今日もaudible 第24回: Black Narcissus

audible uk の会員ですが、リンクは日本版のaudibleにしました。
audible uk については下記をご参照ください。

今日もaudible: ところで audible uk って何?




映画「黒水仙」


ずいぶん前に、古本屋で映画のDVDを買って、古い映画を観ました。

「黒水仙」です。制作年は1946年とあったり1947年とあったりします。


タイトルは知っていましたが、見たことがなく、内容も知りませんでした。

おもしろさにぶっ飛びました。

これくらい古い映画だと、300円とか500円とかで新品のDVDが売っていますね。

良いのに当たると

「え、この安さでこんなに楽しませてもらっていいのですか!」

と、ウキウキするような、でも映画を作った人が気のどくのような、でもやっぱり当たりが出てうれしいような気がしてきます。

とにかく、「黒水仙」をまだ見たことの無い方は、どうぞ一度ご覧ください。

ちょっと検索すると、なにやらいろいろとうんちくが出てきますが、まずは気にせず、とにかく見ましょう。

原題は Black Narcissus です。



audible 版


おもしろい映画に当たると、audible で原作を聴きたくなります。


ありました、Black Narcissus。

著者は Rumer Godden。

最近購入した朗読がことごとくいまいちなので、また聴き直していました。


ナレーターが素晴らしい。

Jilly Bond さん。

ヒマラヤの現地人の話し方がまず良い。

シスタークローダー(主人公)が尼僧になる前の自分を思い出している場面がちょいちょい出てくるのですが、物思いにふける感が漂う言い回しもうまい。

現地の有力者の甥が、自分勝手な相談をシスタークローダーに持ちかける口調も秀逸。

そして何よりも、ルースという、かなり精神不安定なシスターの口調が、これまた本当にゾワゾワさせられます。

  Steady. Steady.

と、ルースが自分に言い聞かせるところが頭の中でリピートするのを止められません。

この土地では、シスターたちにとっては思いもよらないことばかり起こるのです。

加えて厳しい気候。

シスターそれぞれに何かが変わっていきます。でも自分では気づきません。

ひとり、自分の変化に気付いたシスターがいますが、去っていきます。

そして事態はシスターたちの想像もつかない方へと進みます。


この小説、近年、BBCでドラマ化されたようですね。


talk for time


では英語表現にいきましょう。

図書館に原書を入れてもらったので、引用はそちらからです。初めて出版されたのは1939年のようですが、2013年に Virago Press から出版されたペーパーバック版から引用します。


まずは talk for time から。

She was only talking for time; over and over in her mind she was thinking of what she must try to say.  She did not know in the least how she was going to begin, how she could put it, and she stayed by the window throwing the crumbs and talking; just talking.

Rumer Godden, Black Narcissus, Virago Press, 2013. p. 124


情緒不安定なシスタールースと話さなければならないと決心したものの、何から話したらいいのか困っているシスタークローダーが she です。

オンライン版ロングマン現代英英辞典(LDOCE) には play for time がありました。文脈を考えるとこういうことでしょう。

play for time
to try to delay something so that you have more time to prepare for it or prevent it from happening

例文:The rebels may be playing for time while they try to get more weapons.


sparkle


これは聞いていて気づいたのではなく、違う表現を引用するために該当のチャプターを読んでいて見つけました。

訳あって、カンチという少女を修道院で預かっています。大人の手前の女の子です。

ある日、チャペルの真鍮の花びんが1つ足りないことに、シスターブライオニーが気づきます。

     'Ayah, have you seen the small brass vase from the chapel?  It was among the other vases.  I've counted them over and over again and I can't see it.'
     'It was on the shelf,' said Ayah.
     'It isn't there now,' said Sister Briony, and unwillingly she said: 'I gave them to Kanchi to clean this morning.'
     'Kanchi wouldn't steal,' Ayah flared up; but her eyes sparkled and, as soon as she could, she went unostentatiously away towards the Lace School.

p.187

アヤという女性は、もともとこの建物が土地の権力者のめかけを囲う「宮殿」だったころから働いています。

「カンチは盗んだりしません!」といきり立つのですが、身内とは言わないまでも、自分と同じ土地の娘をよそもののシスターに疑われたからでしょうか?

しかし、そのあとでアヤの目がsparkled し、アヤはレーススクールの方へと向かいます。

このスクールは同じ建物内にあり、地元の女の子とたちが縫物を学んでいます。

flare up のあとでアヤの目が sparkle する。

LDOCE の sparkle の定義では、この場面の後の展開(アヤがカンチを見つけて、せっかんする)を考えると、しっくりきません。

2 if someone’s eyes sparkle, they seem to shine brightly, especially because the person is happy or excited

オンライン版ロングマン現代英英辞典

こんな肯定的な感情なら、そのあとでせっかんなどしないのでは。


そこで Oxford English Dictionary (OED) で定義を調べてみました。


I.2.c.  1594–
Of the eyes: To flash with anger or rage.

