紙飛行機屋
「へい、らっしゃい。ご注文は?
豚骨ラーメンと紙飛行機ね」
このラーメン屋のラーメンはまずい。だが、己の罪を書いて紙飛行機を飛ばすと、愛となって許されると評判なのだ。
「はい、紙ね。ペンは持ってる?ラーメンはちょっと待ってな」
客の男性は紙とペンをもらうなり、紙に勢いよく書き始めた。客が何を書くか、店主は見ない。
「書き終わったら、裏の公園で飛ばしてきな。コツ教えちゃる」
客の男性は覚束ない手つきで紙飛行機を折っていく。
「紙飛行機は風を受けて上昇気流に乗ったらよく飛ぶ。風を見極めて、高く飛ばすんだな」
裏の公園は気持ちのいいそよ風が吹き、紙飛行機を飛ばすには絶好の天気だ。
客の男性、1投目。うまく風をつかまえられず、地面に突き刺さる。
客の男性、2投目。風を受け、ふらつきながらも10秒ほど飛ぶ。
「へい!お前さん!ちょっと紙飛行機見せてみろ」
店主は見ていたのだろうか。ラーメンそっちのけで公園に出てきた。
「風を受けるには尾翼をもう少し曲げなきゃだな。それから投げる時はまっすぐに、だ。余計な力を入れるな。ちょっと見てろ」
店主、1投目。軽く投げるも紙飛行機は風を受け、旋回しながら上昇気流に乗る。30秒ほど旋回して、店主の手元に帰ってきた。
「ほら、次はお前さんの番だ。この際思い込めて投げてみな」
客の男性、3投目。紙飛行機の尾翼を微調整し、思いの限りを尽くして紙飛行機を投じた。
紙飛行機は同じものとは思えないほど風をつかまえ、ぐんぐん上昇気流に乗っていく。
「やるじゃねぇか。こりゃあ、長く飛ぶぞ」
紙飛行機は水を得た魚のようにぐんぐん空を舞い上がっている。軽く1分は超えただろうか。風をつかまえた紙飛行機は悠々と滑空し、客の男性の手元に帰ってきた。
「いいフライトだったな。ほら、ラーメンが伸びるぞ。早く食っちまいな。」
客の男性は店に戻りラーメンをすする。むせながらも、その表情は晴れやかだ。
この店のラーメンはまずい。
だが、食べログの評価はなぜかいい。
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