【基礎から学ぶ会計・監査】 監査提言集を読んでみた
こんにちは。SHRAKIです
このシリーズでは、私が個人的に業務の中で知識不足を感じた分野について、皆様に基礎部分を中心に、なるべく分かりやすく纏めて発信させていただきます。
前回はIFRSの金融商品会計に焦点当てて投稿させていただきましたが、今回は7月に公表された『監査提言集』について、投稿させていただきます。(やっと落ち着いて目を通す機会があったので。)
なお、発信内容は組織を代表するものではなく、正確性が担保されたものでもありません。もし記載内容に誤りがありましたら、遠慮なくご指摘いただければと思います。
参照基準・参考文献
監査提言集 2023年7月1日
「監査提言集」の公表について | 日本公認会計士協会 (jicpa.or.jp)
監査提言集について
概要
監査人には、クライアントに関連した不正事例の理解が求められており、主な不正事例や取引慣行を理解するうえで、JICPA(日本公認会計士協会)が公表する『監査提言集』は一つの有用な公表物になります。
CPAAOB(公認会計士・監査審査会)も監査事務所の検査で確認された指摘事例等について、『監査事務所検査結果事例集』として公表しており、こちらも関連する箇所中心に目を通されると良いと思います。
なお、これらは毎年7月に最新のものが公表されており、毎期全く別の内容が公表されるというよりは、一部更新という形で公表されるものになります。そのため、一度目を通された後は、変更点中心に読んでいただくことで十分となります。
構成
監査提言集は、「事例の概要」、「取引の概要」、「監査人の対応」、「改善すべき点」、「提言」、「関連する主な実務指針等」を示す形の構成となっています。
改善すべき点には、問題点と改善すべき点が上下に対をなしており、問題点は、事実を構成する複雑な事情に対して、結局何が問題だったのかという核心を、3~4行で示したものになっています。
問題点が図表とともに、わかりやすくまとめられており、簡潔に状況把握する上ではとても良く出来た作りになっています。
不正不正とうんざりする内容
恥ずかしながら、数年前の提言集に目を通したきり、久しぶりに2023年度版を読み直しましたが、変わらず多くが「不正」に関連した内容となっており、不正事例とそれに対応する改善点が述べられています。
証跡の偽造や取引先との共謀、資料提出や現場視察の拒否や確認状回答の調整など、「事例の概要」としては、見ていてうんざりする内容が多いです。
「監査人の対応」では、証跡の閲覧や確認手続の実施等の監査手続自体は実施しているケースが多いです。
しかし、確認未回答や手続拒否、期末直前の調整に異常性を認識している場合にも、最終的に販売取引や会社判断を否定することは出来ないと結論づけ、無限定適正意見を表明する結果となっている場合も散見されました。
これらに対し、提言集では「監査人への改善すべき点」が触れらております。(内容自体に違和感や反論はないのですが、)数年間監査現場を色々と見てきて、改めて読み直すと、監査スケジュールや与えられた権限、情報の非対称性により、色々と難しいよなぁと思う部分が多く感じてしまいます。
監査意見に与える影響を考慮する必要があるという指摘もあり、ご尤もですが、想像するに、現場でもそのような心持ちでの議論はかわされており、現実的な落とし所として、無限定適正意見に落ち着いてしまうということもあるように思います。(もちろん、よしとされる話ではありませんが。)
「職業的懐疑心」に関して
提言集では、多くの事例において、監査証拠の十分性に留意し、「職業的懐疑心」を発揮することが、改善点として言及されています。
個人的には、このような啓蒙が、実質的に監査現場に有用であるかは疑問です。
例えば、会社に内部統制上の欠陥が見つかり、それらが重大な影響を及ぼすような状況に繋がってしまっていたような場合、まずは原因と影響範囲と特定し、それらに対応する改善策と改善スケジュールを提示し、実行していく必要があります。
この原因の特定や対応する改善策は、個別具体的なTodoとなることが好ましく、(原因)不注意>>(改善策)今度から注意を高める、などといった話は実効性に乏しいものと評価せざるを得ないかと思います。
今回の監査提言集においても、状況は同じはずです。
監査人の対応に一部過失とも判断され得る事象があり、その結果として今後改善が求められるような状況なのであれば、お気持ちや現場の意識向上に求めるのではなく、仕組みや体制づくりも含め、具体的なTodoや統制構築に繋げる必要があります。
