楳図かずお追悼 平成ヒトケタ時代「後楽園遊園地 楳図かずおのお化け屋敷」の全貌
まことちゃんに14歳、トラウマを構築する漫画家
楳図かずおがお亡くなりにならはった。
名状しがたい不安感に覆われたギャグマンガ「まことちゃん」。
妙に美男美女が揃った一家。本人もイケメン(さすがに当時そんな便利な言葉はないが)で通じる顔立ちのはずながら、いつも洟を垂らす。その目は虚空を映すかのように大きく見開かれる。
まことちゃんとの出会いは小学校時代だった。確か9歳の誕生日の折。友達からの誕生日プレゼントでその単行本をもらった。子ども向け漫画と言えばドラえもんに学研のひみつシリーズしか知り得ない品行方正?な少年時代が終わりを迎えた。
子どもならではの残酷趣味でアリの巣をほじくり返すまことちゃん。家に白人の女の子がホームステイするとて、社会の窓を開け放って帰宅するお父さん。アバズレ美人?お母さん。その遺伝子を受け継いだ美人の姉が、朝食にレモンティ飲む。
レモンティーを飲む姿が何故かトラウマ。松谷製菓のイメージキャラ・マッチョメマンがトラウマ。
あまりにも多感すぎる中学校時代を経て高校、そして浪人時代あたりは「14歳」
遠い未来世界の養鶏は鶏一羽をまるまる育てるのではなく、「部位」のみを育てる。胸肉なら胸肉のみ、モモならモモのみを培養液の中で育てる。
そんな培養液の中のササミから突然変異で生まれた知的ミュータント鷄「チキンジョージ」。目覚めた彼は人間の運命に翻弄され単なる食物のために培養されていた自身、そして同族、さらには人間に使役され狩られ滅ぼされゆく動物の運命を呪い、「人類滅亡」を心に誓うのだが…
ドロドロトラウマな世界をフッと忘れた状況のちの数年後、またしても「楳図かずお」に奇妙な再会することになった
平成ヒトケタ時代夏。
ところは後楽園ゆうえんち。敷地の南端にそれはあった「楳図かずおのお化け屋敷」。もちろん、楳図かずお氏プロデュースであるところのお化け屋敷である。
お化け屋敷には物語がある。
時は戦国時代。武蔵の国に安土清高という眉目秀麗な若侍がいた。彼はかねてより美沙という美女と心を交わしていた。だが仕える主君から縁談を持ち込まれる。相手の名は蛭子姫。主君の一人娘だ。その蛭子姫たるや…吹き出物に覆い尽くされた頬はコケ落ちてドロリと垂れ下がり、目のみが炯々と光るオゾましさ。外見が醜ければ内面も醜いというお墨付き。結局、清高は主君よりの縁談を断り、美沙と祝言を挙げる。
主君の縁談を反故にしつつも武勇を謳われる清高は、屋敷を賜る。新婚家庭、スイートホーム(大正時代の新語、流行語。夢野久作の怪奇小説でも使われてるが既に死語)だったはずだ。だが…
あえなく捨てられた蛭子姫、包蔵されたる怨念がにじみ出し…美しい美沙は得体のしれない病で二目と見れないおぞましい御面相に、清高は発狂、そして呪いは世代を超えて平成ヒトケタ時代の現代にまで及ぶ
そんなお化け屋敷に私は入った。
客として入ったのではない。お化け屋敷のアクター、つまりお化け役のバイトとして就業したのである。取り持ちは大学の友人、奇矯というにはあまりにも奇矯、例えていうならば「生きた阿片窟」とでもいうべき誉め言葉の友人のつながりである。
すでに30年近く昔の話ゆえ、ここでばらしてしまってもいいだろう。
平成ヒトケタ時代後期。「楳図かずおのお化け屋敷 安土家のたたり」つまりお化け屋敷アトラクションの全貌である。
まず外観。
有能な武士が主君より賜った屋敷、の設定そのままに武家屋敷風である。
だが棟の上には楳図かずおの画風そのままに、怪異におびえる若侍の夫婦、デロデロにおぞましい蛭子姫の看板がある。
とりあえずは前に並ぼう。入口むかって右には券売機。さらに置いて…原寸大の楳図かずお人形。赤白ボーダーの長Tシャツそのままのコスチュームで安土家の祟りの口上を述べる。内部は機械仕掛け故、微妙に手と口元がフッフをうごめく。
怖いですねぇ
いよいよ安土家、邸宅内へ。
エントランスはまず階段を上る。平成ヒトケタ時代の事とて、バリアフリー対応でないのは仕方がない。だから乳母車や車いすでの入場はできない。ゆえに歩行者のみが恐怖に苛まれる。
階段を上がれば武家屋敷風に、畳を敷き詰めた玄関。目の前には薄黄色の単衣を着た腰元、結い上げもしない洗い髪を束ねた姿で三つ指をつく。日本式に、ゲイシャニンジャサムライハラキリに憧れた外人さんがイメージするニッポンそのまま。
ここまでを入場者が目にできる位置に入場者が入場するや、赤外線でセンサーが反応する。
腰元が絶叫する
「ダンナ様が狂乱なされましたぁ!」
口元をアグアグわななかせてバタリとつんのめる腰元。背中は日本刀で深々と刺し連ねられる。同時に板戸が左右にズラリと開くけば
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