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No87 香奈子の能登被害地域への想い

香奈子は、スタップ3人に、開店より一時間前に来るようにと伝えていた。翌日、まだ17時半なのに全員が揃ったので、
香奈子は昨日の反省会をはじめたのだ。

「昨日は、お疲れ様でした。今日からもよろしくお願いします。
めいさん、孝子さんは、この仕事は初めてじゃないと思うけど、
何処で働いていたの」
「私は、山成ビルのラウンジ「ケイト」で働いていましたが
同伴が週一のノルマになっていて、私には出来ないので辞めました。
面接の時、マスターにここは同伴も指名も無いと言われて、
そのほうが気楽でいいかな~って」

香奈子はめいの同伴という言葉に驚いて、
「そうか、同伴って、した事がないけど・・・・・
そうだよね、普通・・同伴とか指名料とかってあるよね・・・・・
でも、確かにスナック茜には何もなかったわ
孝子さんも優香さんも、大丈夫、
つまり、何も余分な手当なんかつかないけど・・・・・」

「はい、私は営業に走るとウソばかり並べ立てて、
そのうち自分を見失って訳が分からなくなっちゃうので
営業電話やメール、LINEに時間を掛けて、
精神的に参ってしまうより、なにもノルマがない方が気が楽です」
孝子も時給三千円で納得しているようだ。

香奈子が心情を明かした
「孝子さんもめいさんも、それで良ければ、私も助かるけど・・・
私も去年の11月にいきなりマスターに自分の店を持たないかって言われて
ちょっと、ビビっているの、
でも、こんなチャンス2度とないと思って受けたんだけど・・・・・
このお店、私、資金なんて一円も出していないし、
しかも、自分で賄えるようになったら店をくれるって言われて、
本当に、そんなにいい話って聞いた事が無いでしょう、
だけど、めいさんや孝子さんの話を聞いていたら、
この世界の事、私は何も知らないんだって少し不安になってきた。
どうか、これから私をサポートしてください、お願いします」

「とんでもないです、よろしくお願いします
でも、こちらのお客様は紳士で良いお客様ばかり・・・・・
それに、あの玲香さんってどういう方なんですか?
マスターからは何も聞かされてなくて?
でも、お客様はみんな玲香さんのお客様みたい・・・・・」
孝子もめいも不思議そうだ。
優香は3人の話をきょとんとした顔をして聞いている

「玲香さんは・・・・・女王さまかな?なんだろう、私の尊敬している人
大好きな人・・・・・
でも、本人はスナック茜のスタップじゃないって言っているし、
給金も一円も貰っていないみたいだし、
時折、お客さんみたいだし・・・・・私もよく分からないわ、
ママの妹さんだから・・・・・でも、あの常連さん達・・・
なんか・・・・・玲香さんが来ると急にお店の雰囲気が変わってしまうの?」

そこに智美が入ってきた。
「おはようございます、
今日からは、しばらく5人で営業するのでよろしくね」
香奈子が何も聞いていないという顔をする

「香奈子ママに言付け、
あかねママと玲香さんはもう、顔を出さないので頑張ってね、だって」

「智ちゃん、そんな話、聞いていないけど」

「私もさっき聞いた、だから、頑張ろう、香奈子ママ
それから、マスターが昨日、冷蔵庫に
突き出しをたくさん作っておいたので
お店で上手く活用するようにだって」

「マスターから電話があったの?」 香奈子が智美に聞いた

「ううん、昼頃、マスターとママ、それに玲香さんと春樹さんが来て、
日赤病院に行くって言っていた、
その途中だからってゆいにお年玉を持ってきてくれたの。
ほら、大須観音に行った時、
ゆいを連れて行かなかったから手渡せなかったんだって・・・・・」

