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BW編第77話「炎のメモリー! ポカブVSエンブオー!!」語り
〇はじめに
今回のお題はBW編第77話「炎のメモリー! ポカブVSエンブオー!!」 SM編以外の旧シリーズを語るのは初ですが、アニポケセレクションを見て号泣しまして… 。正直イロモノとして観られがちな回だと思いますが、その魅力を語っていきます!
・世間の印象(主観)
本題に入る前に77話の一般的な印象について私見を語ります。
この回でよく語られるのはやはりスワマの外道さでしょう。スワマはこれまでのアニポケで登場したダイスケ(無印)、シンジ(DP)らと比較してもひどすぎると評価されることが多いです。
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これはポカブをただ捨てたというだけでなくそこに加算された状況が原因と考えられます。加算された状況というのは主に次の二つです。
①憐憫を誘い自分にヘイトが向かないようにした
②ポカブが追ってこないように紐にくくりつけて置き去りにした
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特に②がひどくこのせいでポカブはひどく衰弱してしまいました。 ヒトカゲにその場に残るように命令したダイスケとどっちが酷いかは議論の余地がありますが(新無印のゲンガーの元トレーナーも同型)、強制的にその場から動けなくしたのは重罪でしょう。
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・スワマの制裁は十分か?
またスワマがこの話で十分に裁かれたのかという問題があります。 そもそもポケモンを捨てるという行為が作中世界でどれくらいタブーなのか判然としません。
…が恐らく視聴者目線からするとポケモンを捨てたトレーナーに対する制裁は甘いと受け止められるのではないでしょうか?
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スワマに限らずポケモンを逃がすことがジュンサー案件になったことは一度もないですし、77話におけるドン・ジョージもスワマを一方的に糾弾することはありません。
つまり作中世界ではトレーナー側にポケモンを手放す自由が認められていることを示しています。
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これはゲーム原作でポケモンを逃がす機能が搭載されているため、逃がすという行為自体をあまり厳しく糾弾できないという側面があるのかもしれません。(逆に交換などのポジティブ要素を描きにくいという側面もあります)
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いずれにせよ、非道なやり方でポケモンを身体的にも精神的にも傷つけたトレーナーが大した制裁もなく終わってしまった回という感想を持った視聴者が多い印象です。
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Point1:物語の原動力
しかし、ここからが本題ですが私は77話の本旨はスワマではないと考えています。さらに言えばポカブでもなく、サトシでもなく…、この話の肝はツタージャの存在です。
ツタージャの想いがこの物語を動かす原動力となっています。
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ツタージャはBW7話から登場しており、デントとアイリスの推測からトレーナーから逃げてきたとされています。(繰り返しますが推測)
姉御肌でアイリスのエモンガと衝突することもありましたが基本的に仲間想いのポケモンです。
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・裁判オマージュの構造
77話はスワマとサトシの考えのどちらが正しいのかをポケモンバトルで決着をつけるという構造です。(裁判のオマージュ)
ただし、裁判で戦うのが弁護人と被告であるのに対してポケモンバトルはポカブは当事者ですがエンブオー達は当事者ではありません。 そしてツタージャは中間の傍聴席にいます。
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ただし、アイリスを含めた人間の傍聴者と違いツタージャはこの問題の広い意味での当事者でもあります。人間に振り回されてきたポケモン。その尊厳はどこにあるのか。 当事者としてどうアクションを起こせばいいのか。ツタージャはバトルに参加することでその意思を表明します。
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Point2:ツタージャの怒り
ツタージャの想いとしては仲間に対するものもあったでしょうが正義に基づく使命も大きいものでした。トレーナーが自己都合でポケモンをないがしろにすることを作品世界では受容しています。ツタージャはこの世界に怒り、そしてそれを受け入れているポカブにも怒っています。
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Point3:ポカブの葛藤
一方でポカブの想いとしては、スワマは初めてのトレーナーであり自分を受け入れてくれた文字通りの「おや」です。スワマの行為を悪とみなすことは自己否定に繋がるため戦いたくない。アイリスは「ポケモンが良すぎる」と評価しましたが、実際は自分が傷つくのを恐れての逃避だと思います。
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Point4:サトシの態度
一方で77話ではサトシの態度が前面にでていません。これがこの話の特徴的な部分だと思います。もちろんスワマの非道に怒ってはいますがポカブがスワマと戦うのを忌避しているのをおして無理をさせようとはしません。サトシは恐らくこの「裁判」が当事者のバトルによって行われることの不条理を理解しています。
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・大義のすりかえ
なのでサトシは途中からバトルの大義をポカブの想いからツタージャの想いにすり替えています。スワマを見返してやるのではなく、仲間を想う・正義を想うツタージャの想いに奉仕する為のバトル。
ツタージャが身を投げ出しても守りたかったものはなにか。それはポカブのツタージャの…ポケモンの尊厳。
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77話のツタージャはそれはもう惨いやられ方をします。焼かれ、踏みつぶされ、破壊され… 。最後の「超フレアドライブ」の攻撃をポカブから守った際の秒速の戦闘不能描写は攻撃のオーバーキルの具合を演出しています。
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そして戦闘不能になったあともボールに入らずポカブの戦いを見届けようとします。この戦いは自分だけのものじゃない、ポカブだけのものでもない。全ポケモンの尊厳をかけて戦っている… 。
ある意味これは「ミュウツーの逆襲」のコピーポケモンとオリジナルポケモンの戦いに相似しているかもしれません。
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Point5:炎の誓い
ツタージャの想いを受けてポカブはチャオブーへと進化を果たします。そこで新しく覚えた技は「炎の誓い」。チャオブーはもう逃げません、スワマから弱さから誇りから。誓いをもって目の前の「敵」を倒す覚悟ができたのです。
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結果チャオブーはスワマのファイヤーウォーリアーに勝利しました 。そこで諂いすりよってくるスワマはある種一貫したヒールでしょう。当然お約束の炎の鼻息によってこれを固辞し、To be continued
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〇総括
私がこの話に涙したのはポカブが可哀そうだから、サトシが誠実だったから…ではなく正義に向き合ったツタージャの心意気に胸打たれたからです。先述したように作中世界はかなり人間に都合のいい世界です。スワマの件に限らずシンジの行き過ぎた特訓などを抑制する力がこの世界にはありません。
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自らの及ばぬこの世界の不条理にそれでも立ち向かっていく姿は美しい。アニポケ史上でも非常に重要な問題に切り込んだ回だと思います。
どうか先入観を持たずもう一度セレクションを見返してみてほしい。あなたの心のなにかを打つかもしれません。ご清聴ありがとうございました!(了)
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