漢検1級 合格に至るまで

はじめに

 近年、漢検1級は難化の一途をたどっており、平成28年度からの出題形式の変更に加え、平成29年度以降では複数回合格者すらも苦戦している回が続いております。私は令和2年度第3回から挑戦をはじめ、12回目の挑戦で合格をつかみ取ることができました。
 私が受検を決意した4年前、当初参考にした勉強法は「過去問をベースにして市販の問題集を解いたうえで、基本的に通販で購入できる『三略』を繰り返す」というものでした。しかし実際は、本試験の難易度が明らかに変わりつつある過渡期であり、前述した勉強法では到底太刀打ちできるものではありませんでした。また、令和5年度からは更に難易度がワンランク上がったように感じます。そのため、私が合格するまでの学習法を書いただけでは参考にならない箇所も多々あるかと思われます。従いまして、合格までを振り返り、受検に対する心構えをはじめとして、参考書・問題集、あるいは勉強法について何が効果的だったか否かについても書いていこうかと思います。

購入した参考書・問題集

・参考書

公式:漢検漢和辞典 四字熟語辞典 漢検要覧

市販:新明解四字熟語辞典 
新明解故事ことわざ辞典 漢字音符字典 
中国古典名言事典
EX-Word(電子辞書:広辞苑第7版、漢字源)

・問題集

公式:「(平成4年から現在に至るまでのすべての)過去問」(近隣の大学図書館で複写、国立国会図書館の遠隔複写)「完全制服」「精選演習」

市販:「本試験型」成美堂出版 「よく出る」「頻出度順」新星出版社 「2つの級を同時に学べる」高橋出版 「合格ノート」一ツ橋出版 「三略上中下」漢字検定模擬試験研究会

・その他紙媒体

 準1級の過去問、問題集(「史上最強」「二略」) 

 単略(2級)

 看護師手帳(当時の職場にて、看護師のご厚意で譲り受けました)

 「H師匠」の資料(実家近所にお住まいの80代後半のリピーター。過去15回以上合格)

・ネット上の資料(主に利用させていただいたもの)


・漢検1級模擬試験倉庫さん(模試・分野別問題集・各種資料)

・漢字逞筆さん(模試・分野別問題集)

・インスピさん(模試・広辞苑出典の問題集)

・しゃけさん(各種資料)

・KANJI HOLICさん(各種資料)

・毘藍婆さん(模試)

・しずくさん(模試)

・どみのさん(模試)

・水辺鳥さん(模試)

・佐藤さん(模試)

・大智さん(模試)

・Agarmaさん(模試)

・みかすさん(模試)

・283:Again190さん(分野別問題集)

・隼(はやぶさ)413号さん(資料)

心構えについて

 前述のとおり、漢検1級は難化の一途をたどっており、過去問の焼き直しである市販の問題集だけでは到底太刀打ちできません。これまで文学、歴史に非常に興味を持っていたという方や、ハイレベルな雑学クイズが趣味、という方以外は生半可な気持ちでは絶対に受かりません。

あるとき、「完全征服と精選演習の読み書き意味を全て覚えたら、本試験で何点ぐらい取れますか?」と私の師匠に尋ねたところ、

「40点ぐらいと違うか?」

とのことでした。そしてやはりといいますか、師匠も「最近の1級は明らかに難しくなっている」と話してくれました。

それだけ1級の壁は厚く、高いです。難関大学を受験する覚悟で挑んで下さい。

私は手に入る全ての書籍を購入しましたが、実際に使用した主な市販の書籍は以下に集約されます。

使用した書籍

問題集

・平成14年度第3回以降の過去問

・完全制服

・精選演習

・三略

参考書

・漢検漢和辞典

・漢検四字熟語辞典

・広辞苑(電子辞書収録版)

・漢字源(電子辞書収録版)

 これ以外の書籍は学習初期(具体的な勉強法の研究段階)に試してみましたが、一通り学習したか、軽く目を通した後は使いませんでした。

具体的な勉強法

 ここからは、具体的な勉強法を述べていきます。実際に私がしてきた勉強法についてよかったかどうか、自己評価も兼ねてお話しします。個人的に身についた勉強法には◎、次いで〇、一部参考程度にとどめておく勉強法には△、効果が望めなかった、あるいは効率が悪かった勉強法には×を付けています。参考あるいは反面教師にしてくだされば幸いです。

①    公式四字熟語辞典へのマーク⇒×

 受検開始当時はこのやり方がベストだとされてきましたが、現在では有志の方たちが2級、準1級、1級の四字熟語をまとめて下さっています。私もある時期から有志の資料をメインに据えて使用しておりました。したがって、今後勉強される方は「有志の資料」をメインとして、辞書については資料に掲載されていない四字熟語が出てきたときに調べてみるのも良いかもしれません。(実際はスマホで検索した方がより確実です)

