気だけど
智ちゃんに直接、誘って、断られたら、へこむから・・・辛いし」

「どういう事、ねぇ、それって、私が好きって事、ねぇ」

「そうだけど、恥ずかしいじゃん、だから、無理しなくていいよ
できたらでいいんだけれど、カラオケに行かないかな~」

「なに、カラオケがいいの」

「なんでもいいよ、べつに一緒にいられたら・・・」

「じゃ、さぁ 今、毎週 日曜日に
夜、堀川を遊覧船が運行しているんだけれど、一緒に乗らない」

「堀川って、納屋橋の・・・?
あ、前に、その船、見たことがある、うん いいよ」


「じゃぁ、今度の17日 日曜日は休み?」

「17日 うん、休みだよ」

「17日 サンシャイン栄、
観覧車の下で15時に待ち合わせようか 大丈夫?」

「本当にいいの、ほんとうに、ラッキー、絶対だよ ぜったい!」

「うん、じゃ、17日 サンシャイン栄 夕方3時にね」

「分かった、本当に、約束したからね」
誠は嬉しかった。今日は木曜日 仕事に気合いが入る。

11月17日 (日曜日)

誠は地下鉄名城線に乗って栄に来た。
毎日、タクシーで流している街である。知り尽くしているはずなのに、
この地下街が全く分からない。
とりあえず、エスカレーターで地上に出たが、
此処の場所が皆目、分からない、ビルの向こう側にテレビ塔が見える。
少し歩くと、ようやく見慣れた景色が目に広がった。
昼と夜では、景色も違うようだ。
白のTシャツにピンクのカーディガン、下はグレーのデニムパンツだ。
誠は智ちゃんを見て夜の錦で働いているとは思えないと思った。・・・
素朴な可愛さが見える 初々しいというのだろうか・・・
その智ちゃんが両手で可愛く手を振っている。

「早いね、まだ、15分前だよ」

「今、来た所、じゃ、まこちゃんも早いじゃない」

「そうか、そうだね」
智ちゃんが手を出した。誠は、そのしぐさがよく分からない。
すると、智ちゃんが誠の手をにぎって、やっと、理解ができたのだ。

「手なんか、握ったことがないから、なんか、恥ずかしいよ」

「けっこう、うぶなんだ かわいい」

「かわいいって言われてもなぁ・・・
それって・・どういうふうに取ればいいんだろう」

「なにを難しく考えているの、可愛いはかわいいでしょ」

「ほめられているんだか、けなされているんだか???」

「ほめもけなしもしていない、ただ、かわいいって言っただけ・・」

「まこちゃん、そんなにこだわる人だっけ?」

「だって、智ちゃんにへんなふうに思われたくないし・・・」

智美の顔が治った。
「大丈夫よ、もっと、自分に自信、持ったら・・イケてる、イケてる」

「まだ、早いし、どこに行こうか、船、19時だよね」

「名古屋城?水族館?動物園?あと、どこ?」

「その前にさぁ、ちょっと、話したいことがあるの オアシスに行こうか」
オアシス21とはガラス張りの床の下は水が流れている立体型公園だ。
別名、水の宇宙船とも呼ばれている。


マックでひるまックてりやきマックバーガーセットを持って
公園のベンチに腰を下ろすと

「ねぇ、まこちゃん、なんで、私がいいの?」

「なんでって、ぽっちゃりしたところかな」
「それって、デブって事」

「ちがうよ、ぽっちゃりはぽっちゃりだよ、なんて言うかな、
基本、痩せている人って好きじゃないから・・・」

「そうなんだ、でも、私、もう、ちょっと、痩せようと思っているのよ」

「いいじゃん、痩せようと思っているだけすばらしいよ」

「ほんとう?」

「太っているのに気にしていない人、たくさん いるから・・・」

「そうだよね、私、痩せようと思っているもん、大丈夫だよね」

「全然 問題ないから」

「よかった!」

「私、痩せようと本当に思っているから、本当に大丈夫だよね」

「大丈夫、大丈夫 本当に、痩せようと思っているなら、大丈夫だよ」

「それはそうと、話って・・・」

「だから、外見がいいの、ぽっちゃりした人なら誰でもいいの」

「違う、違うよ!智ちゃんといると、暖かいって言うか、包んでもらえるって言うか・・・智ちゃんは、包容力があるんだ・・・だから、落ち着くって言うか優しくて、暖かくて、居心地がいいって言うか・・・
言い方が変だけど・・スキなんだ」