監査基準上、「職業的懐疑心」などという曖昧な概念を設け、結果として、改善策としても、多くの内容をこの用語を用いて落ち着けてしまう始末には、賛同しかねます。
監査業界・法人・現場レベルで、どのような対応ができるのかについて、より具体的に提示できると、実効性のある内容になるのかもしれません。
(こういった発想の元、現場レベルで不必要ともされるようなチェックリストが増えて言ってしまっているのかも知れませんが、それはまた別の議論で。。)
*提言集の中にも、どのような手続・検討が不十分であったか、どのような内容に注意を払うべきであったかの個別具体的な内容はもちろんありますので、提言集全体としての内容は有意義であることに変わりはありません。
監査提言集の使い方
概論
監査人が監査現場で、監査の基礎となる重要な虚偽表示リスクを適切に認識するために、どのような不正を含む虚偽表示の事例が発生したのかを把握するのはとても重要なことです。
この点で、監査提言集では多くの事例が紹介されており、とても有用な内容であることに間違いはなく、監査に携わる全メンバーが目を通したい内容となっています。
個人的な意見ですが、全てを網羅的に理解しきろうとする必要はなく、
こんな事象があるんだぁ、へぇぇ。
監査人の対応にこんな内容が指摘されてるんだぁ、へぇぇ。
のテンションでさらっと気になる内容中心に、定期的に目を通していただけると良いと思います。
事例紹介
上記の通り、基本的にはどのような事象があるのかを把握してもらうことがゴールで良いと考えておりまして、下記では、いくつか事例を簡潔に紹介します。
会計不正への対応
<事象> 証憑偽造による架空売上、確認が未回答
<指摘>確認未回答に対する不正リスクの識別、取引先との面談等の実施<事象>返還不要同意書の証憑偽造による売上計上、期末の利益率調整
<指摘>期末の通例でない調整に留意<事象>売買契約書等の証憑偽造(ドラフト)、写真での納品確認手続
<指摘>ドラフトでなく正本、写真ではなく実際に往査<事象>架空フェーズによる進捗度操作、裏付資料の提出拒否(機密)
<指摘>IT専門家の利用、立会での資料閲覧、不正兆候の有無の見等<事象>「リベート報告書」偽造による利益課題計上、回収遅延
<指摘>リベート取引に関する確認手続、入金の実在性の検討<事象>直送取引における不正
<指摘>物品の移動に関する確認の実施、事業上の合理性の確認<事象>取引先との共謀での架空売上・入金偽装、確認状も一致
<指摘>対価と役務提供の関係性、通例でない取引に対する追加手続<事象>販売先代理店・運送会社との共謀での証跡偽造、確認回答不一致
<指摘>確認差異や未回答の代替手続の強化(取引先の視察)<事象>架空の海外取引先との取引、残高確認の照会先を経理部門にすると確認回答が入手できず、多額の確認差異が発生すると判断し、工場・購買部門の担当者宛に直送送付
<指摘>ビジネスの理解、経理部門等の管理部門に送付すべき
会計上の見積もりの監査
<事象>工事の進捗度に関連するコスト総額の見積り
<指摘>現場視察等によって十分な監査手続を実施する必要<事象>繰延税金資産の回収可能性
<指摘>重要な税務上の欠損金が発生した理由が真に臨時的な要因か否か<事象>取得時及び取得直後ののれんの評価
<指摘>取得時に価値が毀損しており、当該資金が還流している可能性<事象>不動産の減損の兆候の判定・不動産評価額
<指摘>バックテストの実施、「不動産鑑定評価基準」との関係<事象>十分な情報が得られない場合ののれんの評価
<指摘>感応度分析、監査範囲の制約の判断、全額損失計上が合理的とは限らない<事象>貸倒引当金の見積方法
<指摘>どのようなデータが入手可能であるかについても網羅的に検討
おわりに
いかがでしたでしょうか。今回は監査提言集に焦点を当てて、改めて読んで感じたことを書かせていただきました。現在勉強中の方や、しっかりと読む時間が取れない方向けに、簡単にざっくりとしたイメージの伝わる内容になっていれば嬉しく思います。
これからも、気になるトピックについて、分かりやすく簡潔にまとめて解説させていただきます。
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引き続き、公認会計士に関する役立つ情報を発信していきます。
SHIRAKI 【公認会計士】
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