「マスター達って本当に律儀よね、私たちまで家族扱いだもの」
香奈子が感慨かんがいしている
「そう、だから、ママ達についていけば間違いないから・・・・・頑張ろう」

智美が優香に言った。そんなに大きな子ではないのだが、横幅があるせいか
結構、がっちりして見える。キラキラした大きな目が印象的だ。
「優香さん、昨日、びっくりしたでしょう、
お尻フリフリダンス あんな事しなくていいんだからね、
嫌だと思ったら、すぐにカウンター内に戻ってきて眺めていればいいから、
と言っても、玲香さんが姿を現さなければ、何も起きないけどね」

「そう言えばそうだよね、
島さん達も吉田さん達も普段は静かに飲んでいるのに・・・・・
玲香さんが来た途端、人が変わってしまうみたい、
頭の上に花でも咲いたような感じ」 想像してみんなが笑った。

「そんな事より、11日までのお客さんは常連さんしか来ないから、
今のうちにしっかり名前と顔を覚えてください、
それからキープボトルの位置も頭に入れておくように」
香奈子が説明をしている

「ねぇ、香奈子ママ、ちょっとしたメニューを作らないと・・・・・大丈夫」
香奈子がまた、びっくりだ。
「智ちゃん、その[香奈子ママ]って智ちゃんに言われても・・・
メニューって、」

「ちょっと、香奈子ママ 自覚を持って・・・
香奈ちゃんがこの店の最高責任者なのだから、
店をどのように運営していくのか、
どういうスタイルで行くのか考えている」

「えぇっ、スタイルって?」

「香奈ちゃん、まさか、スナック茜を
そのまま真似ればいいなんて思っていないよね、
マスターもいないのだから焼きそばも焼きビーフンも出来ないでしょう」

「そうだね、どうしよう、私、そんな事、全く考えていないのに・・・・・」
香奈子は智美に言われて目が覚めた。青ざめている

「はい、香奈子ママ、しょげていないでどうする?
ここで、お客さんに提供できる物はなぁに!」

すると、優香が口を挟んだ、
「私、スパゲティとか、パスタとかグラタンなら作れるけど」

「凄いじゃない、一度試食させて・・・・・、
優香さん、キッチンを見て足らない物を書き出して、
すぐに買ってきて、コンビニで間に合えば良いけど・・・」

智美がリードする。

「香奈子ママ、頑張ってよ!もう、19時、お店 開けるよ」
孝子もめいも智美について、看板やシャッターの開き方を教わっていた。

優香が買い物から戻ってくると、キッチンでスパゲティを作り始めた。

「美味しいね、これ、なに、キノコ?」
「本当だ、なめこだ」
「なめこって、あのぬるっとしているなめこ?」
「スパゲティに合いませんか?」

「優香さん、イケる、なめこと相性が合うのね、
決まった、優香さんにはキッチンをお願いします!」

「じゃ、メニューを作らなくちゃ」
金山さんが入ってきた
「いらっしゃい、金山さん、ちょうどよかった、
スパゲティの味見をしてもらえますか」

香奈子がスパゲティを金山さんの前に置く、
そして、金山さんが口の中にスパゲティをほおばるまで
5人は息を殺して金山さんを眺めている

「おいおいおい、これじゃ、食べられないよ」
と、言いながら口にすると、
「イタリアンになめこは結構いけるな~ヌルヌルがいいのかな、
じゃあ、長芋も合うのかな~」
「今度、長芋で作ってみますね、ゴボウは美味しいですよ」
優香が自信げに答えた

「これじゃ、イタリアのお店になりそうだな」
みんなで、笑っていると、古川さん達が見えた。
「いらっしゃい」

「今日はれいちゃんもママもいないのか、あれ、マスターは?」

「ごめんなさい、今日からはこのメンバーでお店をしますので
よろしくお願いします」 香奈子が謝る

「古川さん、特製スパゲティ食べない?」智美が聞くと

「智ちゃんが作るの、大丈夫かな~」

金山さんが古川さんに感想を述べた。
「フルちゃん、作るのは、優香ちゃんだ、
私も今、食べたけど、へたなスパゲティ屋よりよっぽど美味しい、
なんと言っても隠し味がいいんだ、食べてみなって!」

孝子が足らなくなった食品の買い出しに走る
香奈子は次から次と来るお客さん全員にスパゲティを勧めた
優香が作る、智美は優香の助手をする。
めいはお客さんたちのボトルセットと突き出しを出して廻る。

そんなこんなで、香奈子達はなんとか1日をこなす事が出来たのだ。

それから二日後、香奈子の頭に智美が言った言葉がずーと残っていた。

[どういうスタイルでお店を運営して行くのか考えている]

スタイルって、どうすればいいのだろうか!

