NO72 スナック茜でデュエット
玲香もラウンジLを出ると、時間は22時50分だった。
どうしようかと思ったが、修平は玲香が錦に居る事を知っているので、
このまま茜に行って修平たちと一緒に家に帰ろうと思ったのだ。
茜にはまだお客がいるはずだ、玲香は途中でケーキ屋に寄ったが、
もう、閉店間際でケーキはまばらで同じ物は少なかった。
玲香は今ある25個のケーキを全部、茜に届けてもらうことにした。
玲香が茜をそーとのぞき込むと、やはりまだ20人程のお客がいる。
玲香は覚悟を決めたようにして、扉を全開にすると、
「じゃあーん 玲香で~す」と、大きな声を張り上げ両手を上に上げて
腰をフリフリお尻をフリフリして店内に入っていった。
お客がみんな玲香を見ると、
「れいちゃん れいちゃん 待っていたんだ」
「れいちゃん、来て良かった」
「れいちゃん やっぱり居たんだ」
玲香もびっくりする。どうして、私を待っていたんだろうと思ったが、
そう言えば、古川さんがラインで送ったと言っていた。
それで、きっと、お客は玲香が茜に居るのだと思ったらしい。
ケーキ屋さんが思っていたより早く配達に来てくれた。
もう、みんながお尻ダンスを合唱している。
玲香はお尻ダンスをしながら、一人一人にケーキを配ろうとするが、
みんながお尻をさわっているので、思うようにケーキを取りに行けない。
すると、香奈子が、一緒に合唱しながらケーキを配りだした、
こうなると、智美も黙って見ているわけには行かない、
3人で一緒に、フリフリダンスをしながらケーキを配った。
金山さんがケーキを食べながら、香奈子のお尻に触れようとした時、
香奈子が思いっきりお尻を突き出したものだから、
お尻が金山さんの口元に当たり、
香奈子のお尻に、生クリームがベトッと付いてしまった。
そこを智美がぬれたおしぼりで拭き取ると、そこがやけに艶かしい
みんなが、その部分をさわりたがる。もう、店内はハチャメチャになった。
それでも、香奈子は注目の的でまんざらでもなさそうなのだ。
玲香はデュエット曲 【ロンリー・チャップリン】【愛が生まれた日】
【北空港】【3年目の浮気】【男と女のラブゲーム】
【世界中の誰よりきっと】を入れると、玲香は、
「加藤さん、歌うよ、こっちに来て」
「えぇ、歌えるかな・・・」指名されて、いそいそと、ステージに上がる、
玲香は加藤さんの腰に手を回し身体を少し揺らして歌うので、
加藤さんも嬉しそうに、
そのうち、加藤さんは玲香の肩に手を回して、
最高の気分になって歌っている。
みんな、うらやましくて、くやしくて、ヤジや冷やかし・
褒め殺しの言葉が宙に舞った。
1曲終わるごとに、玲香は適当に指名する。
村井さんなどは、歌も知らないのに指名された事に感動して、
二人でデュエットだ、今度は手を握りしめて歌う、
不思議に知らない曲でも歌う気になると、
それなりに歌えるのか、村井さんも最高の笑みを浮かべて歌った。
竹原さん・浜口さん・次々に指名されて、
その内、デュエット曲を全員で合唱していた。
時間が来ると、蛍の光が、スカンクのにおい仕立てになって
茜の閉店を告げた。
「スカンクのにお~い、いいかおり、あしたもスカンク~会いたいな~」
「スカンクのにお~い、いいかおり、あしたもスカンク~会いたいな~」
「スカンクのにお~い、いいかおり、あしたもスカンク~会いたいな~」
修平はタクシーの段取りをする。お客さんの帰り際、
ドアの外で、玲香は、全員にハグをして挨拶に代えた。
お客さんたちは玲香に一言 二言、声を掛けて帰った行く。
今日は幸ちゃんがいなかったのでスムーズに事が進んだと、
玲香は内心、ほーっとしたのだった。
タクシーが7台、下で待っていた。みんなでお客様を見送りに出ると、
春樹と目が合った。玲香は、胸元で可愛く手を振る。
春樹は、玲香の気分が治っていたので少し気が楽になった。
誠は津島のお客さんたちを送る。信二は刈谷のお客さんたち、