「じゃぁ さぁ~ 私、もう、28歳だし、少し焦っているんだ
まこちゃんは30歳でしょ 私たち、そろそろだと思わない」

「そりゃあ、そうだけど、お袋も、やーやーうるさいけど
そんな、まだ、これから付き合えたらいいなって、
思ったとたん、結婚って・・・」

「そうだよね、だけど、ここが一番重大な事なのよ・・
結婚する気のない人と付き合う時間は、私にはないから・・・
最初に確認をしておかないと・・
それとも、あそび?」

「あそびなんて、考えたことないよ、ただ、一緒に居たいな~て・・」

「いつまで、一緒に居たいの?今日だけ?明日は?あさっては?いつまで」

「そんな、期限きられても、契約じゃ無いんだから」

「だから、1年・2年・5年・10年・ばばぁになってしまうよ」

「まって、まって、待ってよ まだ、Hもしていないのに・・・」

「じゃ、しに行く?」

「えぇ~」

「冗談だってば! ちょっと、追い詰め過ぎちゃった。ごめんね」

「はぁ~びっくりした
でも、確かに、そんな時期にさしかかっているんだよね
たしかにね~ちょっと、まだ、自覚がないから、少し時間が欲しい
まだ、知り合ったばっかりだし・・・」

「あれ、私はまこちゃんの事、先月から知っているけど・・
そりゃあ確かに、カラオケはこの間、始めて行ったけれど
知り合ったばっかりって表現、おかしくない」

「茜専属タクシーに入ったのは確かに1ヶ月前くらいだけど、
智ちゃんの顔は知っていたけど、挨拶をするくらいだったし・・
でも、知っていることになるのかな~」

「顔は知っているんだから、知っているんじゃなぁい」

「そうか、もう、5時だね、納屋橋近くで、ちょっと、飲もうか 
なんか、智ちゃんの気持ち・・・じわ~と分かってきたような気がする」

COLORS.366は堀川を眺めながらのビアガーデンだ。
フライドポテトと生を2つ注文した。

「ねぇ、もし さぁ、私に借金が500万円あったらどうする」

「借金をしてるの、何に使ったの」

「していないわよ、
だから、もし、借金があったら、結婚してくれるのかって例えよ」

「へんな、たとえ、別に・・いいけど、二人で返していくだけだから」

「じゃぁさぁ~、私の親が前科者だったらどうする」

「えぇ~、何をしたの、殺人?」

「だから、例えばの話」

「もっと、普通のたとえってないの、恐いよ、なにが言いたいんだ」

「だから、私をどれくらい思ってくれているのかな~って」
智美はジョッキを飲み干すと誠の目を探った

「だから、それは、さっきも話したけれど、まだ、付き合って・・」

「わかったから、じゃぁさぁ~、家に猫が10匹いたらどうする」

「そんなに猫がいるのか」

「いないわよ、もう、だから、猫がたくさんいたらどうするのって
聞いているの」
誠は智美のジョッキが空になった事に気づき、
カウンターへ生を二つ貰いに行った。
智美にジョッキを手渡す
「猫、だっけ、飼った事ないからわからないよ!」

