ガラスの仮面
ペルソナは体験の積み重ね
Xデザイン学校5回目。最初にカリキュラムを配布されたときに一番楽しみにしていた回だった。でも蓋を開けたら、この講座を受け始めた頃に考えていたこととは全然違っていた。リフレクションのタイトルは未完の演劇名作漫画から拝借したが、講義の後からずっと、ガラスの仮面の「ふたりの王女」の練習風景と、いろんなところで目にしたり聞いたことがある演劇論みたいなものが自分の中で湧いてきた。
演出家・蜷川幸雄が俳優・高橋一生にこんなことを言ったことがあるらしい。
「演じる、というのは、他人になることではない。いつか為りえた自分になることなんだよ」
ペルソナというのは、ずっと、年齢とか属性とか嗜好とか好み、それらの集合体だと思っていた。でも、詰まるところそれは、「どういう体験をしたことによって獲得されたものか」という結果であって、もともとあった素質に左右される面はあるにせよ、その人のクロニクルみたいなものなんだ、と思った。
ガラスの仮面・ふたりの王女編は、天才たたき上げ北島マヤと演劇界のサラブレッド亜弓さんが、一見属性にそぐわない配役を受けて(読者からすると、素質の上では合っている)、二人の生活を入れ替え、そこで得られる感覚の再現をベースにして役作りをしていく。体験が「人格」を作るエピソードだ。
私が絶対相容れないと思っているタイプの人であっても、同じ体験をしたら、自分もそうなっていく可能性はあるのだ。
だからやっぱり、「行動」を「観察」して「内省」によって得られるものを見つめないといけない。全部はつながっているのだ。
32歳・男性・エンジニアと28歳・女性・デザイナーの話
私が初めてペルソナを作ってみる体験をしたのは、IBM主催のデザイン思考のワークショップだった。私のグループは、50代の男性が2人、20代男性が
1人、私(30代女)で構成されていて、「車を買う」という体験について、デザイン思考のプロセスで一通りサービスを考えてみましょうというものだった。
最初にペルソナ設定(年齢、性別を決めて似顔絵を書く)をしてくださいとなり、グループでどうしましょうねぇとなった時に、50代男性が開口一番言った。「50代男性で」
すぐさま、もう一人の50代男性が賛成し、そのままペルソナはそうなった。
本当の意図は聞いてないのでわからないけども、その場で思ったのは
「自分じゃん」だった。
その後、共感マップを作ったり色々してる間も「この人はそう見られたいんだろうなー」と思って見てしまった。
もちろんワークショップだったので、仕事の現場で全く同じことが起こるわけではないだろうというのもわかってはいるが、人はやっぱり自分の体験で出来ている以上、そこの判断基準にだいぶ影響されている、ということを意識していないと、自分がデフォルトになってしまうんだろうというのは感じた。そう思うと、ダイバーシティ的な観点も重要だろうと思ったし、まずはファクト、まずはデータから、というのを忘れてはいけないというのも思った。
サービスは自分事、ペルソナは必然性
自分事になっていないサービスは、ビジョンがなく共感のストーリーを生まない、だからサービスは自分事の課題に関するものにしなければいけない。一方で、ユーザの声からサービスは生まれない。ユーザにより過ぎるとサービスは矮小化する。
一通り考えてみると、そりゃそうだという点もある。
受講前は、ペルソナはずっとニーズを探るものだと思っていたけれども、そうではなくて、「このサービスは、こういう体験をする人には、はまる」という必然性を見つけるものなのではないかなと思った。そのペルソナの生活上の空白地帯というか、サービスが選択肢としてあれば、選ばないはずがない、というところを探るというか。
そう思うと、ステレオタイプが良いというのも腑に落ちた。「こういう人あるある」をたくさん見つけられる方が、その人の行動は予測しやすい。
演劇論の話に戻ると、面白いドラマは決まって、登場人物「全員」の行動に矛盾が無くて展開が必然的だという話を友達としたことがある。翻ってイマイチなものは、主役を際立たせるために、脇役が主役にとって都合のいいふるまいをしたり(ひどいとその為だけの登場人物が増えたり)、なんかよくわからないけどうまくいきました、チャンチャン、みたいな展開のものだ。
ビジネスも同じなのではなかろうかと思った。プラットフォーマー、デベロッパー、ユーザーの全員の思いや行動に矛盾がなく、それぞれが満足できるものが結局「美しい」のはないか。そう思うと、サービスデザインは、フィールドとプレイヤーを整理して、壮大なストーリーを描くこと。ああ、だから「シナリオ」法なんだな。
おまけ
ガラスの仮面を読み返していたら、マヤが役をつかんだときに
「やれる…やれるわ…〇〇(役)をやれる…!!」とつぶやいていて、早く私も
「やれる…やれるわ…UXデザインをやれる…!!」の域に行きたいなと思った。
個人的には亜弓さんの生き方が好きで(気に入った役しか引き受けないが、一度受けた役はどれも完璧にこなす、華やかに見えてものすごい努力の人)、仕事で辛くなったら亜弓さんのことを思い出していることが多い。