天皇賞だったらしい
ドゥデュ…という馬を抱えた男に会った。
日本ダービーの競走馬のぬいぐるみらしい。大の男が抱えて電車に乗って邪魔になるサイズ。実際、男はシートに座っていたが、胸から顔にかけてそのぬいが覆っていて、顔は半分ほど隠されていた。
ぬいは鞍をつけていて、その鞍にドゥデュ…と名前があった。ドゥデュなんとか、とたぶん続くのだろうが、折れていて読めなかった。
さて、男の話である。
日本ダービー帰りなのだろうか。
これはあとから調べたことだが、日本ダービーというのは5月の最終週に行われるらしかった。
今日は10月29日。時期が違う。
かなりの大きさのぬいを抱え、男は疲れていた。
歳の頃は30代半ばか。お世辞にも垢抜けているとは言い難い外見。 メガネは油っぽく汚れていた。細身のオタク。30代半ばのぬいを持った男なんてオタクしかないだろう。
男は、ひたすら睡魔と戦っていた。船を漕いだ。たまに白目をむいた。抱えたぬいがメガネを顔面に押し付けていたこともあった。だから油がつくのだ。
熟睡ではない。寝てはならぬと言い聞かせているのだろう。ただ、意識は明瞭ではなさそうだ。話すとデュとか、デャとか、ぬぁとか不明瞭なことを口走るに違いない。馬の名前のように。馬の名前と男に共通点を感じ、小さな満足感を得ながら電車を降りた。
なんらかの理由で、ダービー時期でもないのにダービーのぬいを抱え、疲れている男よ。大事な馬と走っていけ、これからも。
そして今日は、ハロウィンの週末でもあった。けったいな服装も、持ち物も、行事のせいにできる1年に1度の日。
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