「じゃぁさぁ~、私に2歳の子供がいたらどうする」

「どうもしないよ、女の子?男の子?」
「女の子」
「可愛いの?」
「うん、とっても可愛い」

「名前は?」

「由衣」

「えぇ、ちょっと、本当にいるのか」

「ごめんね、だって、早く、言っておかないとまずいと思って・・」

「まわりくど~、それで、さっきから、
わけの分からないことを口走っていたんだ?」

「ごめんね、なんか、切り出せなくて・・・」

「つまり、智ちゃん、バツイチなんだ」

「ううん、結婚なんかしていない」

「じゃ、子供は?」

「もとカレは子供ができたって知ったら逃げちゃった・・
でも、生みたかったの、両親は大反対をしたけれど・・・産んじゃった」

「何歳だっけ」

「2歳、めちゃ、可愛いの・・」

「今、どうしているの」

「母が見ててくれてる」

「でも、智ちゃんに子供がいるなんて、聞いたことないけど」

「誰にも言っていない、香奈ちゃんもママも知らない、内緒にしてるから」

「大変だね、デイトどころじゃないじゃん」

「そう・・・だから、一緒に由衣を育ててくれる人・・欲しいの」
智美は、誠をじっと見た。
「えぇ、おれ!」

「うん!子供、いや?」

「だって、そんなの、会ってみないと分からないし・・」

「ねぇ、連れてきてもいい、まだ、時間あるし、
タクシーを使えば5分もかからないから・・
見るだけ・・ね! いいでしょ」

「みるだけなら・・・」二人はタクシーで智美の家に行った。
若宮通り沿いにある市営住宅だ。

「本当、近いね ここ 市営住宅?」

「そう、狭いけれど、一応 3DK」

タクシーの中で誠は待った。
智美が由衣を抱いてタクシーに乗ると、
また、納屋橋に向かった。
由衣はタクシーに乗っている間、
智美にしがみつきながら、じーと誠を見ていた。

18時40分

タクシーから下りると、智美は抱いていた由衣を下に降ろす。
由衣は智美にべったりとくっついて離れない。

誠が由衣に両手をだしておいでおいでをした。

「由衣 おいで!」誠がやさしくうながす。
「ゆい おいで!」由衣は智美にしがみつきながら、智美の顔を伺う。

「ゆい まこちゃんよ ほら、まこちゃん パパだったらいいのにね」と言って、由衣の背中を押すと、
由衣は誠の腕の中に飛び込んでいった。

誠は由衣を抱っこすると、由衣がまじまじと誠の顔を見る。
誠は、どうしていいのか分からずに、
間の悪さに由衣を後ろ向きにして抱き上げると、
そのまま、ひょいっと肩車をした。
由衣は誠の頭を両手を抱える。
誠は、由衣が落ちないように由衣の腰をしっかり押さえる。
実は誠は2人兄弟なのだ。兄貴は結婚をしていて子供もいる。
つまり、兄貴の子供をよく肩車をして遊んでいたのだ。

由衣は両足を振って、ギャァギャワイワイ はしゃいでいる。

「由衣、よかったね 楽しいね 
でも、まこちゃん 疲れたって下りようか」
すると、由衣は誠の顔を、しっかり抱いて、いやいやをした。

「パパ、パパ パパ」

誠は、パパと呼ばれて、胸がジ~ンとあつくなってきた。
その時、ふと、由衣のパパになりたい、
由衣をず~と抱きしめていたいと思ったのだ。
恋愛とか好きとか嫌いとか、そんな事ではない。
本能的に由衣を守りたいと思った。

遊覧船が来た。船に乗り込むと
遊覧船の中でも由衣は、しゃべりまくっている。
「キラキラ キラキラ ママ、パパ、キラキラ」
「船に乗っているね」
「ふね パパ ふぅね キラキラ キラキラ ふぅね キラキラ ふねぇ」
誠は由衣が遊覧船の中で転ばないように、
す~と由衣の身体をを支えていた。

船から下りると、由衣は疲れたようだ。
そのまま、誠の腕の中で眠ってしまった。

「まこちゃん ありがとう、ごめんね、由衣が勘違いをしたみたい、
パパって、パパにしちゃって、
でも、由衣がこんなに喜ぶなんて、思っても見なかった。
きっと、すぐに帰るって言い出すと思っていたのに・・
まこちゃんを本当にパパだと思ったみたい、ごめんね」

「いいよ、かわいいね 由衣ちゃん・・・・・」
どこへ行くとなく、堀川沿いを歩く

「僕、由衣のパパになってもいいよ」

「えぇ、うそ、ほんとうに 本当に パパになってくれるの」
智美の顔は、涙であふれていた。

香奈子の遊覧船の1日と、
智美の遊覧船の1日とでは、まったく違った。
しかし、どちらも決して忘れる事のできない一日になったのだ。


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泉 春樹
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