②    音符字典のマーク⇒×

 この方法もひと昔前の勉強法では使えたかもしれませんが、実践ではあまり使えませんでした。初期の勉強では、漢字は単体で覚えるよりも熟語で覚える方が身につくかと思います。

③     分野別過去問ノートの作成⇒△

 各問題の意味を辞書で調べ、分野別にノートに書いていきました。初学者は漢検1級の難問、易問の区別がつかないためどちらかというと「作業感」があると思いますが、「書く」という能動的な勉強を習慣づけるにはよかったと思っています。私が本試験に挑戦するようになってからも、受検後は復習ノートとして書き留めていました。

④     暗記カードの作成⇒×

 100均で売っている情報カードに間違えた問題を書き、フラッシュカードとして使っていました。一般的な資格試験で用いた方法を試しましたが、漢検は「書く」試験であり、しかも1級に至っては覚えなければいけない量が膨大であったため「見る」だけに特化するツールに関しては細かい箇所を長期記憶に落とし込むことが難しかったです。「漢検1級は小手先だけのテクニックでは通用しない」という現実が体感できました。

⑤     漢検1級模擬試験倉庫さんの模試・演習問題の切り張り⇒◎

 学習の中で一番使用したノートです。「倉庫模試」を分野別に切り分け、文庫ノートに「上に問題、下に解答」のレイアウトで貼り付けて繰り返し学習しました。また、倉庫さんの分野別演習問題も同じように切り貼りし、「特訓シリーズ」と命名して繰り返しました。この過程で1級大見出し語1346、準1級大見出し300、常用難読熟語500は覚えられたかと思います。

⑥     漢字逞筆さんの模試・演習問題・資料⇒〇

 逞筆さんの演習は「音読み」の演習問題を主に繰り返しました。こちらもノートに張り付けて繰り返し学習しました。また「故事ことわざ」も印刷し覚えましたが、やや後半は集中力が途切れてしまいました。A4印刷はいささか扱いにくかったため、こちらは後にsakinova.netさんのHPから問題をワードにコピーし、速習帳と穴埋め問題を自作し繰り返しました。「当て字」に関しては主に補助教材として使っていました。

⑦     三略の演習⇒△

 学習初期は本問題集のフラッシュカードを作っていましたが、初学者にはオーバーワークでした。しかし、各種演習や模試を熟したのちに再度演習したところ、基礎固めとして非常に役に立ちました。その甲斐あってか、R4-3本試験では150点まで到達できました。最終的には本書もコピーして分野別に切り分けて基礎の確認として演習に活用しました。しかし現在では有志の問題が充実しているため、無理に使う必要はないかと思います。

⑧     2級、準1級の復習⇒×

 具体的には「単略の対類付録の印刷」「二略の対類研究」「過去問音読みの読み書き変換」です。しかし150点の時点ですぐに取り掛かるべきではありませんでした。もし学習するというのであれば、初学者は1級に挑戦をする前に今一度復習、研究しておいてはどうかと思います。1級の学習を開始した方でしたら、少なくとも本試験で150点を越えたうえで、これまでの総復習をしてから「軽く演習する」程度にとどめた方がよいかと思われます。

⑨    ランダム模試⇒△

 倉庫さんのランダム模試を印刷して繰り返し学習する方法です。こちらも今思えば無駄が多かったかと思います。倉庫さんは模試本編でも47回分(現在では48回分)、番外編の模試も合わせると総合で70回前後の模試を作成してくださっております。そのため、あらためて模試を生成して解くよりは、これまでの模試を復習した方がよかったかと反省しております。

⑩    分野別ランダム演習⇒◎

 倉庫さんの分野別のランダム演習は「使えます」。学習後期には「音読み」「訓読み」「1文字訓読み」「二版訓読み」「語選択」「通常形式四字熟語」「当て字(生物)」「当て字(非生物)」「当て字(辞典外)」「対類」「ことわざ」を1日〇周すると決めて解いていました。なお、このとき間違った問題は読み問題や当て字でも漢字練習帳に書いて覚えました。このとき「書いて覚える」が特に実感できたのは「当て字」でした。当て字も繰り返し書いて覚えることで理解することができたことを強くお伝えしたいです。

⑪    その他有志模試・演習⇒◎

 学習後期に利用させてもらいました。こちらも分野別に編集して使いました。上級者向けの問題が数多くありますが、今の漢検1級は基本と標準を踏まえたうえで、このレベルまで学習しなければ合格できないと思います。私が合格したR6-2では直前に見直したところから「腹癒せ」「(倶利伽羅)紋々」「戚揚」が出題されました。

