さらば、佳き日 茜田千
好きなマンガは1話目が印象に残っていることが多いが、「さらば、佳き日」はその中でも変わった印象が残っている。
本作品は一言で言うと兄妹の恋愛の話だ。
普通、兄妹愛といえば禁断のものでドラマティックだったりインパクトのある展開を想像してしまう。
しかし実際に読んでみるととにかく淡々とした印象を受ける。
引越しのシーンからはじまって、満開の桜の下ご近所さんに挨拶をする。
一見、幸せな新婚夫婦の希望に満ち溢れたシーンに見えるが、桂一と晃のちょっとした行動や言葉の節々から心がざわつく。
この2人はただの新婚夫婦ではないのかもしれない、ご近所さんにはもちろん、読者に対して何かを隠しているのかもしれないと思わせる。
結局2人から兄妹であることが明かされることはなく、母親からの電話で真実が明かされる。
「さらば、佳き日」が他の兄妹愛作品と一線を画しているのは2人の関係性だと思われる。
普通の兄妹愛の場合は、本当にこの感情が家族へ対する愛情ではなく恋愛感情なのかであったり、それを自覚した後どうやって兄(妹)と向き合っていくかが描かれることが多いが、本作品の場合、そのあたりのことは2人で結論が出ていて回想で少しずつ描かれていく。
例えば同じ兄妹愛を描いた吉田基已の「恋風」であれば1話目は生き別れた兄妹の再会からはじまるインパクトのある展開であるが、「さらば、佳き日」は全く逆ですでに通常は一番の見どころであるはずの恋愛を乗り越えたところから物語がはじまるのである。
この普通でない構成が個人的にとても好きで印象に残った。少し前に完結もして巻数も多くないので気になった方はぜひ読んでみてほしい。