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昭和ライダーエレジー10

ヤマハGT50か?ホンダXE50か?
悩んでる時点で俺には原付バイクで
日本一周を目指すのは無理かも
知れないと思えたあの日


※このお話は、俺が高校生だった頃、1977年
(昭和52年頃)の物語ですが、フィクションの
為、登場する人物、団体等は実在するものと
一切関係ありません。

最終話

前田ん家をあとにした俺は特に用事がある訳ではなかった。が、早く帰りたかった。
前田ん家は俺の住んでる所より二つ隣の市で
駅数にすると8〜9駅程度だが、まぁ〜ひと駅の間が長いから結構な距離になるんだ。
健康の為、ひと駅分は歩きましょう!
なんてのが、一時期アピールされてたけど、
田舎でそれをやったら地獄を見るよ!
それほどまで遠い道中を急ぎながら、
改めて考えていた。
「クソぉ、やっぱ運転がし辛いわァ。
手首はつりそうになるし、Vハンで走ってたらお巡りに停められて捕まるし、
ええコトなんかあらへんのに、何で皆んなは
真似したがるんやろ?
ノーマルが一番そのバイクが持っている
ポテンシャル(足付き性に関しては人それぞれなので、シートのあんこ抜きはありだと思う)
を引き出せるのに…………..」
そんな事をブツブツとしゃべりながら、
街角のショーウインドウに映る、信号待ちを
しているVハンのXEを俺は見ている。
確かにこの一瞬を切りとらえればカッコいいとは思う。でもなぁ………。
辻のミニトレにしろ、このXEにしろ、
手に入れたらノーマルに戻すか………。

自分の家の近くにようやく戻って来たのは
夜8時を回っていた。

「やっぱり遅くなってもうたな!」
駅前の商店街でも9割ほどがシャッターを
降ろしているのでかなり遅く感じるが、
実際は先ほど書いた時刻だった。
俺が住んでる新興住宅地にはカズキンや
マサやん、ヒーちゃんもいる。
その住宅地の裏山近くに、
表面がデコボコの石垣が置いてあった。
横5m、縦2.5mほどの大きさ。
野球の独り練習の壁当てにもってこい。
カズキンがよくやってたなぁ。
って、おい!カズキンが練習してるわ!
「お〜い、カズキン!こんな時間に……。
しかし、好きやな、その練習。飽きひん?」
「お〜、今帰りか?おっ、これか、言うてた
XEは?こいつもまた己を主張してんな!」
壁当ての手を止め近づいて来て言った。

「これか?やないで。何時やと思てんねん。
近所迷惑ちゃう?しっかし、野球部でも
ないのに熱心やなぁ、昔から。
なぁ、今からでもええから本気で野球を
やったらどう?」
半ば本気で俺は言った。
「毎日のルーティンやからな。歯磨きと
同じや。本気で?今から?ムリやて、ムリ!
そんなにプロは甘ないで!」
カズキンは謙遜してるけど、ヤツの凄さは
気付かれてないだけで、俺は知ってる。
その辺の高校球児、ううん、なんなら有名校のヤツらより遥かに上手い事を。
プロだってあながち夢物語じゃない!
幼稚園児の時から一日も休まずに続けた
壁当て。
それだけでもリスペクトでしょ!

「今帰りやろ?良かったらちょっと運転させてくれへんか?ちょっとでええから」
「ええよ。どうせならトモんち行こか?」
「お〜、そないしよ。俺もそろそろ終わりに
しようと思てた」
「よし、ほな行きましょか!」
俺とカズキンはニケツしてトモの家を目指す
事となった。
小さ目なサイズのXEは二人を乗せているけど
さすがのホンダ、パワフルだ。

カズキンの練習場を抜け、裏山を過ぎると
辺り一面田んぼが見渡せる中、新しく綺麗な
一本の道路に出てきた。
農免道路という農業用道路だけど、普通の
道路と変わりはない。

すると運転していたカズキンが
「どーもあの先で検問やってるみたいや」
と話しかけてくる。
「ほんまか?あちゃ〜、どうする?」
二人がどうするか考えている間にも
検問に近づいていく。
カズキンが
「しゃーないわ、止まるで」
と、言ったので俺も仕方がないかと思った。
その時にカズキンが警ら隊の中に三木巡査の
顔を見つけたんだ!
「そこの二人乗りのバイク、ただちに左に
寄せて停めなさい!」
って言われたからか、カズキンが
「スギ………………逃げよっか?」
「はぁ?逃げるって………………逃げよ!」
ソロソロとスピードを緩め、パトカーの
横まで来た時に、中に誰も乗っていない事を
確認した。
そこからのフル加速逃亡!

「待てぇ!」
俺たちがスピードを緩めた為、停まるものと
思い込んだお巡りたちの初動が遅れた。
おまけにパトカーの向きを変える為の切り返しに手間取り、二人との差が付いて、距離が開いてしまった。

農免道路はアップダウンがかなりあったので
パトカーのライトが上下しながら追尾して
来るのがバックミラーで見える。
「カズキン、とりあえずライトは消せ!
ヤツ等との差はひと山分あるから、
ヤツ等のライトが上を向いて照らしている間は向こう側の坂の下までは見わたせへん。
そん時はあぜ道に逃げ込もう!」
「おぅ、分かった。ここからトモんちまで
逃げりゃええんやさかいな!」
「よし、今や!あぜ道に入れ!」
ニケツのXEはあぜ道に入る。
しかしヘッドライトを消してのあぜ道の
運転はマジきつい!
田んぼだらけの所には街灯なんかないから、
本物の真っ暗闇!

田園地帯にエンジン音だけが響いている。
なのにパトカーのライトが上下しながらも
追いかけてくる!何故?

田んぼのあぜ道に沿って左右に曲ったりして相手を誤魔化していたんだけど、それは
単なる " つもり " だった。
カズキンの手もとがたまたま見えたんだ!

あいつ、あぜ道を曲がる度に、それはそれは
律儀にウインカーを出してんねん!
真っ暗闇にオレンジの点滅。
そら、追いつかれるわ!
「おまえ、何してんねん!何の為にライトを
消して、あぜ道を走ってると思うねん!
アホ丸出しやな!」
「ついクセで………。すまん!」
たしかコイツはA型で生真面目なヤツやった。
にしても…………。
まぁ、それからはウインカーも出さずに、
なんとかトモん家へ逃げ込めた。

こんな事ばかりだった青春時代。
多分皆さんにも大なり小なり、似かよった
事があったのではないでしょうか?
若さゆえの行き当たりばったり。
その日良ければ全て良し。
明日の100より今日の10!
なんて生活だったので計画的な日本一周など
無理だったな。
だけど、今こうして還暦を過ぎたけど、
夢はまだ捨ててはないよ!
まだこの年なら打席に立ってもいいだろ?
一打席くらいは。

どこかでミニトレかXEに乗って日本一周している還暦のオッサンを見かけたら
声でも掛けてや!
                  (完)


最後までお読み頂きありがとうございました

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