今月の保育料が爆増した
と夫が震えて言う。「月末に8万円引き落とされるから、残高残しとけよ」とネット銀行から予告メールが来たらしい。
おかしい。我が家の保育料は、9月改定で月5万円になったはずだ。保育料は基本的に、前年の所得で自治体が算定する。月8万円の保育料なんてハイパーセレブ層が支払う額だ。我が家は共働きだが、パワーカップルを名乗るなんて恐れ多い、庶民層だ。ノンアルビールみたいに言うとすれば、ノンパワカップルだ。そんな私たちに8万円引き落とすゾ、とな?
まあ月5万の保育料なんて、時給で考えると、保育園からしたら悲しい金額だ。毎日娘を、保育だけでなく、しっかり教育もしてくれる。1歳から通わせているが、外では手をつなぐようになったし、フォークの正しい持ち方、歯磨き、トイトレ…。私たちだけではとてもクリアできないステップを、プロがしっかり娘に仕込んでくれた。先生方はみな、プライドを持って保育してくださっていて、本当に頭が上がらない。だが、
仕方ない、今月くらい8万円支払うか…。
とは、ならない。
これは福祉だ。我が家の保育料が低い分、保育園には行政からお金が補填されている。これまで夫も私も、なけなしの収入から、憲法が定める納税の義務を果たしてきた。こういうときくらい、福祉の恩恵を受けたい。(余裕なくてすみません)
「悪いけど、保育園に聞いてくれる?」「あい、わかりました。」私は育休中なので、保育園への確認は必然的に私がする。ちなみに9月の保育料は5万円引かれていたか、夫に確認する。(保育料は夫の口座から引き落とされる)「5万円引かれていたよ。」と返答する夫。じゃあ、やっぱり急に8万円引かれるのはおかしいな。なんなんだ、この差額の3万円は…。
お金のことだが、サラッと聞こう。人間がやることだし、間違えることもある。先生方はみんな忙しくしておられる。「間違って請求してしまい、申し訳ありませんでした!」と言われても、「いえ、全然!ご修正いただければ、別にいいんです~、オホホ」とやりとりしよう。いつもお世話になっているんだし、クレームするなんてもってのほか。「心にゆとりがあるママ」を全面に出そう。
事務的なことは、どうやら園長がしている。この件も園長に聞こう。園長…か…。私はゆっくり固唾をのむ。
うちの園長は男性だ。突然だが、皆さんはクレヨンしんちゃんは好きだろうか。私と夫は大好きだ。最近みさえのインスタが開設されたらしい。プロモ用らしいが、ちゃっかりフォローした。話はもどして、しんちゃんの幼稚園の園長先生いるじゃないですか。組長って呼ばれている、あの園長。うちの園長は、あの組長にそっくりなんです。なんだか嬉しくて、うちも家では園長のことを、こっそり「組長」と愛を持って呼ぶようになった。
任侠映画に出てきそうな組長。入園時、娘は人見知りがひどく、特に男性への恐怖心が強かったので、組長にお目にかかった瞬間「あ、やばい」と思った。保育園に行きたがらなかったらどうしよう…。でも、組長を前にしても泣く様子のない娘。一緒に遊ぶこともあるという。組長、そのお顔にも関わらず、どんな魔法で子ども達のハートをつかんでいるの…(超失礼)
自身の社会人経験をもとに分析すると、組長はしっかりした人だ。男性園長って珍しい気もしていたが、保育園の入り口前で挨拶して立っている組長を見ると、不審者も寄り付かないだろうし、親としては安心する。(またも失礼)
そんな信頼している組長だが、僭越ながら、本日間違いを指摘させていただく。緊張した面持ちで、登園する。組長はその日も保育園の前にいた。
保育園の敷地内で、組長はたくさんの植物を育てている。○○ハーブではない、ちゃんと夏はプチトマトやナス。食育といって園児たちに収穫もさせる。最近は水槽を置いてメダカを泳がせたり、おしゃれなハイビスカスの鉢まで置いている。ある日はビニールシートに土を敷いて乾燥?させていた。本格的に園芸をたしなんでいる。完全に自分の庭にしており、組長は楽しそうだ。
また話が逸れたので戻す。コーナンで買ったような植物の栄養剤と小さなクワをもってニヤニヤしている組長に挨拶し、意を決して話しかける。「すみません、今月末に引き落とされる保育料が8万円みたいなんです。うちの保育料、5万円だったと思うのですが…」ニヤニヤしていた組長がスッと真顔になる。「そうですか。すみません、確認してみますね。」組長は鋭利なもの(クワ)を持って、中に入った。
事務PCでも開いて確認するのかと思ったら、立って園児たちが遊んでいるのを眺めている。考え事をしているようにも見える。私は娘を担任の先生に託し、保育園を出る。仕事で「○○の請求額がおかしいと思う」と電話があれば慌てて確認した過去の自分を思い出す。組長、えらい構えとるな。
帰宅して洗濯物を干さなければいけなかったが、組長から電話があるかもと思い、スマホをずっと携帯する。結局、組長から電話はなかった。
16時半。娘を迎えに行く。「ママー!」と飛んでくる娘と再会を果たす。担任の先生が軽く今日の娘の様子を教えてくれる。今日のおやつのスイートポテトを半分残しちゃったらしい。もったいない、まだお芋の食感が苦手なのか~。「でも、半分食べられてえらいね☆」娘をほめる。スッと組長が出てきて「わ!」と言ってしまう。「お母さん、保育料のことなんですが…」
「あ!確認いただいたんですね、ありがとうございます!」「はい。9月に保育料改定があったんですが、実は9月引き落としへの反映が間に合わず、これまでの保育料金を引き落とさせてもらってたんです。改定では、月2万→月5万円に変更だったので、差額3万円のご請求できていなかった分を、今回追加で請求するために、3万+5万=8万円の引き落としになるんです。」
「あ…そういうことでしたか…。そこまで確認できてなくて、失礼しました!」「いえいえ、急に大きい額が引き落とされるなんて、びっくりしますよね。こちらも予告なくすみませんでした。」確かに、予告はしてほしいところだが、手を煩わせてしまい、申し訳ない。「9月は5万円引かれていた」と夫は言ってたのに、おかしいな。
夫が帰宅後、このことを言うと「え、9月は5万円引かれてたよ!」とまたネット銀行の出金履歴を確認した。「ほら、9月5日に5万円!引かれてる!」「いや、保育料は月末引き落としでしょ?今回も月末に引き落とすって予告メールが来たんでしょ?」「…あ、この5万円は、イオンカードだったわ。…9月末は確かに2万円しか引かれていないわ」「…」「まぎらわし~、ごめんね☆」
夫が管理していたとはいえ、しっかり確認せず、園側が間違っていると思い込み、申し訳ない。疑ってしまった自分をぶん殴りたい。組長はじめ、保育園の皆々様、いつも丁寧なご対応をありがとうございます。(土下座)
W育休を取得していたため、一昨年の所得は低く、8月までの1年間は、ありがたく月2万円で通わせてもらっていた。去年は2人とも働いていたので保育料は月5万円になった。こんなに保育料が変動する世帯はまだあまり例がないみたいで、組長もすぐには返答できなかったらしい。夫ももう少ししっかり確認していてほしかったが…。
余談だが、以前、近所を歩いていると「あれ?組長?」という人を見かけた。「組長じゃなかったかもしれんけど…」と夫に話したら、「組長(園長)じゃなかったら、それはただのどこぞの組長やろ」と言われ、背筋がゾクリとした。
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