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鵬斎酒 佛経第12回

<鵬斎酒佛経 第十一図>

一切男女欲得我酔郷之安楽   全ての男でも女でも、私の酔っ払いの
                天国での安楽な生活を望めば、
不問惡客獨醒賜灌蕉葉    酒を飲まない人でも、
                酔っ払っていない人でも、
                付き合いでしか酒を飲まない人でも、
                ほんのちょっとしか飲めない人でも
我皆引導      私は皆んなを引き連れて
令著勝地      酔っ払いの天国に行き
驅苦寒得陽和    厳しい寒さを追い払って、
            のどかな春の日和となるようにしよう。
若不爾殘一人者   もしそのようにならず、一人でも残るならば、
我不取正覺     私は正しい悟りを得ることができないであろう。
爾時佛讃酒佛曰   この時仏は酒仏を褒め称えてこう言った
善哉譱哉      善いかな善いかな
眞可謂上天之美禄  あなた(酒仏)の演説は
            まさに天上の美酒とも言うべきものだ。

【語句】

惡客     下戸 (酒を呑まない人)
独醒     己一人醒めている人
賜灌     付き合い程度にしか飲まない人
蕉葉     [ショウヨウ] 少ししか酒を飲めない人。
驅(駆)    [ク] ここでは「おう(逐)、おいはらう」の意
不爾     そのようにならない(爾(しか)くせず)
      [ゼン] 善の異体字。
美禄     [ビロク] 酒の異名。
       「酒者天之美禄、所以頣養天下」(『漢書』食貨志)。

【蛇足自注】

惡客
元々は下戸のことを言ったが、のち、転じて大酒飲みを指すこともある。こヽでは文章の流れからして下戸であろう。元結以不飮者為悪客、後以痛飲者為悪客(羣砕録)。

独醒
擧世混濁、我獨清。衆人皆醉、我独醒(屈原『楚辞』漁父)

賜灌
普通には「盃をあげて、敬意を表し飲む酒」のこと。
こヽでは、そういった風な儀礼的に酒を飲む程度の人を指していると考えたい。(酒賜灌=猶賜飲。「當飲者皆跪奉觴曰賜灌。勝者跪曰敬養」(『禮記 投壺』)。「灌猶飲也。言賜灌者服而為尊敬辭也」(鄭玄注)

蕉葉
芭蕉の葉のことであるが、転じて底の浅い小さい盃を意味し(吾少時、望見酒盃而酔、今亦能飲三蕉葉『東坡志林』蘇軾)、更に転じて少ししか酒を飲めない人をも指す。

【参考】

杉村英治『亀田鵬斎』(三樹書房)
青木正児『楚辞』(春秋社)
維基文庫@web


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