昔、彼女とディズニーワールドに行った
昔、大学生のころ、フロリダのディズニーワールドに行った。大体2週間くらいの旅行で、シカゴから始まりキューバ、ラスベガス、グランドキャニオンと色々ぶっ通しで巡った旅行だった。その時の彼女とずっと一緒だった。しんどい思い出やたくさん困らされた記憶もあるけど、ずーっと楽しかったのが今となってはすこし驚き(そんな人間関係珍しい)。
ディズニーワールドに泊まったと言っても、所詮は学生の貧乏旅行で、宿はひどかった。華々しいディズニーホテルなんかではもちろんなくて、ディズニーワールドからローカルな路線バスを確か1時間ほど乗ってやっと着く、幹線道路沿いのモーテルに泊まっていた。路線バスにはフロリダの田舎に住む太った黒人や老人がたくさん乗ってきた。ずーっと直線で1時間、ところどころひび割れた幹線道路を不穏に揺れながら進んでゆくバスに毎日(ディズニーには4つのパークがあり、4日間で回った)乗ってた。持っていたスマートフォンの電波がぜんぜん繋がらなくて、モーテルの最寄り駅で降りるのに苦労した。路線バスのWi-Fiには15分毎にログインし直さなければならなかった。壊れたバス内の電光掲示板と、人に聞かせる気が全くないような音量の自動アナウンスを手がかりに、何とかバスを降りてモーテルにまで歩いた。
バス停からモーテルまでも2km近く歩いた。パークには閉園時間までいるから、毎日バス停につくのは21時とかだった。バス停から幹線道路沿いを歩いていると、若者たちの車がよく僕たちを冷やかして過ぎ去っていった。真っ暗でろくに街灯もない肌寒い夜のオーランドを歩いて、帰りはいつもモーテル近くのバーガーキングに寄って帰った。日本よりもすこし薄汚れているバーガーショップで、1番安いセットを買ってから、モーテルに帰った。華はなくて過酷で貧しくて不健康な旅行だったけど、若かったのだろうか、全然苦じゃなかったし、彼女もそういった方面での不平不満は全く言わなかったと記憶している。
モーテルでは隣の部屋の中年の黒人が毎日大麻をやっていて、自分の部屋のドア近くまで特有の匂い(悪臭とまでは行かない、独特な異臭)が立ち込めていたし、バスルームの換気扇からは何回かフロリダ仕様の茶色いゴキブリが姿を現した。次の目的地に向かう飛行機が正しく予約出来ていなかったことが判明した夜は、夜を徹してAmerican Airlineの不親切極まりないカスタマーサポートと英語で予約変更の交渉をしなければいけなかった。確か、何かのきっかけで親切な日本人の担当に繋がって、事なきを得たのだった。
そんな不便さ、ままならなさ、トラブルの連続、美味しくないご飯、空港のトランジットの待ち時間、些細な喧嘩、察さない僕、いつの間にか怒ってる彼女、何とか機嫌を直そうと取り繕う僕、自分の機嫌が治ったことにできるきっかけを待ってる彼女、ともかく色々ある中で、確かに僕たちは信頼関係を深めていったんだと思う。
その彼女とは日本に帰ってきてからそんなに時間が経たないうちにあっけなく別れてしまった。だから今となってはもう戻らない、良い思い出だ。たまには思い出してみたって、別に誰にも怒られないだろう。