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【短編】君は親友【恋愛ファンタジー】

 これは、動物たちが人間のように愉快に楽しく暮らす世界のお話。
肉食獣も草食獣も関係なく、仲良く互いに尊重し合いながら彼らは生活しています。
そんな世界で暮らす、一匹のオオカミとリクガメのお話です。

 オオカミとリクガメは幼なじみ。
きらきらの毛並みが綺麗で、気の強いメスのオオカミ。
甲羅の傷が少し痛々しいけれど、おおらかなオスのリクガメ。
 二匹は幼い頃からいつでも一緒。
いじめられっ子だった亀を、狼はいつも助けてあげていました。
狼は亀の事が大好きだからです。
気の強い彼女を、やんわりと受け止める彼の事を大切にしているのです。
もちろんそれだけではありません。
 あるとき、逆に狼がいじめっ子から殴られそうになったときのこと。
亀はその身を挺し、自分の甲羅で狼をずっと暴力から守り続けたのです。
甲羅の傷はこの時に付いたのです。
狼はやり返そうとしましたが、亀はそれを止めました。
 「大事な友達が傷つくのは、ぼくは嫌だよ」
彼女はこの言葉を本当に嬉しく思いました。
亀が心から狼の事を大切にしていると分かったからです。
ずっとずっと彼の、大事な存在でいたい。
狼はそう思い続けて亀を見つめてきました。
 ですが、二匹は違う種族。
結ばれるなんて夢の中だけのお話だと、半分諦めてもいました。
 しかし、二匹が成長するにつれ世界の価値観は変わっていき・・・・・・
「違う種族同士でも愛があれば家族になろう」という考え方が広まり、世界では幸せな異種族同士のニュースが流れていきます。
このニュースをを見る度に、狼は「きっといつか・・・・・・」の期待をせずにはいられません。
たとえ、昔から彼の恋愛相談を受けてきたとしても。

 そんな狼の一途な願いも虚しく、亀は同族のメスとお付き合いを始め、彼女の元に紹介をしに来ました。
「はじめまして、彼からたくさん話は聞いています!本当に綺麗な毛並み・・・・・・」
そう言って頬を染めながら狼を見る彼女は、狼からみてもほっと安心する可愛らしさを持っています。
 恋敵なんだと分かっていても、嫌いになれない。
むしろ、こんな素敵な亀さんに嫌われたくないな。
言葉を交わす度、狼は親友の恋人に好感を持ってしまいました。
それが自分の胸を強く締め付けてくると分かっていても。
 大好きな亀と微笑み合う姿を見る度に、末永く年を取りながらのんびりと日向ぼっこをしているのが似合うな、と思ってしまいます。
狼は、自分の本当の気持ちは忘れるべきなんだろうと押さえつけて、恋仲の亀たちを笑って応援しました。
 「すっごくお似合いだよ!こいつってばホントに手が掛かるヤツだから、頑張ってね?」
「おいおい、彼女の前でやめてよ~」
「むしろ頑張るのアンタか!泣かせちゃ駄目だよっ」
狼はばしん、と『親友』の甲羅を叩いて「あはは!」と笑います。
「も~、君には敵わないなあ」
そう微笑む彼を見て、狼は「あー、やっぱり好きだな。」と泣きたくなりました。

 狼は恋心を押さえながら亀たちを応援していました。
しかし彼女は「それでもいつか・・・・・・」を、まだ捨てられません。
捨てられない気持ちを持っている罪悪感を隠していたのです。
 ですが、応援のかいがあったのでしょうか。
二匹の亀たちは狼と穏やかな交流をとりながら順調にお付き合いを進め、やがて二匹は結婚する事になりました。
 亀の婚約が決まった翌日。
『婚前最後の親友との夜遊び』に、狼と亀は出かけました。
亀の恋人・・・・・・いえ、婚約者は狼を心から信じていたからこそできた最後の夜遊びです。
 二匹の思い出がたくさん詰まった、なんてことのない行きつけの店。
ゆっくり二匹は噛みしめるようにお酒を飲み、定番メニューに舌鼓を打ちながら思い出話に花を咲かせました。
 小さい頃よく遊んだ公園で起きた、ちっぽけだけど宝物のような出来事。
二匹とその友人たちで協力して成功させた、キラキラ輝く学校行事。
小さなものから何日も口をきかなかったほどまで、二匹が様々な喧嘩をしたときの事。
進学の為に狼が亀に何度も勉強を見てもらい、同じ学校に進学したときの事。
二匹で初めてお酒を飲んだとき、最終的に亀がひっくり返ってしまった事。
・・・・・・ここまで、ずっと切れない絆を築くことができた奇跡について。
 「君というかけがえのない親友は、この先現れないと思う。」
「ほんとに~?」
「本当だよ!」
「はは、ごめん!アタシも同じ。アンタみたいな友達、他に絶対現れない。」
「うん。だから、ぼくは今も昔も君に感謝してる。本当の本当に、心から。」
「何さ、改まって。」
「初めて会った時から、今まで君はぼくを助けてきてくれたよね。」
「お互い様でしょ。アタシだって助けてもらったことあるしさ。」
「嬉しいな。強くてかっこいい君の助けになれていたなんて、ずっと自慢できるよ。」
「しなしな!アタシみたいな狼を助けられる亀!めったにいないんだから!」
「ははは、それじゃあお言葉に甘えてこの先もずっと君という親友と、君の助けになれたことを誇るよ、ぼくは。」
「どーぞどーぞ!もう、言い方が照れくさいなぁ。」
「本気で思っているからね。君以上の友達はいないよ。最高の親友だ。」
 最高の親友だ。
この言葉を伝えられた瞬間、狼はお酒を利用して本音を全部言ってしまおうかと考えました。
アタシ、ほんとはずっとアンタのこと、大好きだったんだよ。
ほんとは友達じゃない関係がよかったよ。
ごめんね、親友なのにずっと親友のままでいるの、嫌だったよ。

