新無印におけるアローラ回
※画像は「ポケットモンスターサン&ムーン」及び「ポケットモンスター」からの引用となります。
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〇概要
今回のテーマは「新無印におけるアローラ回」!
語りたいと思いながらもずっと二の足を踏んでいたテーマ。なぜなら少なからずセンシティブなメッセージを含んでしまうから。
しかし、結論から言うと私は新無印を批判しません。新無印におけるアローラ回の意義に迫ります。
〇語りの前提-SMシリーズと新無印の連続性-
2019年11月17日~現在まで放送されているアニポケ新無印。総監督がSMと同じ富安監督でありSMとの強い連続性を感じるシリーズです。サトシのキャラデザもSMと近いですし、サクラギ研究所を拠点とするのもSMのククイ邸に居候していたイメージと被ります。
〇新無印でアローラを描くということ
しかし、同じアローラを描くといってもSMシリーズと新無印では当然差異があります。
SMシリーズでアローラは物語の舞台であり拠点もそこに置かれます。新無印は全地方を舞台としておりアローラはその内の一つの地方です。描くテーマも文法も変わるのが当然なのです。
〇アローラ回という概念
ただし、一方でアローラは特別な地方です。サトシが初めてリーグチャンピオンとなり、家族を形成し、手持ちもオーキド研究所に預けていないもう一つの故郷。ここにアローラ回という概念が浮上します。
〇アローラ回の定義
この語りではアローラ回を次の二つの要素のいずれか、もしくは両方を満たす回のことを指します。
① アローラ地方が舞台の回
② SM編のレギュラーが再登場する回
BGMや脚本などは①・②で共通している部分も多いです。①のほうがより「アローラらしさ」を強く感じる回となります。
〇アローラ回の役割
新無印におけるアローラ回には次の役割があると考えられます。
① 全地方の舞台の一つとしてアローラ地方を描く
② アローラチャンピオンサトシを描く
③ スクール組のその後を描く
④ ゴウ・コハルとSMキャラとの交流を描く
⑤ 時間的連続性を描く
一つずつ確認しましょう。
①全地方の舞台の一つとしてアローラ地方を描く
ゴウの目標は「すべてのポケモンをゲットしてミュウにたどり着く」ことなので当然アローラのポケモンも捕まえなくてはなりません。ナマコブシはSMで登場していましたが、ゴウにゲットされて活躍の機会が与えられたのは良かったですね。
②アローラチャンピオンサトシを描く
アローラが特別な理由の一つにサトシがリーグ優勝した地方というのがあります。WCSのマスターズ8は各地方のチャンピオンが集まっておりサトシはアローラ代表となります。他の地方ではともかくアローラでは特別なトレーナーだと強調されなければなりません。
76話ではこの点にフォーカスしていました。またこの回ではサトシがZ技伝承者としての役割も担っています。そして「凱旋! アローラチャンピオン!!」でははっきりと凱旋回であると告知されています。
余談ですが海外視聴者の方はこの点について重要視する傾向があるようです(私の観測範囲内の話ですが)。
③スクール組のその後を描く
SMシリーズでスクール組の面々はそれぞれの夢にむかって歩んでいきました。
しかし彼らもまだ夢半ば、ストーリーはずっと続いています。現時点ではマーマネ、リーリエが自らの夢・目標を叶えるためのストーリーが描かれました。今後ももしかしたらあるいは…。
④ゴウ・コハルとSMキャラとの交流を描く
レギュラーのゴウ・コハルとSMキャラが交流しなくては新無印の物語になりません。特に「ただいま、はじめましてアローラ!」(37話)ではこの点がフォーカスされました。これは新無印のコンセプトを打ち出すうえで重要な役割です(詳しいことは後述します)。
⑤時間的連続性を描く
これは細かいことを言えばいろいろあるんですが、一番はレイの存在です。
レイはククイ博士とバーネット博士の間の子どもでSM最終話で身ごもっていることが明らかになりました。初登場したのは37話でサトシともこのときはじめて対面します。
過去シリーズと現行シリーズをつなぐ存在という意味でレイの存在はかなり特異です。サトシは「お兄ちゃん」となり連続性を継承する相手ともいえます。112話でコハルとも会うようでこれも連続性を強調する意味を持ちます。次回シリーズにまでこの連続性は及ぶ可能性すらあります。
〇アローラ回の難しさ
アローラ回は多様な役割がある一方で、他の地方回よりも話作りの難易度が高いです。これには大きく3つの要因があります。
① 顔見知りばかりで自由なストーリーを作りづらい
② ハイコンテクストなストーリーになってしまう
③ 新無印としてストーリーを作らないといけない
①顔見知りばかりで自由なストーリーを作りづらい
SMシリーズが定住型であったのもあって、知り合いに出会わないストーリーは不自然になります(特にメレメレ島)。76話では無人島を舞台にすることで半ば強引にこの問題を解決しましたが、結局サトシを知る全力兄弟を登場させる必要性は残りました。
