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白い暴動

 俺達はそれぞれの愛車の前で佇みながら、同じ台詞を思い出していた。
「俺ら鑑別所カンカン行くのは決まっとるからのお。もうおまえらの時代じゃ。俺らみたいにならんよう、いっそ名前から特攻服トップクから何まで、逆にしてみいや」
 俺達のチーム『ブラックライト』三代目総長からの、餞別の言葉だった。
 結果、黒の特攻服は白に。そして、単車もロケットカウルからエナメル三段エビゾリシート、更に竹槍マフラーまでも白く塗りつぶす事となった。
 だが問題はチー厶名だ。
「ブラックの逆は流石に分かる。でもライトは何?」
「そこは妥協してもいいんじゃない?」
「じゃあ、ホワイトライトね」
「……しっくりこないなあ。やっぱりブラックっていうのが格好良すぎたんだね、他のチームも付けてるし」  
 集会ではその後も次々と候補の名が上がったが、どれも決定打に欠けるものばかり。
 試験的に採用されたのもあったが、結局は白紙に戻った。白だけに。
  
 俺達は胸に手を当てる。
 総長の台詞の続きが甦る。
「じゃけんどもよ、大切な人への想いっちゅうもんは変えんなや。その想いっちゅうか愛っちゅうもん、絶対忘れんなや。愛羅武勇じゃ」
「総長……」
 俺達は愛車に跨がりエンジンを蒸かす。
「ホワイト……気合見せっぞお!」
「おぇーす!」
 チーム名は決まらないままだが、俺達は疾走りだす。
 その忘れてはいけない想いを胸に、白昼の光が途切れ、紫外線探傷灯ブラックライトが灯るトンネルの中へと疾走りだし、再び胸に手を当てる。

「後ろのケンメリ先行かせい! よっしゃ長葱一束夜露死苦!」
「天上天下唯我独尊干し椎茸一袋上等夜露死苦!」
「イキガリ見せんでええねん! シャバ僧がっ! 味醂一本特攻一番鬼!」
「ビッとせいやビッと! おっとマトイが邪魔や! あ、蒟蒻ゼリー!」

「おかえり。遅かったやないの」  
 玄関を開けると、”大切な人”が俺を待っていた。
「母ちゃんごめん。これ……」
 決まり悪そうな態で差し出したレジ袋を、母ちゃんは笑いながら受け取る。
「はっはー、豆腐グチャグチャになってるのお。 袋ん中で暴れたんか? はっはー。あ、卵はちゃんと田中さんとこで買うたん?」
「うん。それも忘れんようボードに書いといたから……」
「あそこ今日は二割引やし……どしたん? けったいな顔して」
「白い豆腐……暴れる……ボード……白いボード……暴動……これじゃ! 母ちゃんありがとう!」 

 木綿絹一丁ずつ、牛乳二パック、御彼岸親戚回り菓子折り五箱。

 俺達『白い暴動ホワイトライオット』はトンネルを抜ける前、内壁を覆うホワイトボードに、胸ポケットから取り出した蛍光マーカーでメモ書きをする。
 帰りに買い忘れないようにと、走り書きならぬ"走り屋書き”をするのだ。

(了)
初稿
ショート・ショート・ガーデン
2022/2/15

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