 「・・・・・・当たり前じゃん!アタシらが最高の親友なのは昔から!」
狼は、言えませんでした。
手に持ったグラスを煽る事もできないまま、自分にできる最高の笑顔を亀に向けました。
 「ほんとに結婚おめでとう!あーもー、めでたすぎてお酒も料理もうまいっ!」
「こらこら、あんまり飲み過ぎたら駄目だよ。最近は狼といえど夜の帰り道は危ないんだからね。」
「だって自分の事みたいに嬉しいんだもん。親友の幸せだよ?」
「・・・・・・ありがとう。ぼくも君の幸せを、心から願ってるしその為ならいくらでも助けになろう。」
「アンタに心配されなくても大丈夫でーす。アタシ強いもん。」
「知ってるよ、親友だからね。それでも願わずにいられないんだ、大事な友達だから。」
「・・・・・・うん、ありがとう。」
 夜が更けきってしまう前に、二匹は笑顔で別れました。
帰り道までは、狼は「強くてかっこいい狼」を保てました。
ですが、家に着いた瞬間ぼたぼたと彼女の目から涙があふれて止まりませんでした。
「強くてかっこいい狼」はここには居ません。
恋に破れて張り裂ける胸を押さえ、たくさんの涙を流して泣く、ただの一匹のメスオオカミです。
 いつもツヤツヤに保っていた少し長い毛並みは、大好きな彼のために整えていました。
いつも強くてかっこいい狼だったのは、大好きな彼のための背伸びでした。
いつも明るく通る笑い声だったのは、大好きな彼が褒めてくれたからでした。
狼の「いつも」は、全部全部大好きな彼の為でした。
「きっといつか」が来てくれると信じて「いつも」を積み重ねてきました。
けれど、彼女が待っていた「きっといつか」は遂に来なかったのです。

 散々泣いて、泣き尽くして、泣き疲れた狼。
それでも彼女はまだ亀の事が大好きです。
長くて大きな片想い。すっぱり切り捨てるなんて、できません。
 でも、狼はもう待ちません。
亀を見つめるのはもう止めです。
これからは大好きな『親友』の横に並び、笑うのです。
 数日後、彼女は笑顔で結婚式に行きました。
とってもほのぼのした幸せな結婚式で、亀たちの笑顔を見て胸が痛む以上にこれからが楽しみになってくる。
そんな素敵な式でした。
 結婚式とその二次会の帰り道。
「ぜーったい!アイツよりいい恋するぞーっ!」
狼はそう夜に吠えて、軽い足取りで歩いて行きました。

数年後、亀の家族は狼の恋人を紹介されるのですが・・・・・・それはまた、別のお話。


後書き
友人の「オンナとおとこ、について展」用原案候補短編小説、これにて最後です。
本当なら!!!!!水曜には!!!!!出来てなきゃいけなかったんだけどね!!!!!!バカタレ!!!!!!!

まぁ自分への罵倒は自分の中で長々やっておくとして。
今回は明確に「失恋のお話」です。
同時に「男女の友情って?」というのをプラトニックに描いてみた……つも……り……どうなんこれ……
まぁ、ファンタジーなお話ということでここはひとつ。
さて、この話も例に漏れずイメージ元というか作業用というかな曲があります。
今回は複数あって、プロット段階ではsyudouさんの「フラミンゴ」清書段階ではJUDY AND MARYの「ジーザス!ジーザス!」です。
話を練り練りしてる時にはsyudouさんの「私だけを見てて」も念頭にあったと思います。
明るい雰囲気の話にしたかったのでぶっちゃけしっくり来るのは「ジーザス!ジーザス!」だけですけれど。
「フラミンゴ」の要素一個もないやん。
動物のお話にしたのは友人にどんな展示が出ているのか参考に聞いた際、動物に置き換えて描く方がいらっしゃったというのが頭にあり……
原案を持ちかけてもらった帰りにネタのひとつとして動物の世界の話が書きたいなと思ったのが、コレの発端です。
登場人物になる動物も、テンプレ(というかよくあるイメージ?)っぽくないのにしたかったんですが言うほどでもないかも知れません。
女性を肉食獣、男性を草食獣にしたいなとは考えました。おい男が爬虫類やぞ。
……リクガメ可愛いから好きなんです、はい。
狼もかっこよくてもふもふで好きです。
動物基本好きなんですけどね。

裏話は以上として、読んだ方で「この後2匹はどうなるの?」「ほんとにこれでいいの?」と思われた方もいるかもしれません。
私もプロット段階からそれに関してはずっと自問自答してきましたし。
しかし、あくまでここで狼さんが出した結論は文中の通り。
「そうじゃない結論や未来」「もしもの2匹」は、今これを読んでる貴方にお任せ致します。
君にとって「さいきょうのハッピーエンド」を考えてくれよな!
ハッピーエンドじゃなくてもいいぜ!
できればハッピーだと嬉しいけれど!

しかし、ここまで投稿してきた話を見るに私は「負けヒロイン」要素が萌えなのか……?と思ってしまいます。
今回の狼さんもかわいい女として書いたつもりですし。
実はヤンデレが好きなのもそういう事なのかもしれません。どういうこと?
聞いてる曲もそういう感じなのが多い気がします。
syudouさんの「私だけを見てて」もっと伸びろ(ダイマ)
それでは、また別の記事でお会いしましょう。
俄雨(にわかあめ)でした。


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