他の地方もサトシは一度は旅をしたことがあるので、多少なりとも同じ問題を抱えていますが、完全なゲストキャラを軸とした話を作りにくいのは間違いありません。そのせいかアローラ地方を舞台にした回は、新無印を通してみるとかなり少ないです(来週ふくめて三回)。
② ハイコンテクストなストーリーになってしまう
これは当然のことですがSMシリーズ三年間の積み重ねの延長線上にアローラ回は成り立ちます。そして残念ながら6年間シリーズを連続してみている視聴者は決して多数派とはいえないでしょう(客観的なデータはありませんが…)。
商業ベースのアニポケは大衆に向けて作るのが鉄則のはずです。ハイコンテクストなストーリーというのはそれだけで新規を逃す恐れがあります。
しかし、先日の111話では振り切ってハイコンテクストな物語を作り上げました。ストーリーの完成度を優先して、背景を知らなくても問答無用で感動させる力業です。
個人的な感触としてはアローラ回は全体を通してハイコンテクストなストーリーになることをある程度割り切って、ストーリーの完成度を高めているように感じます。SMファンとしてはありがたいですが、かなり高カロリーの仕事であることが想像されます。
③新無印としてストーリーを作らないといけない
これが最大の問題です。②とも関連しますが新無印シリーズとしてストーリーを作らないといけません。
SMにはSMの新無印には新無印のコンセプトがあります。SMで受け入れられた価値観も新無印では受け入れられないこともあります。
・カキとゴウの衝突
37話のカキとゴウの衝突が象徴的です。
サトシの一番近くにいる奴はサトシの夢を助けられるくらい強いライバルでなくてはならないと主張するカキ。
ライバルじゃなくて友達としてサトシのそばにいたい。夢は自分で叶えるものだと主張するゴウ。
両者の意見の衝突がこの回のメインでした。
・コミュニティ主義と個人主義
結局、この衝突自体カキが仕組んだものだとあとで明かされますがそれ自体は重要ではありません。問題はカキとゴウの対立がそのままSMと新無印の対立に置き換えられることです。両者の意見を一歩ひいてみるとコミュニティ主義と個人主義の対立となります。
カキはアローラのコミュニティを誰よりも大切にしているキャラクターです。 アローラの風習、伝統、それらはアローラに住む仲間・家族によって成り立ちます。カキの夢である島キングは自分ひとりでかなえることがそもそも不可能で、コミュニティ及びカプ神の承認が必要です。
一方、ゴウの夢はミュウを捕まえること。プロジェクト・ミュウなどは集団でミュウをゲットしようとする計画ですが突き詰めればゲット自体は個人で達成できることです。そしてゴウの座右の銘は「未来は俺の手の中にある」。夢・未来は自分自身の手でつかむのがゴウ流です。
そもそもゴウはアローラのようなコミュニティに所属した経験がありません。 同じカントー出身であるサトシの生まれ故郷マサラタウンではトレーナーになる日町総出でお見送りしてくれましたが、新無印の世界観ではそんなものはありません。
バックボーンが違うのだから衝突するのは当然です。最終的にカキが折れた形になりましたが、この衝突は厳然と横たわっています。
・なぜ衝突を描いたか
では、なぜそもそもカキとゴウが衝突するストーリーが描かれたのでしょうか。ここからはあくまでも私個人の私見であることをご了承ください。
それは先にも述べた通り新無印のコンセプトを描くためなのです。
・新無印のコンセプト
新無印のコンセプトはなにか。様々な要素がありますが、私はゴウの存在そのものが新無印のコンセプトだと考えています。
コミュニティに依存するのではなく自己実現を目指す個人。ダンデとの対戦を目指すサトシも、イーブイとともに将来を模索するコハルもこのコンセプトに則って行動しています。
・SMのコンセプト
一方SMのコンセプトはアローラという土地、コミュニティに根差しています。 これも一言では表しにくいですが、20話でサトシがピカチュウに語っていた「ポケモンマスターになるために大切なものをここでならゲットできる気がする」が核心に近いでしょうか。
・もし衝突がなかったら
もし衝突がなければゴウの意見が表出することはなかったでしょう。前シリーズのコンセプトと対峙することで現シリーズのコンセプトを明確に打ち出すことに成功しました。これはSMのコンセプトを否定するものではありません。新無印の物語を描くうえで必要なプロセスだったのです。
〇総括
新無印におけるアローラ回はどれも特別な回です。固有の役割を与えられそれに伴い難しくもあります。それでもそれに甘えず正面からアローラ回に向き合って作ってくださる人たちがいる。ならば観る側もそれに応えたい。凱旋回、心して待ちましょう。ご清聴ありがとうございました。
(了)
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