そんな時、香奈子の友達から電話が入った。

「恵子、お久しぶり、少しは復興進んでる?」
椙山女学園で共に学んだ能登の子だ

「なーんにも変わっていない、国は復興支援だなんて言っているけれど、
何を支援しているんだか・・・・・それに災害援護資金貸しますって言っているけれど、借りたって返せる当てなどないから借りられないって言うのに・・・・
全壊も半壊も一緒だって言うのに、
試しに半壊した家に住んでみればいいのよ
みんな、死にたいって口癖になっているくらい 辛い事ばかり
私達、毎日、倒壊した家のゴミを片付けているけど一向に進まないし」

「恵子、ごめんね、力になれなくて・・・・・
ねぇ、気分直しに名古屋に来ない、ストレス発散して朝まで飲もうよ
死にたいなんて思ったら、、私が面倒を見るから」

「香奈子、ありがとう、
でも、家族を放り出して逃げるわけには行かないから、
本当、少し話したら、ちょっと楽になった。また、電話をするね」

「うん、いつでもいいよ、待っているから」

香奈子はその時思ったのだ。
もし、苦しんでいる災害者の人たちと飲みながら語り合えれば、
本当に困っている人たちに手を差し延べる事が出来るならば、
マスコミは救済募金とか言って、お金を集めているが、
そのお金が誰にどのように使われているのか漠然としていて
訳が分からない、
だったら、生の声を聞いて、その人に少しでも力になれたなら・・・・・
その方がよっぽど、災害者の人たちに喜ばれるのではないか、
例えば、能登被害地域のあるスナックと提携して、
スナック「香奈」と ラインでつなげる。
能登被害地域の人たちを毎日、10人程度、提携したスナックに招待をして、その人達の心を聞きながら、一緒にお酒を飲む。
モニターを見ながら話し合えれば、
もしかすると光が一つ灯るのかもしれない
死にたいって言葉が少しでも薄くなれば、
それは素晴らしい事かもしれない。
当然、招待をするわけだから、飲み代は当然こちら持ちだ。
ビール一杯700円であれば、[香奈]のお客さんが
被害地域の人たちにビールをおごるようにならないだろうか、
支払はPayPayであれば簡単にできる。
被害地域のスナックのマスターの電話番号を聞いておけばいい。
「はい、700円入金になりました」と言って、モニターに映っている方に
ビールが手渡される
「いただきま~す」と言って
飲んでくれれば楽しいひとときになるかもしれない

そう思うと、居ても立ってもおられず、もう一度、恵子に電話をした
この思いを、恵子に相談をすると、
輪島市にあるスナック「輪島」のマスターに聞いてみると言って
恵子は電話を切ったのだった。

翌日、恵子から連絡が入った。恵子は昨夜の内にスナック輪島に行って、
マスターに香奈子の考えている事を伝えたら、
是非お願いしたいと希望に胸を膨らませているというのだ。
そして、今日スナック輪島では
大きなモニターにカメラ・マイク・PCを店内に設置して、
後はラインでつなげるだけだというのだ。

香奈子は、修平に連絡を取った。

「おはようございます。香奈子です」
修平達はちょうど、食事を済ませた所だった。

「香奈ちゃん、どうだ、上手くやっているか?
香奈ちゃんの事だ、一つや二つ失敗しても、すぐに這い上がってくるから、何も心配していないが、私達がいない方がやりやすいだろう」
あかねたちもやりとりを聞いている