春樹は、一ノ宮のお客さんたちだ。みんな帰ってくるのに1時間はかかる。
修平は、智美も香奈子も送って行く事にした。
玲香は、智美ん家に残っていたケーキを3個 香奈子ん家に2個渡した。
白のクラウンに5人が乗って帰宅する。
「香奈ちゃん、智ちゃん、別に無理をして、
れいちゃんみたいな事をしなくていいのよ、
この子は好きでやっていることだから・・・・・ねぇ、玲香!」
「そうだよ、おねえの言うとおりだから・・・・・」
「でも、私もお尻をさわらせる事に快感が・・・
なんか、注目の的っていいね」
「私も、あんまり、気にならなくなっちゃった。楽しいよ!」
「あのね、そうかもしれないけれど、一応、キャバクラじゃないからね」
あかねが玲香の顔を見て、にらみつけた。
「そうよ、キャバクラじゃないのよ、香奈ちゃんも智ちゃんも、
それ、まずいわよ。私は、茜のスタップじゃないし・・・・・」
あかねは玲香が店に来ると、お客さんの態度が一変するのが憎たらしいのだ
「じゃ、玲香は何、スタップでもお客でもなくて、何・・・・!」
「おねえ、なんか、怒っている、どうして、お兄さん」
「勝手に、何処へでも飲みに行くから怒っているんだろう、
身体も完全に治ったわけでもないのに、何処で飲んでたんだ、
けっこう飲んできただろう・・・・・かなり、酔っている」
香奈子と智美を送り届けると、
車の中で、あかねの説教が始まった。家の中まで説教は続く!
「だいたい、玲香は、あれ以来、すぐに切れるようになって、
包丁は持ち出すわ、部屋にこもるわ、手がつけられない、
もう少しで、春樹は病院送りになる所だったわ、
もう、心配で心配で、明日にでも、
玲香を精神科に連れて行こうかと思っていたら、
今度は何、何処で飲んできたのかは知らないけど、
酔っ払って、私の事 【おねえ】だって!
店では好きなように振舞うし、どういう事、玲香!」
「れいちゃんが玲香に変わった」
「なにがれいちゃんよ、そんな可愛くないわよ、
あんたなんか、れ・い・か・のれもない、いかだわ」
「あかね、お前も、だいぶん、れいちゃんに似てきたような気がするがな
少し、冷静になったらどうだ」
「それはそうと、れいちゃん、今日は何処に行っていたんだ、
古川さんたちに呼び出されたのか、にしても、電話番号なんて知らないか、そうか、春樹のスマホなら入っているか、
つまり、古川さんが春樹にタクシーを頼もうとしたら
れいちゃんが出たので、飲みに連れ出したって事か?」
「もう、お兄さんも、勝手に話を作らないで・・・
実は、お兄さんたちがお店に行った後、
ラウンジLのママさんから電話があったの」
「ラウンジLって、春樹が送迎していた女性?」
「そう、その人、瑠美さんって言うんだけど、凄く丁寧な人で、
今日、春樹が『送迎は今日が最後になりました』
ってお詫びを兼ねて迎えに行ったらしいの・・・・
それで、瑠美さんが、
私の事も考えないで、勝手に誘って申し訳ありませんって謝ってきて、
電話では詳細を伝えられないから、お店に来ないかって言うので、
ラウンジLに行って来たの、中央マンションの一階にお店があったよ。
結構、大きなお店で、瑠美さんの話を聞いたらサラ・ブライトマンの公演を春樹と見に行った事、納得できたんだけど、
そこに古川さんと永井さんが居て、びっくり、
それでね、ラウンジLの瑠美さんが、茜の噂を耳にしていて、
相乗りタクシーを使わせてもらえないかと言うから、
お兄さんに引き合わせるので、
お兄さんに相談をして下さいって云っておいたの!
だから、一度、会ってみてよ、お願い」
「それは、かまわないけど、そうか、じゃ、春樹の誤解は解けたのか」
「うん、最初から、春樹を信じていたから・・・・・」
あかねが呆れた顔をして吹き出す
修平も笑いながら
「何を信じていたんだ?」
「だから・・・・・いじわる お兄さんのいじわる しらない」
「中央マンションね、
修平さん 今度、行ってみようか、玲香、じゃ、段取りしなさい」
「はーい!」
身も心も過去もすべて受け止めて