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NO53 お父さんの家

あかねたちは予定通り、老人ホームにやってきた。

お父さんはテレビを見ていた。
玲香を見ると、いきなり立ち上がり、
手をさしのべて握手をしながらお礼を言っている。

「玲香、待っていたよ、こないだはありがとう。本当に嬉しかったよ」

「お父さん、病院に連れて行ってもらえて、そんなに嬉しかったの」

「お前は誰だ!わしの娘は玲香一人だ」

「まぁ、ずいぶんな言い方 れいちゃんで良ければ、
私も助かるけれど・・」

「お父さん こんにちは、お元気そうで・・・」

「おぅ、昇平、テレビ、きれいに映るな 冷蔵庫もありがとう、
それで冷蔵庫に入れるもの持ってきてくれたか」
春樹と修平は袋からビールと佃煮を冷蔵庫に入れた。

「今日からまた、楽しみが一つ増えた」お父さんの顔が明るい

あかねが無造作にソファーにかけてあるブレザーとズボンを見て

「お父さん、このブレザーどうしたの、まだ、新品じゃないの
ちょっと、ヤダ、値札がついたまま、[尾州プレミアムウール 43800円]
どうしたの」
お父さんは玲香を見て
「玲香が一揃いを買ってくれたんだ いいだろう 気に入っているんだ」

「それで、娘は玲香だけだって・・・れいちゃん ありがとう
じゃ、あの時全部でいくら使ったのよ、
私には、3000円位って言っていたから甘えちゃったけど、
れいちゃんのことだから10万円くらい使ったんじゃないかしら」

「服と食事だろ、そんなもん、3万もかからないだろう」

「何を言ってるの、春樹 ブレザーだけで、この値段よ」
と言って、あかねがブレザーの値札を見せた。春樹はびっくりしている。
玲香が、どこかから、はさみを探し出してきて、
すべての値札を外していた。

「お父さん、今日は実は大事な話をしにきたの」
あかねは区役所の養子離縁届を机に置くと

「お父さん 玲香は娘でしょう」

「あぁ、あかねはいらんけれど玲香はやさしいし、
わしの事を大切にしてくれるから、大好きな娘だ」

「じゃ、大好きな娘のためにここにサインをして、こことここ」

「春樹と書いてあるぞ」

「だって、玲香は春樹の奥さんだから、
玲香が娘って事は春樹はお父さんの息子になるでしょう  
いぃい、お父さんの子供は、私、修平さん
春樹 れいちゃんの4人だからね、
絶対、忘れちゃ駄目よ、大事なことだからね 
はい、お父さん、印鑑はどこに置いてあるの?」

あかねは自分で印鑑を押すと書類をしまった。
「じゃ、お父さん、せっかくだから、その服を着て木曽路でも行こうか」
「そうか、昇平、木曽路か、行きたかったんだ、
やっぱり、お前はいい息子だ」

「まぁ、ちゃっかりしてる」

木曽路に着くと5人でしゃぶしゃぶコース料理を頼んだ。
お父さんはグーッとしまって見える。

「お父さん 格好いいね、すごい紳士に見えるよ」

「春樹君、わしは元々、紳士だ」みんなが笑う

「お父さん、それでね、家を三世帯住宅に建て直したいの
そうすれば、お父さんもれいちゃんも春樹も修平さんもみんな同じ屋根の下で生活できるから・・・お父さんの面倒も見られると思うんだけど・・」

「立て直すって、そんなお金ないぞ」

「お金の事なら心配しないで・・私たちが出すから・だって、
あの家はお父さん名義だから、勝手にできないじゃない」

「お父さんも、いつまでも、
ここの老人ホームに居れるわけじゃないでしょう」

「そう言う事なら、あかねの好きなようにすればいい・・・
いや、違った、玲香 れいかのスキにしていいからね」

「もう、やだ、れいちゃんにくれるんだって、あの家 よかったね」
みんな 食事中、笑いっぱなしだった。
木曽路を後にすると玲香が思いだしたようにお父さんに問う
「お父さん クスリ 食後のくすり、飲んでいる?」

「なんだ、くすりって・・・」

「心療内科でもらったクスリ?」

「そんなもんもらったか」老人ホームへ戻ると、
4人は手分けをしてクスリを探した。どこにもないのだ。
いつも持って歩く黄色のノースフェイスのカバンの中にもない。

「あれ、そう言えば夕方、ここに来てビールと佃煮を冷蔵庫に入れた時、
なんか袋を見たぞ」
冷蔵庫のすぐ側にいた、あかねが扉を開けると、
冷蔵庫の引き出しの中にクスリが入っていた。

「お父さん、まったく、手がついていないじゃない、
だいたい、クスリを冷蔵庫に入れてどうするのよ バカじゃない」
あかねが呆れて、声を大にした。

「大丈夫よ、お父さん、ちょっと忘れただけでしょう 
はい、今このクスリ、これとこれを飲んで」

春樹がコップに水を入れて持ってきた
「お父さん、水 はい」 お父さんは、黙ってクスリを飲んだ。

あかねはスタップの人にくすりを預けると
食後に飲ませるようにお願いをする。

次の通院は来月の11月27日(水曜日)になっている。
一ヶ月に一度の通院だ。
玲香は忘れないようにメモ書きをしていた。


身も心も過去もすべて受け止めての挿絵はすべてkeiさんから借りています。

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泉 春樹
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