Oxford English Dictionary ウェブ版


この動作に伴う感情が、なぜこんなにも違うのでしょう?

LDOCE のほうでは好意的な意味で目が sparkle するのに対し、OED では怒りで sparkle します。

そこで、久しぶりに小林祐子著「しぐさの英語表現辞典」(研究社)を開いてみました。

one's eyes sparkle 「目がキラキラっと輝く⦅活気・才気・興味・興奮・幸せ・喜び・楽しさなどで輝く目もとの形容⦆

小林祐子著「しぐさの英語表現辞典」研究社、1991

このあと例文があり(sparkled のあとに with がつづき、どのような感情で sparkle したのかわかりやすい)、さらに注で sparkle, twinkle, glisten, gleam, glitter の違いを述べています。その sparkle のところには下記の説明があります。

sparkle は、活気・興味・才気・喜び・幸せなど, 常に肯定的な輝きと結びつき, 人の心を引き付けずにはおかない明るい目もとの描写に使われる. たまに怒りの光を放つ目もとに使われることがあっても, 好意的に描かれることが多い.

小林祐子著「しぐさの英語表現辞典」研究社、1991

なるほど。たまに怒り。好意的に描かれることが多いと。

そこでいま一度 OED を調べると、さきほどの怒りの輝きの定義は I.2.c. のものでしたが、そこから少しページの下に行くと、I.5.b. にもうひとつ、目についての定義がありました。

I.5.b.
1700–
Of the eyes: To be bright or animated; to shine, to glisten.

Oxford English Dictionary ウェブ版

こちらだと肯定的な意味ですね。

それぞれの定義で使われ始めた年代が違います。

怒りで sparkle するのが1594年から。シェイクスピアの「ヘンリー6世」からの用例が出ています。

肯定的な意味で sparkle するのが1700年からです。ドライデンが収集した古典と中世の詩を集めた Fables, Ancient and Modern からの用例です。

さすがOED。

あとから使われだした定義での用法が現在では優勢ということでしょう。

この記事のほかの部分も書いてから、念のため原書の該当箇所からアヤがカンチをせっかんする場面まで読み直しました。

わからなくなりました。

花瓶を盗んだカンチに怒ってせっかんしているのか、カンチをいたぶる理由が見つかって喜んでせっかんしているのか。

後者だと、引用部分は喜びで目が sparkle したことになります。

'Kanchi wouldn't steal,' Ayah flared up; but her eyes sparkled

「カンチを痛めつける口実が見つかって喜んだ sparkle なので but で導かれた」と考えると納得ではあります。

理解に苦しむ人物なのです、アヤと言う人は。アヤだけではありませんが。

それで結局はどちらなのでしょう。with で sparkle という動作の源の感情が書いてあれば迷わずに済むのですが。

Jilly Bond さんの朗読ではどちらにも取れる気がしました。


Ayah


ちなみにアヤ Ayah をアルクの英辞郎で引くと、小文字の ayah で「インド人のお手伝いさん」と出てきます。

OED でも小文字の ayah で A native-born nurse or maidservant, employed esp. by Europeans in India and other parts of South Asia. と出てきます。

以前 The Secret Garden の原書と Oxford Bookworms Library 版とを比べて読んだことがあります。

原書を audible で聴いていた時に名前だと思っていた Ayah が、Oxford Bookworms Library 版では違う名で呼ばれていたので、なぜわざわざ名前を変えたのだろうかと不思議に思い、原書の紙版で名前を調べたのです。

そのときに ayah というのがインド人のお手伝いさんの呼び名だと知りました。

いま改めて、ウェブ上にある紙版の1ページ目を見ると、an Ayah と、不定冠詞付き出てきました。

そのあとは the Ayah とか her Ayah などと出てきます。大文字で始まっていますが、名前ではないのです。

Black Narcissus では冠詞なしの Ayah で出てきます。

映画「黒水仙」では Angu Ayah という名前になっていました。


おわりに


この記事を書いていたら、また見たくなって、映画「黒水仙」を見直しました。

シスタークローダー役のデボラ・カーの英語が心地良い。

現地にいるイギリス人男性ミスターディーン役のデビッド・ファラーは、良く響く声でクリスマスキャロルをうたいます。さすが舞台俳優。

そしてシスタールース。

やっぱり怖い...

キャスリーン・バイロンという女優さんだったようです。


長くなりました。

それではまた。


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