⑫    その他 雑記

 学習初期には、過去問を見ながら漢検要覧や漢検漢和辞典に出題された漢字をマークしたり、要覧の1級該当漢字のページを印刷して情報カードに張り付けたりするなど、かなり遠回りになる勉強をしていたと思います。また、150点を取った後に一時期、新明解四字熟語辞典のまとめノートや、中国古典名言事典の必要そうな箇所を書き出す作業もしていましたが、当時の自身のレベルにあっていない学習方法でした。
 もう1つ、タブレット学習も試してみましたが、個人的にはタブレットそのものに使い慣れていないこともあり、結局は紙媒体を中心とした学習に落ち着きました。

理想的と思われる勉強フローチャート

 以上より、今後チャレンジャーの方が効率よく学習を進めていくにあたって、必要な参考書、問題集、有志の資料については以下の流れになります。

・フローチャート

 精選演習⇒過去問(H23年度以降のものをできるだけ多く。最新のものから遡るならばH28年度まで、難しければ「頻出度順」(新星出版社)を購入)⇒1級配当四字熟語、大見出し語など、有志(倉庫さん、KANJI HOLICさん、しゃけさん)の資料を使った暗記⇒倉庫さんの各種問題の演習⇒逞筆さん音読み、当て字、ことわざ2390⇒倉庫さん逞筆さん模試⇒反復学習⇒その他有志の模試、演習問題、倉庫さん分野別ランダム問題⇒総復習

 分野別の学習方法については、これまでに合格された方たちの勉強法を参照してください。

・「守破離」の考えを持つ


 学習のどの段階においても「守破離」の考え方を持ってください。漢検1級でいえば「基本となる資料をマスターして、それをベースにして次の段階に移る」となります。「資料をマスターする」とは具体的にいえば「項目の暗記、演習、復習」の能動的な勉強(眺めるだけではなく隠して思い出す、音読、書く)を繰り返し「読み・書き・意味の理解が平均して9割できるところ」まで到達することです。そしてそれが十分にできたと実感できたら次の段階に進んでください。ちなみに「十分にできた」というレベルとは、「九九の問題をランダムに聞かれても即答できるレベル」だということを覚えておいてください。

 個々の覚え方に関しては10個の塊で覚えていきましょう。覚え方は「1 2 1 3 4 2 5 3 4 5 1~5 6 7 6 8 9 7 10 8 9 10 6~10 1~10」という形での反復学習をお勧めします。

 進捗状況の管理としては、「武田塾」の「4日進んで2日復習、1日予備日」というやり方がお勧めです。学習後期の演習にて、漢字練習帳に書くときには「月~木は新規分を2回ずつ書く。同時に前日に学習したものを1回書く。金・土で残りのマスを埋める。日曜日はその週の総復習と次の4日分の目標量を決める」というやり方で手に馴染ませていきました。なお漢字練習帳の文字数は、読み、書き、語選択、当て字は120字タイプ、四字熟語と対類は150字タイプをお勧めします。ことわざに関しては15行の国語ノートの中央に横線を引き、問題の部分をカタカナか赤ペンで答えを書き、下半分のスペースを使い該当する漢字を練習しておりました。

おわりに

  予てから私は「準1級は富士山、1級はエベレスト」と考えております。もっとも最近では「成層圏」ではないかと思うときもありますが…。4年前、1級に初めて挑戦したとき、「これはとんでもない試験に喧嘩を売ってしまったな」と思いました。しかし受検を繰り返すたびに新しい発見があり、基本に戻ることの大切さ、「書く」という「能動的」な学習の大切さ、そして「師匠」との世代を超えた交流…。R5-3の試験の際には自己ワースト2の116点でした。このときは試験中に「もう嫌だ!!」と叫びそうになるのを必死に堪えていました。そんな様々な思いを胸に、このたび私は漢字のエベレストへの登頂を果たすことができました。準1級合格のときは歓喜の声をあげました。しかし今回は違います。昇る朝日に照らされる漢字のエベレスト山頂からの眺望は筆舌に尽くしがたい、神々しいとさえ思いました。私の学習法は無駄が多く、どちらかといえば反面教師に近いものがあったかと思います。しかし工夫を重ねた結果、合格できたことを誇りに思います。漢検1級に挑戦したすべてがいい思い出です。

 これから挑戦する皆様へ、漢検は絶対評価ですので、ライバルはいません。点が上がれば素直に喜び、たとえ低い点数であったとしても全国平均点と自身の偏差値を考えて、(全国平均点は4割5分を切ることもあるため、6割前後取れること自体凄いことです)目先の点数に振り回されることなく、挑戦を楽しんでいただけたらと思います。

乱筆乱文となりましたが、読んでいただき嬉しく思います。私はこれからも受検しますが、共に漢字学習を楽しみましょう!

いいなと思ったら応援しよう!