素敵なカフェ
仕事を失って専業主婦になり早8ヶ月か…
家事以外ではこれといって没頭出来る趣味も無く、このままではいけないと仕事探しをしてみるが、身体のこともあり躊躇ってしまう。
そもそも履歴書用の写真を撮りに行くのも面倒くさい。
なんやかんや理由をつけてはダラダラと今日まで過ごしている。
暇つぶしに今日の占いを見た。
「いつもと違う行動をしてみよう!」だってさ。
いつもと違うか…
そうだ、前から気になっていた近所のカフェへ行ってみよう!
スマホの地図検索で調べると今日は営業している。
午後からのお茶の時間を過ごそうと、読みかけの文庫本をカバンに入れてスタンバイ完了、15時にお邪魔することに。
近所の景色はすっかり秋なんだな…と歩くこと3分。
住宅街の中にあるそのカフェは本当にご近所さんにあった。
初めての場所へ1人で訪問する時の、あの何とも言えない緊張感でいっぱいになり、カフェの入り口の石段でつまずきそうになる。
中から女性客らの笑い声が聞こえてきた。
古い住宅をリフォームしているためか、玄関ドアを開けると段差がある。
直ぐに「靴のままでお入りください」の案内書きを発見。
恐る恐る靴のままで上がる。
住宅の柱や壁はあまりいじっていない様子で、玄関からはカフェの全体像がわからない。
なんとなく左側へ進むと、北側の奥まった小さなテーブル席で女性が読書をしている。
反対側の柱の奥では男性がこれまた読書をしている様子。
1人静かに読書をしているその姿は「常連さん」とみた。
もっと奥へ行ってみるが、誰の姿もなく、不安になりもう一度玄関口に戻ってみる。
下駄箱のような台の上に呼鈴があった。
私は一番南にある、木々の茂る庭に面したソファー席に座った。
ここは!
なんという落ち着いた空間。
先ほど紹介した女性と男性の姿をそのソファー席からは確認することは出来ず、又、他の談笑している女性客のいるテーブルもどこなのか分からない。
ああああ!
これぞ私が求める理想の空間。
誰にも邪魔されず、ゆったりとした時間を過ごせる、
居心地の良いカフェ。
古い住宅の雰囲気を残しているからこそ、このソファ、椅子であり、テーブルであり、インテリア雑貨である。
BGMに鳥の鳴き声も併せて流れていて、それがとてもマッチしている。
庭を眺めると本物の鳥が入れ代わり立ち代わり庭木を訪れる。
温かいカフェオレと手作りのお菓子を頂き、読みかけの志賀直哉短編集を読む。
素敵な時間をこれほどにもご近所で過ごせるとは。
思い切って訪れて良かった。
今日は占いどうりで正解だった。
この場所にオープンしてから10年目になるらしい。
何でもっと早く訪れなかったのか、と思う。
数年前、
私は京都へ通い、居心地の良いカフェを探し求めていた。
やっと見つけて通ったカフェは閉店してしまった。
それからしばらく時々京都を訪れてはカフェを探してウロウロしていたが、これ!といったお店に出会うことはなかった。
まさかこんなにご近所に素敵なカフェがあるなんて…
灯台下暗しっていうのか何というのか。
密かな楽しみが1つ出来た。
本を持って通う常連さんの1人になろうとしている。