不思議な国のアリス:そして笑いだけが残った。

言わずと知れたファンタジー小説の大傑作です。
日本ではどこで間違えたのかお子様向けのようにように受け取られてしまっています。
難しい言葉を繋いで深刻ぶり、なにを言っているのかが一般人には解らないものを純文学とかいってありがたがる国ですから、『不思議の国のアリス』のように誰でも楽しく読めるものは価値がないと頭から信じ込んでいるようです。

“All right," said the Cat; and this time it vanished quite slowly, beginning with the end of the tail, and ending with the grm, which remained some time after the rest of it had gone.”Well! I've often seen a cat without a grim,” thought Alice; “but a grin without a cat! It's the most curious thing I ever saw in all my life”
………ゆっくりゆっくりと消えて行きました。しっぽから始まって、最後は笑っている顔。その笑いは、ほかの部分が消えたあともしばらくの間残っていました。『笑っていない猫って今までも見てきたが、猫が居なくなっても笑いだけが残っているなんて…、人生で見たものの中で一番奇妙なものだ』とアリスは思った。

『不思議な国のアリス』の中でも名高いチェシャ猫の場面です。普通にはこの文章はルイス・キャロル特有のナンセンスなジョークとして扱われており、それで終わっています。子供のアリスが人生(in all my life)なんていうところは良質なジョークですが......

さて、話はここからです。《猫は消えたが、笑いは残る》ってそんな珍しいことでしょうか?

というより人間の社会では、ごくごく当たり前のことじゃないんでしょうか?
《ある人が居なくなったが、その人の○○○は残っている》とでも書き換えたら、解り易いでしょう。
別にある人と人に限定せずに、ある○○であっても十分通用するでしょう。笑いと言うから奇妙な感じを抱かせますが、これをチェシャ猫のした創造活動なり行動とすれば当然のことと了解できるでしょう。

さてルイス・キャロルがそこまで考えて、この一節を書いたかどうかはわかりません。しかしながら、『不思議の国のアリス』をのんびり読みながら、ここはこんな風に読んだらおもしろいよなどと考えていくのも結構面白いです。
米国にも Martin Gardner なんて物好きがいて、あれやこれや膨大に蘊蓄を傾け射ていますので、それを傍らに置いて『不思議の国のアリス』を読んでいくのも一興です。

◎ Martin Gardner “The Annoted Alice” Bramnhall House book
“Alice's Adventure in Wonderland” & “Through the Looking Glass”
by Lewis Carroll illustrated by John Tenniel
◎ 別宮貞徳『不思議の国のアリスを英語で読む』ちくま学芸文庫


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