ラベンダー 第6回
今夜の渉君が言うことと、あの時の陽向のものすごい食べ方にどこか似ているところがあり、自分が両方の状況を寛容に受け入れている理由にも、同じように似たところがあるのだろうか。だとすると、陽向が食べたかったのはミートソースであって、スパゲッティはつけ合わせ、渉君が着たいのは女性っぽい服であって、男性の服は辻褄合わせ――何の辻褄かはよく分からないけれど――ということなのか。
まあ、それは人の好みだからとやかく言えないかも知れないけれど、本当にそれだけなのだろうか。もしかしたら、陽向が本当に食べたいのはミートソースやカレーで、スパゲッティやごはんはなくてもいいものなのか、渉君が本当に着たいのは女性の服であって、男性の服はいらないものなのか。渉君は、もしかしたら本当は女性として暮らしたいのであって、男性ではいたくないのか。
だとしたら……翔子の妄想は暴走し始めた。渉君が食べたいのは男性で、女性の私はついでに食べているということなのか。食べたい、だなんて品のない言い方だけど。とめどなく膨らむ、奇妙な連想を振り払うように首を振って、翔子は冷静に考えようとした。陽向の時は後片付けが大変だったけれど、面白くて楽しかった。でもこれはどうなんだろう。
面白いや楽しいとかで単純に括れはしないけれど、特に迷惑を感じるわけでもないし、別に嫌というわけでもないと翔子は感じていた。
その時ふっと閃いた。あ、じゃ渉君も陽向と大して変わりないか。陽向はスパゲッティも食べるけれどミートソースが好き。渉君は男装もするけれど女装が好き。別にさほど迷惑するわけではない。まさか、男性の恋人がいるわけではないし。そうだよね、そう信じたい、いや信じている。もちろん愛の形としてはそれもありだけど、私の気持ちを裏切るという意味では、それは我慢できない。だとすれば渉君の普段の趣味がひとつ深まっただけなんだ。
へえー、そうだったんだ。私は、渉君がそうしたいって言うんだったらそれでいい。人に迷惑をかけるわけじゃないし、人を傷つけるわけでもない。そう考えると、翔子はひとまず心が落ち着き、同時に、さっきから自分がさほど動揺しないでいられる理由が分かったような気がした。渉の表情がこれまでより晴れ晴れとしていて、生きる力がみなぎっているような気さえしてきた。