「マスター、実は私の友達に能登半島大地震の被災地にすんでいる子が居て
昨日、その友達と話をしていて思いついたのだけれど、
被災地の人々は、みんな先が見えなくて死にたいって
嘆いている人が多いって言うから、
じゃ、被災地で頑張っているお店とラインで繋がれば、
名古屋の人と能登の人たちがモニターを通して酒を飲み交わすって
素敵じゃないかと思って・・・・・きっと、被災地の人々にお酒を飲む
余裕なんてないと思うから、
モニターに映っている方にお酒を提供する事で、
少しでもストレスを発散してあげられたらいいのかなぁ~って・・・・・」

「うんうん、いいねぇ、
現地の生の声をお酒で清める事が出来れば最高だな」

「それで、恵子って友達なんだけど、その子が、
早速、輪島にあるスナック輪島って、お店に行って話をしてきたら、
そこのマスターが凄くやる気になって、
もう、お店にモニターもカメラも設置して、
後はラインをつなげればできるって言うの」

「早いな、そうか、分かった、じゃあ、PCはあるからモニターとカメラを買って店に向かうから、開けといてくれるか」

修平たちは香奈子のする事に感動をしていた。信二の時もそうだったが、
タダじゃ起きない、しかし、凄い事を考えると感心をしたのだ。

「香奈」の奥のカウンターの壁に
40インチモニター とワイドカメラ・マイクを設置すると、
早速ラインアプリを取り込み、アドレスとパスワードを登録した。

「初めまして、私はスナック輪島の時任隆史と言います。
どうぞ、よろしくお願いします」

「は~い!私は松本香奈子です。スナック香奈の雇われママです。
こちらがオーナーの中西修平さん、スナック茜のママと玲香さんです。
よろしくお願いします」

「香奈ちゃん、流れとしてはどう考えているんだ」修平が聞く

「お店にいらっしゃるお客さんは、大体20時くらいからでしょう、
だから、出来れば20時から21時、21.15分から22.15分と2回に分けて交流できたらいいのかなって、それで、被災地の人々に飲みたいドリンクや食べ物を提供できたらいいのかなって思っている ねぇ、恵子 いる?」
モニターに恵子が映った、

スナック輪島のモニターには香奈子が映っているはずだ
「香奈子 ありがとう、なんか、わくわくするよ」

「じゃぁさぁ~、ちょっと、練習をしてみようか、自己紹介をしてみて」
恵子が姿勢を正して自己紹介をする
「私は此処、輪島に住んでいる高木恵子と言います、
まだまだ、復興が進まないで大変です」

「高木さん、こんばんわ、挨拶代わりにビール飲まれませんか?」

「いいんですか、頂いても!」

「マスター、ビールいくらですか」
「はい、700円です」

「では、PayPayで支払います」
香奈子がスマホでPayPayに課金をした。
「ハイ、PayPayに入金されました」
マスターが課金されたPayPayをカメラに向けて表示する

「恵子さん、香奈さんからのおごりです、ビールをどうぞ」

「カンパーイ」「カンパーイ」

「美味しい、久しぶりのビール、ありがとう、
こんな余裕って全然なくて感激です」

「恵子、どう、いけそう」

「ヤッター!って感じ、香奈子 このまま飲みながらしゃべらんまい」

「なに、しゃべらんまいって・・・・・」

「あ`ごめん 嬉しくて、能登弁がでちゃったが、
んんとね、しゃべらんまいって『お話続けましょう』って言う方言」

「へぇ~方言なんだ おもしろい」

香奈子が修平に目を向けて
「こんな感じで被災地の人々と交流していければいいのかなって」

「いいねぇ、では今夜20時くらいから繋げますが 時任さん、いいですか」

「はい、こちらも20時10人、21時10人で集めておきますので
よろしくお願いします」

香奈子が「マスター 焼きそばありますか いくらですか」

「はい、700円です」

「恵子、焼きそば好きだったじゃない!
焼きそばとビール、もう一杯 課金しておくから飲んでいってよ」

「香奈子 ありがとう、これから、こんな感じで香奈子に会えると思ったら
嬉しくて、涙が出てきちゃった。本当に ありがとう また、後でね」


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泉 春樹
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